Lv1の侍がワードナを倒す そんな無謀を『小説ウィザードリィ』で可能にした著者ベニー松山の思惑とは

ベニー松山 @BennyMatsuyama

今日の暖かな秋の空気に記憶が蘇った。30年前の今頃、『隣り合わせの灰と青春』の最後の仕上げに、目黒不動そばの旅館に自主カンヅメをしていた。クラスチェンジ直後のレベル1サムライの分際で大魔導師ワードナのダンジョン最下層に潜る、無謀なる作中主人公のような、21歳の青二才が文豪気取りで！

ベニー松山 @BennyMatsuyama

連載中も「レベル1で地下10階に行くヤツはいないだろ」としばしば指摘されたのであるが、思い返すと私は、元となったウィザードリィの中で“可能である”ことをベースに小説の骨子を考えていた。HPがあって、ダメージ安定のカシナートの剣を持ち、高レベルキャラのお守りつきのパワーレベリングならば？

ベニー松山 @BennyMatsuyama

さらに道中で幸いにも村正を手に入れてしまったら？ 実際あれはアイテム固有の攻撃回数と高ダメージで、当たればレベル1でも巨人系を倒せた。ここに超幸運が重なったなら、転職直後のサムライを擁したパーティでもワードナに勝てるチャンスはあるんじゃないの？ ――と、当時の私は夢想したのである。

ベニー松山 @BennyMatsuyama

同様のパーティ編成で実際にトライして（勿論リセット技を繰り返したのであるが）、ワードナチームが最少の編成で、こちらの奇襲が決まり、バンパイアがディスペルか悪くても2ターン目のティルトウェイトで消え、バンパイアロードはジルワンで片付くからワードナに前衛が全力で斬りかかっていけば――

ベニー松山 @BennyMatsuyama

ワードナはジルワンを唱えてくるお茶目なところもあるし、ティルトウェイトのダメージが入らないでもないしで、結構な確率でイケるんじゃない？ という結論に達した。何より、これで生還できたならスカルダ君は道中の戦闘を含めてどれだけレベルアップするだろう？ と考えると楽しくなってしまった。

ベニー松山 @BennyMatsuyama

レベル1サムライがワードナ討伐――その構想は不可能じゃない。ただし小説にするにはその無謀に踏み切らざるを得ない動機が要る。そのために組み込んだのがアクシデントによるパーティの離散だったり、ライバルパーティとの人間関係だったりした。それを青二才がウンウン唸って纏めようと足掻いていた。

ベニー松山 @BennyMatsuyama

結局目黒不動での自主カンヅメはさしたる成果が上がらなかった。失意のエセ文豪の若造は「前に書いていたことすべてが伏線のように思えてきて詰まってるんですよぅ」と泣き言をほざいたが、担当編集（当時）の平林久和氏にそのまま今度は愛宕山の東急インに放り込まれた。Jicc版著者近影はその時撮影。

ベニー松山 @BennyMatsuyama

そうやって搾り出すようにして『隣り合わせの灰と青春』は脱稿した。ただ、あの頃はテキスト入稿もできずワープロも使い勝手が悪く、400字詰め原稿用紙に手書きだったため、そのあとに待ち構えていた校正の誤字脱字修正が地獄だった。結局修正が反映されないまま本になってしまった箇所も多数あった。

ベニー松山 @BennyMatsuyama

現在気軽にお手にとって頂ける幻想迷宮書店発行のKindle版『隣り合わせの灰と青春』は、この若き日の不手際たる誤植の数々をネチっこく潰してアップデートした完全版でもあります。unlimited読み放題やAmazon Primeの月一冊無料にも含まれているので、どうぞこの秋の夜長に！ gensoumeikyuu.com/gn68/