ドラゴン・インストラクション #8

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ドラゴン・インストラクション】#8

2018-10-07 21:28:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「シューッ……」彼女が息を吐くと、微かに肩が動き、震え、装甲のUNIXライトが深海めいて暗く穏やかな燐光を放った。アグラ・メディテーション姿勢でイサライト・アーマーが動かずにいたのは何分ほどであろうか。決して長くはない時間だが、ザルニーツァにはそれで十分だった。 1

2018-10-07 21:31:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女は八角形のアグラ・ドージョーに座している。頭部アーマーの視界に、壁越しに近づいてくる姿の輪郭と、認識IDが表示される。ヒダリだ。シンウインターの小姓めいたウキヨの一人。「ドーゾ」ザルニーツァのほうから声をかけた。ファオー。笙リード音が鳴った後、「気」の掛け軸が上がった。 2

2018-10-07 21:33:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

掛け軸の裏は隠し戸口だ。「ゴキゲンヨ」美しい男装の女性型ウキヨが外から頭を下げた。「問題ない」ザルニーツァは答え、立ち上がった。「ボスとカシマール=サンには醜態を晒してしまったことだ」「それが人間です。お気になさらず」ヒダリは無表情に言った。ザルニーツァは装甲の下で笑った。 3

2018-10-07 21:37:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「メディテーションはもうよろしいのですか」「十分だ」「カークィウス=サンとサイグナス=サンが敗れました」「……二人が?共にか?」「ニンジャスレイヤー。そしてサツバツナイトと名乗る協力者。この二人組のニンジャです。この火山内に侵入を果たしております」「……そうか」 4

2018-10-07 21:42:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二者は通路を並んで足早に進む。「私を呼びに来たのは、それか」ザルニーツァは来たるべきイクサに意識を向けた。ニンジャスレイヤーの恐るべき連続攻撃。このザルニーツァをして虚をつかれるほどの凄まじいカラテだった。だが、二度はない。殺し損ねたことがニンジャスレイヤーの失敗となるだろう。5

2018-10-07 21:45:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

あのとき彼女を助けたスノーマンは既に亡く…そして、カラテを鍛えたサイグナスも死んだという。「面白いな」彼女は呟いた。ヒダリは聞き返さなかった。奥ゆかしく黙ったのか、初めから興味がないのか。ザルニーツァはゾーイへの同情を嫌悪し、己の未熟を嫌悪した。無駄を捨て、己を刃と化すべし。6

2018-10-07 21:50:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

身の丈に合わぬ激情に身を任せた結果、くだらぬ恥だけが残った。この一連の出来事はさながら啓示であり、試練だ。己がもう一段階上のニンジャとなる為の。「ニンジャスレイヤーの進行経路は割り出しているか?」「はい」応答と共に、彼女の装甲視界にワイヤフレーム地図と光点が映し出される。 7

2018-10-07 21:54:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「迎撃地点……」「氷の間にお連れします」ヒダリが言った。ザルニーツァはヒダリを見た。「私が直接ケリをつける。それで済むことだ」「ボスがそのように」「何故だ」「時が満ちたり、カシマール=サンの言葉が電子的に裏付けられたと。共に見届けよと……」「……そうか。ならば、敵はどうする」 8

2018-10-07 22:00:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「最終的には、排除します」ヒダリはザルニーツァに言った。「……貴方と、我々とで」「そうか」回廊から螺旋路へ。人の手でつくられたとは思えぬ水晶じみた氷壁のトンネルを経由し、やがて二人は闇の中にエントリーした。中央にソファがあり、TVがあり、シンウインターが座っていた。 9

2018-10-07 22:03:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「来たか」シンウインターがゆっくりと首を巡らし、ザルニーツァを見た。「かわりないか?」「先程は見苦しいところを」ザルニーツァはオジギした。「ンッンッンッ。頼もしい娘よ。流石だ」「サイグナス=サンとカークィウス=サンが敗れたと」「……然り。強い憂いの感情が俺の胸を満たしている」 10

2018-10-07 22:06:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「本心を申せば、今すぐ決着をつけにゆきたいところです」ザルニーツァは率直に言った。シンウインターは頷いた。「焦るな。ここに奴らが辿り着いたならば、ここで殺せばよい。あるいは……ンッンッ、途中でくたばれば、それでもよい」彼は闇を見た。ミギが現れた。ゾーイを伴って。  11

2018-10-07 22:10:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「40時間働いた」「休憩時間を小刻みに」無機質な会話が遠くから聞こえてきた。狭いダクト内でコトブキとシキベは顔を見合わせ、息を潜めて、網目ハッチから下の通路を注視した。「始業前の準備時間に整えましょう」「十分前着席しましょう」会話しながら完全武装のクローンヤクザが二人現れた。 13

2018-10-07 22:16:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトブキは力強く頷く。シキベがゆっくりと網目ハッチを外す。コトブキはタイミングをはかり……跳び下りた。そして!「ハイヤーッ!」「グワーッ!?」「ハイハイッ!」「グワーッ!」カンフー掌打!もう一人に突き刺すようなカンフーミドルキック!クローンヤクザは壁に叩きつけられ戦闘不能! 14

2018-10-07 22:20:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そしてカンフー・ザンシン!「……!」二秒のクリアリングを経て、上のシキベを手招きする。シキベは続いて跳び下り、戦闘不能クローンヤクザを見る。「壮絶ッスね」「はい、恐ろしいヤクザ兵たちです」「コトブキ=サンのカラテッスよ」「修行の賜物です!」しめやかに前進! 15

2018-10-07 22:22:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

進んだ先にショウジ戸があり、「倉庫」とある。慎重にショウジ戸を引き開けると、確かにその中は無人の小さな倉庫だ。二人は忍び込み、イクラやコカインを満載した木箱を見ながら一息ついた。「二人はうまく切り抜けられているといいんスけど」「大丈夫です。確かなカラテですから」「成る程」 16

2018-10-07 22:27:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シキベは携帯端末で進行ルートを確認する。『いいぞ。そのまま道なりに進め。でかい空間があるからよ』タキがIRCで喋ると、端末のLEDが明滅した。シキベの横で、コトブキはウエットスーツを脱いだ。下からシャープなタキシード姿が現れた。「いよいよ敵の非道行為の現場が近いわけですね」 17

2018-10-07 22:33:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コトブキは白黒監視カメラ映像を思い起こし、拳を握りしめた。「許せない行いでした。と同時に、あの映像では被験者を攻撃して連れ戻す監視役のニンジャが見られました。ニンジャを相手に通常の戦闘で切り抜ける事はできないでしょう。気を付けねばなりません」「しっかりしてますよコトブキ=サン」18

2018-10-07 22:38:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキとの短いブリーフィングを行ったのち、二人は再びショウジ戸を開けて通路に戻り、しめやかに前進した。前方で空間が開けた!「……!」「……!」二人は思わず言葉を失う。無機質なコンクリート打ちっぱなし空間……低い天井を地下駐車場じみた柱が支え、床には等間隔に……おお、ナムサン! 19

2018-10-07 22:41:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

床には等間隔に長方形の穴が切られ、中にはチューブに繋がれた人間が仰向けに横たえられている!プロココココ……プロココココ……。聞こえてくるUNIX駆動音すらも冒涜的な響きを帯び、吹き抜ける生ぬるい風は二人にこれ以上の恐怖的出来事の予感を示唆するのである! 20

2018-10-07 22:43:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブオウー!ブオウー!汽笛は激しく鳴らされる!朝焼けの色彩とオーロラが重なり合った異常な空の下、シトカの船団は続々と港に接岸した!ブオウー!ブオウー!ブオウー!海辺の家々に住む市民たちはあまりの騒音に仰天し、依然継続する抗争を恐れて窓から覗いた後……驚きのあまり走り出て来た。 22

2018-10-07 22:48:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエ!」「漁師?」「漁師ナンデ?」「海の奴ら何故?」「大漁!?」「遠洋漁業帰還!?こんなにも?」「遠洋だけじゃないぞ!地元も!」彼らはただ驚愕に目を剥いて、海辺に集まってくる。ヤクザへの恐れを、あまりに奇妙な船団への感嘆と畏怖が塗り潰している。 23

2018-10-07 22:51:08