Erotic Love ～ PLEIADES ～

夢乃 @iamdreamers

（あ、この曲、いいかも） わたしは問題集に走らせていた手を止めて、傍に置いたタブレットに表示されているボタンに触れた。マルチコンテンツ投稿サイト・エブリシングの音楽動画から、新着投稿の先頭三十秒ずつを流していた画面は、今流れている音楽動画のリピート再生に切り替わった。 #twnovels

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シャープペンシルを置いて動画に見入る。キーボード、リードギター、ベース、ドラムスにツインヴォーカルの六人構成のユニットが、初めて聴く曲を演奏している。全員、目を隠すマスクをしているので顔は判らないけど、全員女性、いや、女の子。わたしと同じくらい、ううん、もう少し下かも。 #twnovels

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ある程度の練習は積んでいるのだろうけれど、素人目に見ても（素人耳に聴いても？）、技術的には拙いと言わざるを得ない。けれど、みんなのびのびと演奏し、歌っている。同じ服装のヴォーカル二人は双子なのかな？　顔は隠れているけれど、よく似ているし、動きが完璧にシンクロしている。 #twnovels

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それに、いい歌声。下手なアイドル歌手よりも上手いんじゃないかな。けれど、それにも増して巧いのが、キーボード。プロで活躍している人が正体を隠して投稿している、と言われたら、信じてしまいそう。本当のプロから見たら、まだまだなのかも知れないけど。 #twnovels

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しかも、他のメンバーの技量に合わせた演奏をしているように聴こえる。だから、聞き流していたらキーボードの技巧に気付かないんじゃないかな。この娘が本気で弾いたら、辛うじてついていけるのはヴォーカルの二人だけじゃないかな。この娘の本気の演奏を聴いてみたい。 #twnovels

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何度かリピートしたところで、再生を続けたまま、このユーザーの投稿リストを表示してみる。ユーザーの名前は“Ｌｉｔｔｌｅ　Ｐｒｅｔｔｙ”。このユニットの名前かしら。こんな名前をつけるなんて、みんな容姿によほど自信があるのか、逆に、自信がないからマスクで隠しているのか。 #twnovels

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それはまあ、いい。これまでにこのユーザー、このユニットが投稿したのは、三回だけ。週一で投稿しているから、まだ始めたばかりなのだろう。再生を止めて別の曲も聴いてみる。三曲だけだけど、次第に曲が向上している。この短期間で目覚ましい進歩。・・・とまで言ったら言い過ぎかな。 #twnovels

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最初に聴いていた曲に戻って、演奏の動画を観ながら聴き入る。数が増えていったら、エブリシングの人気コンテンツになるんじゃないあな、うん。特に、このキーボードの娘。巧いだけじゃなくて、わたしとフィーリングが合いそう。なんとなく。この娘と一緒に、演奏したいな。 #twnovels

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☆　☆　☆　☆　☆　☆　☆ #twnovels

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わたしがドラムを叩き始めたのは、半年くらい前のこと。わたしの通う中学は、ごく普通の公立の割には妙に進学意識が高くて、先生たちはみんな高校への進学率、というより難関校への進学率を気にしている。それが生徒にも伝染していて、中二の二学期の頃から受験勉強みたいな雰囲気になる。 #twnovels

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それが普通のことなのか、それともこの中学だけが特殊なのか、他の中学に通ったことのないわたしには判らなかったけど、でも、わたしはその雰囲気に呑まれた。らしい。『らしい』と言うのは、その頃自分の状態を自覚していなかったからで、従兄に言われるまで自分の様子に気付かなかった。 #twnovels

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気付かなかったのは近くにいた両親も同じで、それから考えてもわたしのその変化は緩やかだったのだろうと思う。気付いた、というより気付かされたのは、普段はお正月やお盆にしか会わない従兄が、間も無く春休み入ろうかという中途半端な時期に訪ねて来た時。 #twnovels

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わたしの部屋で二人きりになった途端、「昴、お前、悩み事でもあるのか？」と切り出した従兄にわたしは面喰らった。 「はい？　ううん、特にないけど？」 そんなわたしを、従兄はじっと見つめた。異性として意識していなくても、そんなに見つめられたら恥ずかしくなってしまう。 #twnovels

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視線を逸らしたわたしに、従兄は続けて言った。 「正月に会った時、妙に元気がないようだったから気になってたんだけど、やっぱりお前、前と違うよ。全体的に沈んでる。正月は疑念程度だったけど、今日来て確信した。本当にお前、何もないのか？」 #twnovels

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そう言われても、自覚がないから首を横に振るしかない。 「自覚はない、か」 わたしが心で思ったことを口にして、従兄は腕を組んだ。 「じゃ、お前、最近、そうだな、去年の夏以降、変わったことないか？　お前自身じゃなくても、周りの環境とか、友達とか、家の中でも」 #twnovels

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「うーん、ないと思うけど・・・去年の夏・・・うーん・・・強いて挙げると」 「心当たりあるか？」 「まあ・・・夏休み終わって少ししてから、学校のみんな、受験モードにはいった、かな？」 「受験モードって・・・まだ中二なのに？」 「うん。ウチの学校、毎年そうみたいよ」 #twnovels

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「俺からすると信じられんな・・・」 大学に入って一年を迎えようという従兄は軽く首を振った。わたしの通う学校の受験に対する意識が余所と違うのかも？と思ったのは、この時が初めてだった。 「それで、昴も受験勉強始めてるのか？」 #twnovels

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「うん。受験勉強って意識はあまりないけど、みんなやってるから、勉強量は増えたかも」 「・・・それがストレスになってるのかもな」 従兄は考え込むように言った。 「そうかな？　そんな気はしないけど。お父さんもお母さんも何も言ってないし」 #twnovels

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「一緒に暮らしていると見えないこともあるよ。逆に、一緒に暮らしてないと見えないこともあるけどな。兎に角、お前は変わったよ。おとなしいのは前からだけど、いつも笑顔だった。でも、今年の正月はほとんど笑ってなかったからな。気になったんだ」 #twnovels

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ほえ？　わたし、笑わなくなった？　って言うより、前はそんなに笑っていたっけ？ 「一時的なものかと思ったけど、気になったんで今日来てみたんだよ。そしたら、正月ん時より酷くなってるから」 そんなに？　確かに、勉強してて（疲れたなぁ）って思う時はあるけど。 #twnovels

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たまにしか会わない従兄が心配になるほどに疲れてたのかな。 「よし」 わたしを前にしてうんうん唸っていた従兄は、顔を上げた。 「ちょっと出掛けよう」 「え？　今？」 「そう。すぐに」 「出掛けるって、どこへ」 「それは着いてからのお楽しみ。それとも、外せない用事でもあるか？」 #twnovels

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「ないけど」 首をすぐに縦に振れなかったのは、従兄の口調にいつになく強引な響きがあったから。こんな強引な人だったっけ？ 「善は急げ。ほら、支度して。俺は先に下に行ってるから。叔母さんには話しておくよ」 勝手に決めると、従兄は部屋から出て行った。 #twnovels

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しばらく呆気に取られてしまったけれど、訳も分からないながらもわたしは服を着替えて、階下に降りた。どこに連れて行かれるんだろう？と思いながら。 #twnovels

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