人質の救済に関する現代日本社会とディアスポラ・ユダヤ共同体(およびイスラエル)の比較

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ブルー @blue_kbx

安田純平について 橋下徹「これだけの税金を使い政府に労力をかけさせたんだから謝るのは当然。玉川徹が『英雄』と言ってたが英雄ですかね。この状態で」 馳浩「見てる人は皆バカだとわかってる。3回も行ってるんだからバカの上塗りと一緒。それよりも救出されたプロセスを検証し次に生かすべき」 pic.twitter.com/1RAvknAzJo

2018-10-26 14:10:14
直立演人 @royterek

カタールが300万ドル(約3億3700万円)を本当に支払い、日本政府がカタールに相応の見返りをするとして、その額を日本の納税者が負担すれば、日本の納税者は6,112万人だから一人あたり5.5円ほどの負担になる。それでも謝れと言う。この国の人命の軽さは、そうした声の大きさに比例するのだろう。

2018-10-26 23:51:59
直立演人 @royterek

中世ヨーロッパ世界におけるユダヤ社会では、しばしば不当な濡れ衣を着せられたユダヤ人が監獄に入れられ、巨額の身代金を要求された。ユダヤ人社会はその都度有無を言わさず身代金をかき集め、人質を救出するための努力を惜しまなかった。これは選択的に行われたというよりは戒律として必ず行われた。

2016-03-23 11:30:46
直立演人 @royterek

身代金の要求がほとんど日常茶飯事だった中世から近世にかけてのヨーロッパのユダヤ人共同体では、有無を言わさず共同体を上げて身代金をかき集めた。つねに危険と隣り合わせにあったディアスポラ・ユダヤ共同体にあって、人名の重さは、身代金をかき集める熱意と労力の大きさに比例していたと言える。

2018-10-27 00:04:22
直立演人 @royterek

ハシディズムの伝説には、賃貸料を払えないユダヤ人がポーランド貴族の領地に幽閉される話が殊に多い。なかには、囚人にクマの毛皮を着せて宴席で「クマ踊り」をさせたという話まである。その話を聞きつけた義人が踊りをマスターして囚人の身代わりになり、賓客と主人を喜ばせて釈放されるという結末。

2016-03-23 11:34:00
直立演人 @royterek

「身代金の負担をめぐる現代日本社会とディアスポラ・ユダヤ共同体の比較」という駄文について、とある日系ユダヤ人の友人から「日本政府の怠慢さを炙り出したいのであれば、ディアスポラのユダヤ共同体とではなくイスラエル政府との比較の方がいいのでは」とのご指摘を受け、少しばかり考察してみた。

2018-11-01 02:13:44
直立演人 @royterek

自国民の誘拐に対するイスラエル政府の態度としては、麻薬密売取引にも関与していた元IDF予備役大佐のエルハナン・タンネンバウムのケースがたいへん示唆的である。詳細については、WikipediaのElhanan Tannenbaumの項目を参照: en.wikipedia.org/wiki/Elhanan_T…

2018-11-01 02:14:58
直立演人 @royterek

この破格とも言えるイスラエル政府とヒズボラとの間の「捕虜交換」(一人の犯罪者+3名の遺体⇔435名の囚人)に、日本大使館の外務省職員は心底驚いている様子だったが、ユダヤ的伝統における捕虜の奪還にかける執念と遺体の尊重にかけての徹底さについて知っていた私には、妙に納得できるものだった。

2018-11-01 02:19:14
直立演人 @royterek

この人物がヒズボラから解放された2004年、在日本大使館の専門調査員をしていたのでよく覚えているが、イスラエル政府は、文字通りの犯罪者だったこの人物の解放及びイスラエル兵士三名の遺体(!)の奪還のために、イスラエルが収監していた実に435名(!)もの囚人との「捕虜交換」に同意したのだ。

2018-11-01 02:16:49
直立演人 @royterek

ユダヤ人が国家の主となる以前と以後では、殊に(敵対的な)異教徒に対する(外的)振る舞いという点で、(よくも悪くも)大いなる断絶が認められるが、このおよそ不釣り合いな「捕虜交換」は、こと同胞の生命や遺体に対する態度の点で、むしろ連続性の方がはるかに強いことを感じさせる出来事だった。

2018-11-01 02:21:47
直立演人 @royterek

なお、タンネンバウムに同情するイスラエル国民こそほとんど見受けられなかったが、彼の救出のためにイスラエル政府が支払った犠牲を批判したり疑問視したりする声はほとんど上がらなかったし、彼が向こう見ずな行為によって人質になったこと自体を責め立てるような論調も見当たらなかったと思われる。

2018-11-01 02:24:18
直立演人 @royterek

以上は限られた見聞による印象に過ぎないかもしれないが、ただ、専門調査員だったこともあって、当時のイスラエル紙の記事には一通り目を通したうえでの印象であることをつけ加えておく。

2018-11-01 02:24:59
直立演人 @royterek

かたや、危険な紛争地で苦しむ人々たちの肉声を世界に伝えようとした職業的なジャーナリストに対する冷淡さを越えた毒々しい非難や呪詛の声には良識を欠いた悪意しか感じられない。

2018-11-01 02:25:50
直立演人 @royterek

ちなみに、ユダヤ教には「(危険時の)魂の救出」(pikuakh nefesh)と「遺体の尊重」(kavod hamet)という考え方というか戒律がある。前者は、生命の危険の際にはユダヤ教の戒律の履行よりも生命の確保を優先せよ、後者は、遺体は最大限敬え(場合によっては安息日の戒律を破ってでも)、というもの。

2018-11-01 02:31:49
直立演人 @royterek

ちなみに、当時、ガザにおける戦闘で戦死したイスラエル兵士の遺体の肉片をイスラエル兵士らが生命の危険を冒してまで奪還しようと努めたことがあった。その行為は「魂の救出」の点では逸脱としか言いようがなかったが、「遺体の尊重」という理念の点では、極めてユダヤ的だった。

2018-11-01 02:38:01
直立演人 @royterek

この時もまた外務省職員が首を捻っていたのを覚えている。というのも、前述の破格の「捕虜交換」にしても、イスラエル兵士による遺体の肉片の回収にしても、イスラエルの敵に対して、自国兵士の生命どころか遺体ですら将来の「人質」として利用価値が高いことをこれほど印象づけることはないのだから。

2018-11-01 02:48:34
直立演人 @royterek

翻って、日本政府が安田さんの救出に全身全霊で取り組んだ形跡はほとんどない。他方で、安田さんの非ばかりを責め立てる人の多くは、判で押したように、身代金を払えばテロリストを勢いづけるだけだという決まり文句で、一人の同国人をいとも簡単に見殺しにしようとする。どちらかより人間的だろうか?

2018-11-01 02:56:44
直立演人 @royterek

蛇足ながら、「魂の救出」というユダヤ教の戒律に鑑みると、生命が確実に危険に晒されるということが予めわかっている状況があった場合、そのような危険な状況下にわざわざ身を晒すことは、これに反する行為であるとも解釈できる。ただし、どの程度の危険かを判断するのはそう簡単なことではなかろう。

2018-11-01 03:03:50
直立演人 @royterek

その後、くだんの日系ユダヤ人の友人から返事があり、誘拐事件につながった安田さんの行動の是非についてユダヤ教のラビの見解を伺ったという。ラビによると、それは、pesh'a (罪)とまでは言わずとも、pshi'ah (軽率な行動)に当たり、同情に値しないだけでなく批判されて然るべきものだったという。

2018-11-05 23:10:23
直立演人 @royterek

その理由は、shmirat hanefesh(魂を守ること)というユダヤ教の戒律に反するからで、その根拠は、たとえば、「申命記」4章19節にあるという。なるほど、ユダヤ教的には、他者であれ自分であれ、命を粗末に扱う者は戒められるという原則が徹底しているということがよくわかる。

2018-11-05 23:14:41
直立演人 @royterek

そして、この原則は、目的如何にせよ(ジャーナリストとして、紛争地のような危険な地域にアクセスできない大多数の者に代わって、そこで起きている事柄を世界に伝えるという、社会的要請度の高い使命であっても)、いついかなる状況下でも当てはまるのだということもよくわかった。

2018-11-05 23:15:17
直立演人 @royterek

他人の命を粗末にする行為はもちろんのこと、自分の命も粗末にしてはならない、というのは、ユダヤ教に特有の生命倫理に基づくものといえるが、私自身もその原則には概ね賛同できる。しかし、安田さんをバッシングするような風潮が、このような生命倫理に基づいているとはとても思えない。

2018-11-05 23:21:10
直立演人 @royterek

安田さんが自らの命を危険に晒したことを否定できる者はいないだろうから、このような生命倫理の立場に立てば、批判されるのはしょうがない。しかし、このような立場から安田さんを批判する場合、「謝れ」などという言葉は出てきようがないのではなかろうか。

2018-11-05 23:24:25
直立演人 @royterek

たとえば、ユダヤ教のラビは、「おまえは自らの命をしたのだから、謝りなさい」などと言うだろうか。仮に「神の前」で赦しを乞うべきだと諭したとしても、「世間」に赦しを乞うべきだなどと言うことは想像し難い。

2018-11-05 23:26:38
直立演人 @royterek

安田さんの件に限らず、紛争地で誘拐されたり救済されたりした同国人に対する日本社会のバッシングの風潮(一部の声高な人たちに限られるにせよ)に強い違和感を覚えるのは、まさにこの点である。彼らを叩いたり「謝れ」と言い募る者達の「論拠」といえば、「迷惑をかけたから」、それだけでしかない。

2018-11-05 23:36:27