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2018年10月29日

燕の夢

創作文 1本
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晴れ時々雨 @rio11ruiagent

あるところに誰からも愛される一羽の美しい燕がいた。彼は花からも虫からも風からも愛されていた。姿は綺麗だったが親もなく一人で生きて来たので、自分以外を愛するということを知らなかった。そのことを特になんとも思っていなかったが、とある少年と出会ったとき、無性にその少年のことが気になった

2018-09-22 17:39:42
晴れ時々雨 @rio11ruiagent

人間の少年のことを来る日も来る日も考えた。声がすると彼の頭上を飛び回り、美しい声で囀った。少年は彼を可愛がったが、飼い猫にするのと同じだったのでへそを曲げて巣に帰ってしまった。燕は具合が悪くなった。胸が苦しく息も荒い。どんなに空気が澄んでも羽ばたく気になれなかった。

2018-09-22 17:39:43
晴れ時々雨 @rio11ruiagent

冬が来て南へ立たなければならないのに、枯れ葉をかぶって寝たきりになっていた。すると神様が現れて、そのままでは死んでしまうから早く南へ飛びなさいと言った。燕は力なく首を振る。僕はもう死にます、これまでです。神様は声を荒らげて彼を叱った。

2018-09-22 17:39:43
晴れ時々雨 @rio11ruiagent

与えられた命を全うせぬとは何たることか。しかし燕は神様を睨んで言い返した。あの少年の唯一になれないならこんな命はいらない、ただあの子に愛されたいんだ、と。燕は涙を流した。初めてだった。

2018-09-22 17:39:44
晴れ時々雨 @rio11ruiagent

神様は一息おいてから言った。おまえは少年を愛したのだな。その言葉が深く燕の胸に響いて涙があふれた。そうかそうかと髭をなで僅かに笑んでいる。一体どうしたらいいのでしょう、燕は問うた。神様はきりりと口を結んで、おまえにできるかな、と言った。

2018-09-22 17:39:44
晴れ時々雨 @rio11ruiagent

神様の言うことはこうだ。百年間毎日一つ少年のために何かをせよ。その間彼の前に姿を現してはならない。やり遂げれば何かがわかるだろう、そう言って彼方へ消えていった。

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晴れ時々雨 @rio11ruiagent

燕はまだできることがあるということを知って目を輝かせた。この方法は単純だが続けなければならない。一体いつまで?おまえがいいと思うまでだ。燕の心臓が跳ねた。それに、これをしたとして愛し返されるとは限らない。燕は黙って考え込んでいたが、やがて晴れた顔をあげた。やってみよう。

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晴れ時々雨 @rio11ruiagent

それからの燕は忙しかった。越冬するギリギリまで少年を見守った。南の地へ行っても彼の幸せを願った。春が来て少年の顔を遠くから眺めると暖かいものが込み上げた。僕もあの子も生きている。それが嬉しかった。夏は林檎を窓辺に置いた。少年が病気で苦しんでいるときは花を窓に飾った。

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晴れ時々雨 @rio11ruiagent

燕の羽根は少し色褪せたが、いつしか青年になった彼を見守るために健康に気をつけた。 70年目の秋に少年だった老人は床に就いた。燕は最期まで彼を見守った。窓の外でカーテンの陰に隠れながら、木枯らしを耐えていた。老人の声がする。あの燕は来ているかい?あの夏の林檎、うまかったなぁ

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晴れ時々雨 @rio11ruiagent

それを聞いた途端、燕は一瞬で幸せを知った。愛を知った。 生きてきたことの喜びを、愛するものに尽くせる喜びを思い切り感じた。 自分をこれほどまでに幸せにしてくれた彼に怒涛のような感謝を覚え、燕もまた、眠りについた。 燕は夢を見た。少年とふたり、広い野原を飛び回る夢を。

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