「トロイア戦争後に建設の古代都市」について

CNNの「トロイア戦争後に建設の古代都市、遺跡を発見」という記事について、気になったことを何点かツイートしました。 ポイントとしては、 ①都市じゃなくて「村」 ②住民“自称”トロイア人の子孫 続きを読む
テネア 遺跡 トロイア戦争 歴史 古代ギリシア
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CNN International @cnni
Greek archaeologists have uncovered the remnants of a city believed to have been founded by Trojan prisoners of war in the 12th or 13th century BC cnn.it/2DEPJFA
cnn_co_jp @cnn_co_jp
トロイア戦争後に建設の古代都市、遺跡を発見 ギリシャ cnn.co.jp/style/architec…
アザラシ提督 @yskmas_k_66
この記事、いささか「ロマンティック」な書き方の記事なので、多少の補足をした方が良さそうですね。 cnn.co.jp/style/architec…
リンク CNN.co.jp 4 users 111 トロイア戦争後に建設の古代都市、遺跡を発見 ギリシャ ギリシャの考古学者のチームがこのほど、同国南部に存在したとされる古代都市の遺跡を初めて発掘した。この都市は、トロイア戦争の捕虜だった人たちが紀元前13~12世紀に建設したとみられている。 発掘は南部のペロポネソス半島に位置する村の近くで行われた。出土した広範な種類の遺物から、テネアと呼ばれる古代...

今回発掘されたのは古代ギリシアの「テネア」という遺跡です。

アザラシ提督 @yskmas_k_66
まず、テネアの場所について。大まかに言うとペロポネソス半島の北東部。コリントスとミュケナイの間にありました。 図版出典: パウサニアス『ギリシア案内記(下)』岩波文庫 1992年 16頁、Wikimedia Commons “Peloponnese relief map-de” pic.twitter.com/AdQlMXLqaA
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アザラシ提督 @yskmas_k_66
この記事では「都市(city)」と書いてあるわけですが、古代の—と言っても紀元後6世紀になってからの—史料では、テネアは「村(κώμη)」だと書かれています。ポリスや都市ではなく、【村】です(ビュザンティオンのステファノス s.v. Τενέα) 。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
ただヘレニズム期には、独自の貨幣を発行するなどポリスのように振る舞ってもいたようです。今後の発掘で、道路やお墓に加えて市壁や体育場や広場などが見つかったならば、なるほどポリスとしての機能も持っていたのだろうと認められうることとなるでしょう。

cf. Head, B.V., Historia Numorum: A Manual of Greek Numismatics, Oxford, 1911, p. 405.

アザラシ提督 @yskmas_k_66
次に、「トロイア戦争の捕虜」がテネアを建設したことについては、確かにそういった伝承があります。紀元後2世紀のパウサニアスという人が書いた『ギリシア案内記』の中にそうした記述があります(2巻5章4節)。あるのですが…… 図版出典: パウサニアス『ギリシア案内記(下)』岩波文庫 1992年 42頁 pic.twitter.com/PdcOQ6Dyrs
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アザラシ提督 @yskmas_k_66
……テネアの人々はあくまでも【自称トロイア人】でした。少なくともパウサニアスはそのように理解したようです。ただ、そういう帰属意識を持った人々が当時その場所にいた、というのは実に興味深いことだと思います。

ついでに申し上げると、記事中の「[テネアが]トロイア戦争の後まもなく建設された」というのは待ったをかけたいと思います。そこまで断定できるような考古資料や古典史料はありません。

アザラシ提督 @yskmas_k_66
個人的に出土してほしいなと思うのは「シチリアとの関係を示す遺物」でしょうか。紀元後1世紀に『地理誌』を書いたストラボンは、シチリア島に渡ったテネアの人々がここで町を作ったと伝えています(8巻6章22節)。 図版出典: カートリッジ, P.『古代ギリシア 11の都市が語る歴史』白水社 2011年 110頁 pic.twitter.com/lhzcZqboL0
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具体的な年代を言えば、シュラクサイが建国されたとされる前8世紀半ば以降、アーケイック期の遺物が出てきてくれれば…!といった感じです(cf. Osborne, R., Greece in the Making, 1200-479 BC, 2nd. ed., London & New York, 2006, p. 83.)。建国伝承の史料としては、トゥキュディデス『歴史』6.3.1; 偽スキュムノス『周航記』279-282; アテナイオス『食卓の賢人たち』167d-e; 『スーダ』 s.v. Ἀρχίας; Jacoby, F., Das Marmor Parium, Berlin, 1904, S. 11, 94-95.

アザラシ提督 @yskmas_k_66
ストラボンの記述を裏付けるもの、とまでは言えないでしょうけれど、古代地中海世界の人や物の交流が内陸まで浸透していたことをより鮮やかに示してくれるものになってくれるはずです(もしも何かが出土したらの話ですよ)。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
ちなみにテネアですが、これまでにも既に色々なものが出土していまして、有名なものだと紀元前6世紀中頃に作られた「テネアのクーロス(青年)」の像があります。 図版出典: Wikimedia Commons “Kouros 120292” pic.twitter.com/CPbuo0IkRt
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アザラシ提督 @yskmas_k_66
ともあれ今回「宝石や硬貨、家屋の跡」が見つかったことで、テネアの歴史を振り返り、より蓋然性の高い再現作業ができるようになるはずです。発掘を踏まえての今後の研究に乞うご期待、といったところでしょう。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
と、いったところで以上です。最後に参考文献を挙げておきます。
アザラシ提督 @yskmas_k_66
【参考文献】 ・Fraser, J.G., Pausanias's Description of Greece, vol. 3, London, 1898. ・Head, B.V., Historia Numorum: A Manual of Greek Numismatics, Oxford, 1911. ・カートリッジ, P.『古代ギリシア 11の都市が語る歴史』白水社 2011年 ・スパイヴィ, N.『ギリシア美術』岩波書店 2000年

コメント

亙 重郎 @vow_2010 2018年11月17日
お気ににしました。
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