空疎のカースドール(プロット)

呪術師の少女、生き人形、鬼のおよそ人間とは言えない者どもの話 …の、プロット。
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詩織子 @cyan0401

冬の寒い朝。黒色のパーカーを着、フードをすっぽりと被った人物が裏路地を歩いている。中肉中背、特記すべきところのない青年だ。俯きがちに歩を進めていた彼は、ふと顔を上げる。視線の先には古びたアパートがあった。一階部分は店であり、出入り口のそばには小さな看板が掛けられていた。

2018-11-26 01:00:10
詩織子 @cyan0401

『骨董屋 てるる堂』。その下には『開店中』ともう一つ札がかかっていた。まだ8時を過ぎた早い時間ではあるが、もう開いているらしい。青年は警戒するように店に近づく。引き戸に貼り付けられた紙に気づき、それを読む。

2018-11-26 01:05:23
詩織子 @cyan0401

『従業員募集中 どなたでもOK 詳しくは店員にお尋ねください』簡素にして大雑把すぎる文面に青年はフードの下にある目をわずかに細めた。窓から店を覗くと雑多と売り物が並べられている。ひとの気配はない。「開いているのか…?」青年は呟き、少し考えたあとに店から離れようとした。

2018-11-26 01:18:40
詩織子 @cyan0401

その時だ。まるで気配のなかった店内から、出入り口の引き戸を開けて少女が出てきた。びくりと青年は動きを止める。白い息を吐きながら、少女は言う。「ご用ですか」平坦な口調だ。「あ、まあ…その紙が気になって」少女は貼られた紙を見、青年に視線を戻した。「面接をご希望ですか」「…えっ?」

2018-11-26 01:22:16
詩織子 @cyan0401

「面接をご希望ですか」まるで機械のように少女は繰り返す。「いや、俺、履歴書とか何もないし…。それどころか住所もないから…」青年は言いながら相手の顔を伺うが、少女の表情はこの寒さで凍りついたかのように微動だにしない。

2018-11-26 01:25:09
詩織子 @cyan0401

店内から声がして、少女はそちらを振り向く。その隙に青年は立ち去ろうかと考えたが、動く前に少女は青年に声をかけた。「それでよろしいです。中にお入りください」「マジで?」「どうぞ」それだけ言うと少女はさっさと奥に引っ込んでしまう。青年は首筋を掻いて逡巡したあと、少女に続いた。

2018-11-26 01:29:31
詩織子 @cyan0401

店は骨董だけでなくレンタルスペースも行なっているようだ。いくつかの棚には手芸品が並べられている。それらを通りすぎた奥に座敷がある。靴を脱いで上がった。まず部屋の真ん中にあるテーブルがその次に、テーブルに乗る人形が目に入る。銀色の髪と緑の眼を嵌めた球体関節人形だ。

2018-11-26 01:35:55
詩織子 @cyan0401

青年はその人形と距離を取るようにテーブルの隅に座る。少女が急須と湯のみを盆に乗せて戻ってきた。さらに奥はキッチンらしい。お茶を注ぐと、少女は人形のそばに座る。「この店にご興味がありましたか」少女は淡々と尋ねた。「興味というか…いや。気になってしまっただけだよ。このような店が

2018-11-26 01:40:10
詩織子 @cyan0401

あるんだと思って」「そうでしたか。ここで働くおつもりはありますか」いやに積極的だと思いながら青年は首を振る。「さっき言った通り、履歴書も住所もなにもない。流石にこんな怪しいやつは雇えないだろう?」少女はじっと青年を見ている。「あー…」彼は気まずそうに俯いた。

2018-11-26 01:45:17
詩織子 @cyan0401

「それに、君が良くても店長はダメって言うんじゃないかな。店長は今どこに?」「私です」少女は微動だにせず答えた。「…君?」「はい。私です」青年は少女を改めて見つめた。まだ高校生でもおかしくない幼い顔立ちをしている。「君が?」「はい、私です」「従業員は…」「私のみです」「わお」

2018-11-26 01:49:01
詩織子 @cyan0401

青年はどんな顔をしていいか分からずお茶を一口飲む。苦味が口に広がった。どうやら少女はあまり淹れるのが上手くないらしい。「なおさら、いけないだろ…。どこぞの男ともしれない奴を雇ったらなにが起きるか分からないんだぞ」何故朝っぱらから見知らぬ少女に説教しているのだろうと疑念を抱いた。

2018-11-26 01:52:00
詩織子 @cyan0401

一方で少女は特になにも思わなかったようだ。青年の真似をするようにお茶を飲んでいる。「君も豪胆だな、俺がどんな人間かもちゃんと分かってないのに…」「あら、人間ですって?」少女とはまた違う声がした。青年は咄嗟に周りを見渡すが誰もいない。クスクスと笑い声。少女は変わらず無表情だ。

2018-11-26 01:57:42
詩織子 @cyan0401

「誰だ」「ええ、ええ、もう少し脅かしてやりたかったけど、佐波理(さはり)を心配してくれたからほどほどにしてあげる」キィ、と人形の首が動いた。青年は驚いた様子もなく、ただ鋭い目で睨みつける。「生き人形か。朝から怪異現象を拝めるとはな」「ご名答。あたしも驚いてるわよ」

2018-11-26 02:05:03
詩織子 @cyan0401

人形は口元に手を当てた。緑のグラスアイが妖しく輝く。少女は黙ってふたりの会話を聞いていた。「この現代日本で、鬼が見れるなんて」青年はため息をついた。「随分察しのいい人形だ」「あら、この子が先に気づいたのよ。だから迎えに行かせたの」「鬼とは知らずとも妖の気配ぐらいは分かっただろう。

2018-11-26 02:08:43
詩織子 @cyan0401

それなのにそっちから呼んだのか」「なにがあったって、あたしたちの方が強いもの。ねえ佐波理?」「はい。姉さん」佐波理と呼ばれた少女は変わらぬ表情のままだ。「呆れるほど自信家どもだな…」「事実だからね。さて、住所不定無職の鬼はどうしたいのかしら? ちゃんと給料は出すけど」

2018-11-26 02:12:19
詩織子 @cyan0401

「……」「もちろん善意だけではないのよ。佐波理もあたしも物理的な揉め事は苦手でね、いわゆるボディーガードが欲しいの」「ハッ、鬼をボディーガードとして使役するやつなんざ…居たなあ」青年は少し遠い目をした。「まあいい、一か月ぐらいはやってやるよ」「結構短いわね」

2018-11-26 02:17:03
詩織子 @cyan0401

「俺は旅をすることが多かったから一箇所に留まるのは苦手なんだ」ぼんやりとする佐波理をなんともなしに見ながら青年は正座から胡座に変える。「ま、いいわ。お名前公開といきましょうか。あたしはシロメ」青年は感覚的に偽名だと悟るも、人形に偽名があるのかどうか。

2018-11-26 02:24:13
詩織子 @cyan0401

念には念を入れて知り合いの名前を使おうかと思ったが、それがバレた時の知り合いの対応の方がもっとめんどくさいかつ命の危機があると考えなおす。「橘。それが俺の名前」「たちばな」佐波理が繰り返す。何か、嫌な空気の揺れ方を感じた。「偽の名前です」「…は?」

2018-11-26 02:30:44
詩織子 @cyan0401

「ああごめんなさい、この子、ちょっと不思議な子でね。偽名だとすぐに気づくの」それはそっちもではないか、と口を出しかけたがややこしくなるのでやめておいた。「…せっかく気遣ったのに。いいよ、俺の本当の名前を出そうじゃないか」しばらくぶりだと思いながら青年は言う。「茨木童子」

2018-11-26 02:33:56
詩織子 @cyan0401

「…まあ」人形の顔こそ変わらないが、声から察するに驚いたらしい。「いばらきどうじ」佐波理が名前を口にした瞬間、青年は誰かに軽く頰を叩かれたような衝撃が走った。「…なんだ? …呪詛か?」「鋭いわね。今、佐波理が飛ばしたのよ」「は?」「名前が本物か確かめるために」

2018-11-26 02:37:34
詩織子 @cyan0401

「おまっ…」「鬼は呪いに強いんでしょ?」「だからと言って…いや、呪詛ってそんな気軽に人間が打てるわけないだろ」何から突っ込めばいいか分からず青年は頭を抱える。「佐波理は出来るの」人形は、硬い声で答える。「それで、橘くんと呼ばせてもらうわね。よろしく」

2018-11-26 02:40:43
詩織子 @cyan0401

もしかしたらやばい場所に入ってしまっと思いつつ、橘はお茶をのんだ。

2018-11-26 02:41:54