日本で原発建設計画を止めた地域の必要条件は…( @magazine_posse )

日本でも、原発建設を阻止した地域は存在する。その必要条件は、市民運動ではなく、住民運動、特に漁民の運動だった。なぜ彼らの力に頼らざるを得なかったのか。そのわけを考えてみると、日本特有の事情に突き当たった。
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坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

CNICの資料では、日本で原発建設を止められた地域は、三重の芦浜・熊野、和歌山の日高・古座・那智勝浦・日置川、石川の珠洲、山口の田万川・豊北・萩、鳥取の青谷・浜坂、新潟の巻、岩手の田老、京都の久美浜、高知の窪川、宮崎の串間、徳島の阿南。必要条件は何か。残念ながら市民運動ではない。

2011-04-25 12:21:49
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

九州大教授の吉岡斉さんによれば、アメリカでは70年代後半以降に原子力産業が斜陽化するが、それは市民運動の手で「許認可手続き厳格化」や「許認可過程への介入による立地手続の長期化」による経済的負担が増大し、電力会社が音を上げたからだという。しかし、日本ではそうはいかなかった。

2011-04-25 12:22:44
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

日本の「原発立地過程においては、すべての許認可権が中央政府に集中し…都道府県や市町村が一切の決定権を奪われている」。要は設置許可が下りた時点で、既に勝負はほぼついていたというのだ。そのため、「科学者や市民団体からのいかなる反対運動に遭遇しようとも、原子力計画は実現されてきた」。

2011-04-25 12:23:02
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

まず「地元自治体(都道府県、市町村)はほとんど…原発立地構想に賛成する」。次に「県知事を頂点とする地元政官界、商工業団体、農漁業団体の有力者たちの階層的ネットワーク」の「上層部(自治体幹部、県議、市町村儀など)との同盟関係を構築し」「委託業者による用地買収工作を進めさせる」。

2011-04-25 12:23:43
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

電力会社はこうして許可申請前に水面下の根回し工作をしてから立地計画を公表する。だから「欧米諸国の自治体がしばしば、電力会社との間に距離をとり、地元住民のコンセンサスを尊重してきた」のと逆に、日本では「いきなり自治体が誘致運動を開始する」。そのとき既に「同意」は調達された後なのだ。

2011-04-25 12:24:35
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

では日本で70年代以降の反原発の最大の抵抗基盤は何か。それは地権者・漁業権者の「財産権」だった。電力会社からすれば原発建設用地を買収し補償金で漁業権を放棄させ、彼らを同意させられるか。「原発立地計画が立てられながら、財産権処分問題以外の理由で立地が断念されたサイトは皆無である」。

2011-04-25 12:25:14
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

しかし、吉岡斉さんによれば、こうした財産権にもとづく住民運動は「日本特有のもの」だという。「そもそも欧米諸国には日本の漁業権に相当する私権がまったく存在しないか、存在したとしてもごく限定的…また土地に対する考え方の違いのためか、地権者の居座りという反対運動の様式が成立しがたい」。

2011-04-25 12:25:36
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

確かに『POSSE』9号で萱野稔人さんが指摘するように、日本では公共的なものより、個人の私的所有権が保障される。欧州には景観保護のため厳格な建築の権利の規制がある。座り込みも欧州では、「地権者」というより、住民運動にせよスクウォットにせよ、共有地を守るという感覚なのだろうか。

2011-04-25 12:25:54
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

吉岡斉さん曰く、原発建設の最大の「ネック」は特に「漁業権」だ。日本の原発は欧米の河畔や湖畔と違い、すべてが海岸立地であり、この問題は不可避だ。しかし、漁業権そのものの特徴についても注目する必要がある。更に、それは、日本の私的な土地所有権とも性格を異にしているのではないだろうか。

2011-04-25 12:27:44
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

戦後の共同漁業権は江戸時代の村落共同体の入会権を受け継ぎ、個々人でなく漁業協同組合が財産権をもつ。その総会は多数決でなく全員の合意が求められたり、漁業補償金も漁協に与えられるため個人への配分も困難。そのため吉岡さん曰く「非能率的」で「内部の対立感情」があり、買収は難航するという。

2011-04-25 12:28:13
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

吉岡さんの表現は微妙だが、その前近代性こそ、漁業組合が国家ぐるみの買収工作を拒み、連帯を貫く基礎だった。私的な土地所有権によって分断された個人がカネで開発主義に垂直的に統合されるのではなく、共同体的所有権によって個人が水平的に結合し、市場の論理を規制する運動体だったと言えないか。

2011-04-25 12:28:48
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

原発設置過程への民主的介入は重要だが、立地地域住民の生活に根付く運動が一番の抵抗となったのは事実。特に近代的な市場の論理を抑制する漁業協同組合という共同体(労働組合も中世のギルドを受け継ぐクラフトユニオンが端緒だった)が、原発という最大の開発主義を止めたことは注目すべきだろう。

2011-04-25 12:30:32
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

要は…日本の反原発運動で実際に建設を止めたのは、市民運動ではなく、財産権をもつ住民の力が大きい地域。特に漁業権者の運動が基盤になった。漁業権は漁業協同組合による共同体の権利で、カネによる個人引き抜き工作を受けにくい。連帯して市場取引を抑制するのは労働組合にも通じる社会運動の基本。

2011-04-25 12:47:31
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

生活保障や市場規制の強固な福祉国家ではなく、産業政策や公共事業重視の開発主義の日本では、貧困な立地地域住民を巻き込む運動も、企業の論理に抵抗し「公共の福祉」を求めて社会的規制を争う訴訟も困難だ。だから日本の反原発の市民運動は私的な権利の要求となり、影響力が限定されたのではないか。

2011-04-30 00:52:28
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

日本では反原発どころか原発の安全対策すらほとんどできてなかったのも、国家の社会的規制の弱さに加え、企業の論理に抵抗して安全の規制をかけうるはずの産業別労組=日本電気産業労働組合(電産)が、電力会社分割・民営化により分断され、企業別労組に解体されていったことに起因するのだろう。

2011-04-30 00:59:29
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

国家による社会的規制もない、住民運動のための生活保障もない、企業を規制する労働運動もない日本の反原発運動で最大の力を持ったのは漁業権(漁民の私的権利ではなく漁業組合の社会的権利)の運動だった。市民の私的権利でなく、市場規制による社会的権利をめぐる運動の構築が、反原発の課題だろう。

2011-04-30 01:10:12
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

反原発のデモや選挙を皮肉る人の不信感はそこだろう。ミドルで強いリベラル個人がエゴ的に反原発と叫ぶ、まさにブルハの「イメージ」。http://bit.ly/ilKog7 それをソーシャルな規範の要求にするためにこそ、規制と生活保障ある福祉国家を求める労働運動との連携が必要だと思う。

2011-04-30 01:26:00
Soichiro Sumida @soichiro_sumida

@magazine_posse 吉岡さんの「私権」を読み変えたんですね。漁業組合に詳しい研究者は発見できましたか?

2011-04-30 01:18:05
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

@saypeace_soichi そうですね…。川島武宜さんらの法社会学者が入会権については研究されているそうですね。ただ、結局漁業組合の運動はストライキ的な抜け駆け禁止の実力闘争だのみになりますし、ヨーロッパの住民運動の法的な争点について調べることもしたいですね。

2011-04-30 01:34:13
坂倉昇平@『大人のいじめ』(講談社現代新書)/総合サポートユニオン/NPO法人POSSE @magazine_posse

解雇規制緩和で世代間格差解決の論者が、柏崎や刈羽の選挙を見て反原発を皮肉るのは矛盾。社会保障や代替の産業の構築なくして、企業主義の年功賃金も開発主義の交付金も、「既得権」の当事者が動けるわけない。でも反原発運動が私的自由よりも社会的規範を目指すなら、その構築につながりうるはずだ。

2011-04-30 09:51:45