編集部イチオシ

図書館のレファレンス

長かったのでまとめました。
11
戸田いぬふぐり @inufuguri

「現代思想」12月号、新出さんの「”公共”図書館の行方」に引用してあった明定義人さんの「<本の世界>の見せ方」の箇所を、危険だ、と感じたことについて書くのを忘れていた。長さがある文章だが、ニュアンスが重要なので、何度かにわけてツイートし、その後、どこが危ないかを書く。(つづく)

2018-12-22 00:01:40
戸田いぬふぐり @inufuguri

>一九八五年六月に成田市立図書館が開館しました。開館して半年ぐらいたった頃、配下架をしていたら三十歳代の男性に「パチンコの本はどこですか」と聞かれました。パチンコの本は出版点数も少なくて、図書館に入っているのも少ないから貸出中かもしれませんが、と言い訳めいたことを口にしながら案内

2018-12-22 00:02:32
戸田いぬふぐり @inufuguri

(承前)しました。うまいぐあいに、三冊並んでいた。「こちらです」、「どうも」。すると彼は「おい」とぶっきらぼうに声をかけ、手招きしました。すると、父親とおぼしき人がこちらに向かってきて「おう、そうか」といって腰をかがめ、一番下の棚に並んでいるパチンコの本を手に取りました。

2018-12-22 00:03:11
戸田いぬふぐり @inufuguri

(承前)めずらしく父親も車に乗せて図書館に来たら「パチンコの本がみたい」などと言ったのでしょう。パチンコの本の並んでいる場所をたずねるのは、ちょっと勇気がいったりすることです。たずねた彼も、うっとうしいなあという雰囲気でした。

2018-12-22 00:03:39
戸田いぬふぐり @inufuguri

(承前) そのとき私は「パチンコの本は所蔵していません。リクエストを出していただければ検討します」とか、「選択基準にあわないので購入できませんが、他館から借りる方法もございますから」という側に身をおかずにすみました。

2018-12-22 00:04:05
戸田いぬふぐり @inufuguri

(承前)パチンコの本を読みたいという人よりも、古代史の本を読みたい、という人のほうが優遇されがちなのが図書館というところです。読みたいという「思い」に職員が値をつけるようなことはしたくありません。私たちが向かい合っているのは「本」ではなく、知的好奇心を抱えてやってくる利用者の

2018-12-22 00:04:32
戸田いぬふぐり @inufuguri

(承前)「要求」なのです。 新さんは、引用の前に、こう書いている。 従来図書館(員)によって「ふさわしくない」と否定されてきた私的な読書要求を、公共的なものとして受け入れるという過程があった。例えば明定義人はパチンコの本を求められたときのことを、次のように語っている。

2018-12-22 00:05:31
戸田いぬふぐり @inufuguri

また、引用のあとに、 もちろん通俗的な本ばかりを収集していればよいというものではない、と記している。 私が危険と感じたのは、果たしてこのとき、親子は満足したか、である。パチンコの本をなぜ探しに来たか。パチンコの歴史などを学ぶため、であったろうか。恐らくそうではあるまい。(つづく)

2018-12-22 00:08:24
戸田いぬふぐり @inufuguri

今、同じような質問が来たら、私は、パチンコ店にある機種の攻略法をお探しですか、と問い、インターネット端末へ案内する。一九八六年であったらどうしたか。恐らく、攻略法ではないか、と問うたあと、スポーツ新聞のバックナンバーをご覧になった方が良いですよ、と案内したと思う。

2018-12-22 00:10:35
戸田いぬふぐり @inufuguri

一九八六年にはまだ、パチンコ専門誌は出ていなかった。週刊誌、スポーツ新聞に機種ごとの対応法が載っていた。本には、釘の読み方などは書かれているが、デジタルの機種や、ややこしい電ヤクものには間に合わなかったと思う。この頃、パチンコの本があった図書館は珍しかったに違いない。

2018-12-22 00:13:50
戸田いぬふぐり @inufuguri

(承前)もしかするとその親子は満足したのかもしれない。でも、多分そうじゃないんじゃないかな、と、そのころ、しばしばパチンコ店に行っていた私は思うのである。いい話だな、と感じるのだけれど、書架への案内だけで足りる事例ではなく、レファレンス案件であったのではないかと思うのだ。

2018-12-22 00:16:08
戸田いぬふぐり @inufuguri

うちの図書館には、こういう本も入れてあって、探しに来た人ががいた。高級なものばかりではなく、俗なものがあるべき、という事例として挙げたい気持はわかるが、パチンコは一九八六年にはすでに、激しく機種が入れ替わる世界であり、書籍はほとんど役に立たなかったことは知っておくべきであろう。

2018-12-22 00:25:14
戸田いぬふぐり @inufuguri

明定さんの著書の中でのパチンコの本についての文は印象に残るし、長さもある。しかし、棚に案内したあと利用者が満足したかどうかは書かれていない。確認が済んでいれば、記述があるでしょう。ないから、そこまでで仕事を終えた、と読む。それでは足りなかったのではないか、と私は書いた。なぜか。

2018-12-22 06:59:45
戸田いぬふぐり @inufuguri

(承前)ここを読んで勘違いをする司書がいるかもしれないと思ったからです。それで長い引用を再度引用しました。読み手のうちの何割かは司書でしょうし、私のフォロワーにも司書が幾人かいますので。

2018-12-22 07:01:16
戸田いぬふぐり @inufuguri

(承前)著者がそこまでの責任をおわなくちゃいけない、という考えを私は持ってはいません。 俗な分野の資料、レファレンスをどう扱うか、どのように対応すべきかという点について、そんなに簡単じゃないどころか、かなり奥が深いし、ここだけ読んでなんとなくわかった気になると危険と感じたのです。

2018-12-22 07:12:13
戸田いぬふぐり @inufuguri

司書は、レファレンスの成功事例や、良い案内をしたことを覚えていて文章にする。前川恒雄氏が「われらの図書館」で書いていた、南米小説を勧めたら所蔵する分を全部読んだ人の話などは印象に残る。そういう仕事をしたい、と思うようになる。でも、現実には、そうしたやりとりはかなり少ない。

2018-12-22 07:29:30
戸田いぬふぐり @inufuguri

良いレファレンスをするためには、しくじった例を記憶しておかないといけないと思う。また、良かった、と思っているのが自分だけなのではなかったか、と、疑うことも重要だ。二十年くらい前に答えたあれは、実はこの答え方があった、と気づくことがある。失敗事例こそ覚えておくべきだと私は思う。

2018-12-22 07:31:32