ギガベース日誌 過去編「And Then There Were None」

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再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

眼下の世界が燃えている。 ここまで至り尚、繁栄を保ち続けてきた街。それを構成する建物は、煌びやかな毒に侵され絶えた人々を抱く墓標へと、瞬く間に変貌した。 私がやった。 私が殺した。 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:17:58
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

私は、私を裁く者が現れる時を、ただ待っていた。 痛みは無い。 後悔は無い。 更なる蛮行の遂行に一切の支障は無い。 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:19:38
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待ち焦がれるあまりにどれほど長く感じようが、いつかはその時は来るものだ。 セピアカラーの地獄の向こうから、エキゾーストを響かせて彼が来た。 さあ、戦おう。 私の断頭台。 私達は同じ方向を向いてはいけない。 並び立つ勝者は、世界にとってあまりにも不都合なのだから。 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:24:15
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「遅かったな」 彼は何も答えない。聞き伝えが正しいなら、きっと、彼の目にも同じ暗褐色の地獄が映っている筈だ。 だが、口を開けないわけでもあるまい。 彼が何のために戦うのかは知らない。ただ、一つ確かな事がある。 私達の間には、もう……。 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:29:22
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「言葉は不要か」 私は死神になる。 彼にとっての、は難しいだろう。 だが、この後に続く多くにとっての死神になる事は疑いない。 この敵意の大地に、悪意の種を撒き散らす事で。 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:30:58
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痛みを分かち合う世界。多くにとっての”当たり前”として、戦争は一切の勝者を遺さず終わった。 だがしかし、全てが絶えた地に赴き、大事そうに水をやる者達の思惑は、殆どの者は感知できずにいた。 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:37:05

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コロニー・アナトリアの壊滅より数日前。 コロニー・アスピナにて。 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:38:19
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「おはよう」 眼が痛くなるほどの白に包まれ、少女は目を覚ました。 まずは眼前の光景について一つ一つ理解する。 自分が寝ているのはベッド。 自分がいるのは病室と思わしき部屋。 自分を取り囲んでいるのは白衣を着た男達。 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:41:49
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ここまで来てようやく、先程鼓膜に届いた空気振動の意味合いを処理できた。 それを発したであろう男のほうへ上半身を向ける。 「……おはよう、ございます」 「発話は問題無いようだね」 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:43:30
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「自分の名前を、言えるかい?」 名前。 なまえ。 なまえ? hsrizmfrZmtvorxzhsrizmfrhsrizmfrhsrizmfrZmtvorxz hsrizmfrZmtvorxzhsrizmfrhsrizmfrhsrizmfr hsrizmfrhsrizmfrhsrizmfrhsrizmfr 艦名。 「……不知火です。不知火は、不知火です」 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:48:52
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それを聞いた男は、とても優し気な微笑みを湛え、少女の手に自身の手を重ねた。 「そうだよ。君は不知火。大日本帝国海軍が所有していた、陽炎型駆逐艦の2番艦不知火だ。しっかりと、覚えているかい?」 「……はい。ですが……此処は?此処は海軍ではないのですか?」 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:53:07
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「此処は、コロニー・アスピナだ。君はもともと海軍にいた駆逐艦だが、訳あって我々が君を預かる所となった」 「アスピナ……?」 「日本からはだいぶ遠い。半ば強制的に連れてくる形になってしまった事は、本当に申し訳なく思っている。だが、どうしても君が必要だった」 #ギガベース日誌

2018-12-26 22:59:31
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「不知火は海軍に?」 男の言う事が正しければ、海軍に所属していた頃の記憶があるはずだ。不知火が頭蓋の中を探索しようとした瞬間、視界を炎が覆った。 「っ……?!嫌っ、嫌っ!?!!」 その時はどうとも思わなかった。というより何かを感じる自我が無かった、自分の最期の瞬間。 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:04:29
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「……我々は、君に特殊な手術を行った。勿論、君の許可無しに、君が眠っている間に。わかりやすく言えば、頭を切り開いて脳に金具を埋め込む類の手術を」 「嘘っ……」 不知火は自分の頭部に触れた。髪の毛の一切を断たれた頭部には、きつく包帯が巻き付いている。 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:09:02
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「その手術の影響で、海軍にいた頃の記憶や、もしかしたら艦娘として持っている記憶にすら影響が出ているかもしれない。今は、ただ目の前の光景を処理した方が良い」 「なんで、不知火に、なんで、こんな」 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:10:43
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「君に、戦ってもらう為だ。艦娘ではなく、リンクスとして」 手術、海軍、艦娘、リンクス。 単語の意味は理解できる。 だが、不知火には経験がない。それを意識しながら過ごしてきた過去が無い。 この精神的な気色悪さを目の前の男に伝えた所で、何か変わるだろうか? #ギガベース日誌

2018-12-26 23:17:01
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

結果、不知火はあるのだか無いのだかわからないその記憶を諦めた。 男の話を注意深く聞く。自分がアスピナの人間達からとてつもない期待を寄せられている事はすぐに理解できた。それに応えなければならないという”使命”を設定し、それに集中する事にした。 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:19:47
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その日の長い会話の最後。サウードと名乗ったアスピナの科学者達のリーダーは、不知火に2週間の休息を与えると言った。 リンクスとしての教育が開始されるまでの14日間。その殆どを、不知火は天井を見つめる事に費やした。 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:22:40
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

虚無感に満ちた日々の中での刹那。不知火にとって印象深い出来事があった。 それは2日目。不知火の病室に、一人の男が訪れたのだ。 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:24:08
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「……」 「……」 ノックも無しに扉を開けた男は、そこで立ったまましばらく不知火を見つめていた。後になって考えれば不審者めいた行動だったが、不思議と悪い気はしなかった。 「……あの」 「ああ、すまない。見舞いに来た、だけだ」 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:26:33
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

見舞いと言われても、不知火はその男に覚えがない。海軍にいた頃に知り合った人間だろうか? 「……その、すみません。どちらさまですか?不知火に会った事が?」 「ああ、いや、今が初めてだ。変に思うだろうな。申し訳ない」 男はどこか落ちつかない様子だ。 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:32:53
再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

「自己紹介が遅れた。私は、アスピナに所属しているリンクス。ジョシュア・オブライエンだ」 「リンクス……では、不知火の先輩ですか」 「先輩?まぁ、そうなるか……後輩が術後回復したと聞いて、様子を見に来た御節介な先輩と思ってくれればいい」 #ギガベース日誌

2018-12-26 23:35:20
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