身内用ログ2

イッキに詰め込んだ
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野性の野良 @__noranora

「…で?お前、俺とどうなりたいわけ?」 「そんなこと聞くの?…この体勢で?」 暗闇の中で金色の目を細め、くすくすと『それ』はひそやかに笑った。 衣擦れの音を立てながら、冷たい素肌が体に触れる。――否、触れるどころか、握ってきた。 「…ったく…おい、マジか……本気かよお前…オルタ」

2018-07-12 22:05:29
野性の野良 @__noranora

「だぁめ、二人の時は、ヒューゴって呼んで?」 「あぁ?本物でもないくせに、生意気言ってんじゃねーぞテメェ」 ヴィンセントの静かな恫喝に、ヒューゴ・オルタは拗ねたように頬を膨らませたようだった。 「いいじゃない。何が不満なの?本物が相手してくれない代わりに、オレがしてあげてるのに」

2018-07-12 22:05:29
野性の野良 @__noranora

痛いところを突かれて、ヴィンセントは眉を顰める。 「お前な…」 「代わりでもいいの、抱いて。オレのこと、愛して」 「……」 それが演技なのか本気なのかは、ヴィンセントにはわからない。 ただヴィンセントの腰に跨るヒューゴ・オルタの金色の目は、初めて見るくらいに真剣な色を帯びていた。

2018-07-13 21:30:25
野性の野良 @__noranora

「君がオレじゃなくて本物を見てることくらいは、オレにもわかるよ。…相手にされてないの、本当にかわいそって思うけど」 「うっせ。何だお前、それ言いたかっただけかよ」 「残念、それもあるけど。だから抱いてって言ってるじゃない、理由なんてないの」 細い指先が、ヴィンセントの顎髭に触れる。

2018-07-14 22:21:06
野性の野良 @__noranora

「オレはオルタ。もう一人のヒューゴだよ。…だから、ね?あの子が隠したがってる自分の本性が、オレなの。あの子は自分の汚い部分、全部オレに押し付けた気になってる」 自分の胸に手を当て、オルタは微笑む。 「汚いだなんて。失礼しちゃうよね。気持ちいい事が大好きで、何が悪いんだろ」

2018-07-15 20:57:48
野性の野良 @__noranora

「お前そりゃあ…誰彼構わず取って食おうとしてるからじゃねーか…?」 「ひどい。相手は選んでるんだよ、これでも。……なのに、君だけは絶対に落ちてくれないから。お兄さんは簡単に落ちたのに」 「アイツは馬鹿だからな。許してくれや」 はあ、と疲れたようにヴィンセントはため息をつく。

2018-07-16 21:03:49
野性の野良 @__noranora

オルタの脇を抱えて腰の上から降ろすと、よっこいせと気合を入れてから立ち上がる。 「お前な、くれぐれも『本体』に迷惑かけるんじゃねーぞ。フォローしなきゃいけないのは技術員の俺なんだ」 「はいはーい。努力はするけど」 ひらひらと手を振りながら、軽薄にオルタは微笑む。

2018-07-16 21:03:49
野性の野良 @__noranora

「…それにしても、どうしてだろ。君もヒューゴにも、全然オレの【魅了】が効かない。ティイにもヴァレイシュにも効いたのに。自信無くしちゃうな」 「知るか、んなこと。お前に魅力がないだけだろ」 つれなく言い捨ててから、ヴィンセントは頬を膨らませて拗ねているオルタを気の毒そうに見やった。

2018-07-17 20:59:19
野性の野良 @__noranora

「……悪いが、俺にはお前を受け入れらんねえよ」 「受け入れてもらおうなんて、思ってないもの。いいよ、君なんてそこらへんで勝手にのたれ死んじゃえばいいんだ。それで、死ぬ直前に『ああ一回くらいヒューゴの事抱いてみたかったなぁ』なんて思ったって知らないんだから!ばーか!」

2018-07-17 20:59:20
野性の野良 @__noranora

一人分の強力な魔術回路を二人で分け合っているのではなく、単純に強力な魔力回路の力を、必要によってはもう一人の魔術回路をも同時に使用することが出来る。 もっとも身体にかかる負荷も桁外れのものになり、双子のうち兄の方が過去にそれで消えない傷を負っている。

2018-07-18 20:15:58
野性の野良 @__noranora

そりゃ反則だろかわいいなおい――と口にする間もなく、オルタの姿はかき消える。残されたヴィンセントは、頭を掻きながら壊れた椅子に腰を下ろした。 「…ったく。もうちょっとしおらしくしてりゃあ、それはそれで可愛いのによ」 惚れた相手と同じ顔はしてるんだ、もうちょっと優しくしてやれるのにな。

2018-07-18 20:23:53
野性の野良 @__noranora

「3Pとかな」 口に出してから、叶わぬ夢かと苦笑う。 やれるものならやってみたいが、それはヒューゴが許さないだろう。 本心はあれなのにな――、そう思って、くつくつとヴィンセントは肩を揺らした。 「もったいねえよなあ…あのガードの硬さはさ」

2018-07-19 20:31:46
野性の野良 @__noranora

ヴィンセントにはヒューゴに睨まれた記憶しかない。 可愛いじゃないか。一生懸命俺のこと意識しないようにして、逆に意識しまくってる。 あれじゃあ、いつか落ちてくれるんじゃないかと期待してしまうじゃないか。 もっと、楽に生きた方がいいんじゃないかとは思うが――まあ、真面目なのは美徳だ。

2018-07-20 20:21:21
野性の野良 @__noranora

「さて、と。俺様も仕事するかね」 いつまでも遊んではいられない。こう見えて、ヴィンセントのしなければならないことは山盛りだ。兄がこういうことに役立たない分、自分がやる必要がある。 自分が出来るんだから、俺がやる。それがヴィンセントのモットーだ。

2018-07-21 21:54:08
野性の野良 @__noranora

何より、ヒューゴの要求するスペック以上のモノを作り上げるのが好きだ。 『……あ、ありがと』と目を反らしながら悔しげに言われるのが好きだからだ。同じ大学で同じゼミの先輩後輩だったというのに、この態度。 小憎たらしいったらない、とヴィンセントは笑う。そう、ああいう不器用な男だ。

2018-07-21 21:54:08

ここから別の話

野性の野良 @__noranora

その店に立ち寄ったのは、本当に偶然だった。 煮詰まりすぎて自分が何をしているのかもわからなくなって、先輩に追い出されるようにして職場を出てきた。 とぼとぼと歩いているうちに、道端のカフェに目が留まる。いつの間にこんな店が出来たのだろう。

2018-07-23 20:04:50
野性の野良 @__noranora

店の外にはウッドデッキとそれを飾るグリーン。控えめに咲いているあの花は、なんという名前だったか。 ちらりと見えた店内も暖かい光に溢れていて、何よりあたりに漂う焙煎されたコーヒーの香りに誘われて、ヒューゴは恐る恐るその店の扉を開けた。 「いらっしゃァい」 人懐こい声に、ほっとする。

2018-07-23 20:04:51
野性の野良 @__noranora

「こんばんは。まだいいかな?」 そろそろ日付も変わろうかといった時間だ。店仕舞いの最中だったら悪いかと思って、ヒューゴはそう口にする。 店員らしい少年はじっとヒューゴの顔を見た後に、笑顔で頷く。 「いいっスよ。出せるモンは限られてますけど」 そう言って招かれて、心からほっとした。

2018-07-24 20:14:24
野性の野良 @__noranora

人のいる場所。 柔らかい光の中で、笑いながらこちらを見ている彼がとても眩しくて。 「わ。――お客、さん……?あの、大丈夫…です、か?」 ぼろぼろと泣き出してしまったヒューゴを気遣うように、彼は駆け寄ってくる。 これが。これが、自分の護りたいものだ。護らなくてはいけないものだ。

2018-07-24 20:14:25
野性の野良 @__noranora

肩を震わせるヒューゴを見守っていた店員は、やがてヒューゴの手を引いて店の中へ連れて行く。奥まった場所にある静かな席へ座らせると、ハンカチを取り出しながらにっかりと笑った。 「オレのでよければ使ってください。…閉店近いし人もこねェし、気がすむまでどうぞ」 「あり…がと、ございます…」

2018-07-25 20:26:20
野性の野良 @__noranora

「いいんですって。ゆっくりしてってください」 笑いながら、彼は行ってしまう。 太陽のような黄金色の髪をしたその後ろ姿をぼうっと見送りながら、ヒューゴは彼が持たせてくれたハンカチでもう一度目元を押さえる。 それはもう涙で濡れていて、洗濯しなければ返せない。 少し落ち着いてきた。

2018-07-25 20:26:21
野性の野良 @__noranora

何か頼まなくては、とヒューゴがメニューを探しているうちに、彼が戻ってくる。 「たまごサンド、大丈夫ですか?」 「え?」 「オレの晩飯、付き合ってください」 声を出す間もなく目の前に並べられたのは、大量のサンドイッチ。 「一人で食べるのもつまんないし。あ、見てるだけでいいですから」

2018-07-25 20:26:21
野性の野良 @__noranora

そう言って彼は、ヒューゴの目の前でサンドイッチを食べ始める。 賄い飯のようなものなのだろう、分厚く切ったパンに挟まれているのは、瑞々しいレタスとこんがり焼いたベーコン、もう一つはたっぷりのたまごサラダに薄切りのハム。少なくないはずなのに、彼はそれをあっという間に平らげていく。

2018-07-26 20:53:21
野性の野良 @__noranora

…くぅ。 「うぁ」 彼の食べっぷりを見ているうちに、ヒューゴも空腹を思い出す。そう言えばここ数日何も食べていなかったと、恥ずかしげに俯いた。 「へへ。これ、食べる?」 笑いながら彼が差し出すのは、鶏ハムとハニーマスタードのサンドだ。 「…い、いいの…?」 こくり、と彼は頷く。

2018-07-27 22:31:32
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