「時」の固定に重点を置いた「FIFA」「ウイイレ」と、「人」の固定に重点を置いた「ＷＣＣＦ」との差異について

生命情報保存研究所 @rodan670

WCCF(WORLD CLUB Champion Football)という名前のサッカーゲームがある。主にゲームセンターに設置されているために、このジャンルにおける売り上げを世界規模で独占できているFiFAやウイニングイレブン（ともに家庭ゲーム機用ソフト）との差別化はできている。

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WCCFをプレイするためには実在するサッカー選手の画像を印刷したカード16枚が必要になる。一枚一枚のカードには選手の能力やポジションに関する情報が刻み込まれており、これをゲーム台の上に展開することで仮想のサッカーチームが画面の中に出現する。

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よって最初のプレイの際にはどうしてもあらかじめカードを所有していることが求められるが、一度プレイを始めるとワンプレイごとに何らかの選手を焼き付けたカードが１枚ずつゲーム台から出てくる仕掛けとなっている。カード、およびそこに焼き付けられている選手はレアリティ付けされており

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メッシやクリスティアーノロナウドのように高い能力を持つ選手のさらに特別バージョンのカードともなると希少価値は高く、ネットオークションなどでは高値がつく。よってよりレアリティの高いカードを求め台に向かうプレイヤーも少なくはない。ここでＷＣＣＦはコレクティングカードゲームの側面も持ち

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「fifa」や「ウイイレ」との差別化は強化される。しかしWCCFと「fifa」「ウイイレ」の性質が最も分かれる点は、物質的な部分よりもあくまでそのゲームシステム上にある。「fifa」「ウイイレ」はそれぞれ毎年ソフトの更新版が発売され、そのタイトルは西暦を冠する。

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最新版の「fifa19」「ウイイレ2019」においては、よって2018年度における各国、各チーム、各選手の現状が精緻に再現されている。特にfifaにおいてはイングランドの４部リーグや、アイルランド、パキスタン等比較的マイナーな国のリーグまで収録し、

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捕獲するチーム、選手の数は群を抜いている。グラフィック技術の向上も急激な勢いで進み、描き出される選手、ピッチ、観客席の姿形はすでに実写のそれに近い。「fifa」や「ウイイレ」のベクトルは、現存するリーグ、チーム、選手の完全なる再現に向かっている。

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この領域において、WCCFは劣勢となる。ゲーム内に回収しうる選手は主要リーグであっても特定の数チームに所属している者に限られ、グラフィックの精度も「fifa」「ウイイレ」の技術に水をあけられつつある。

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WCCF側にも強みはある。WCCFもまた毎年バージョンアップを繰り返しているが、選手の元となるカードは基本的に使えなくなることがない。よってすでに引退してしまった選手であっても自分のチームに付け加えることができる。日韓ワールドカップで活躍したロナウドと、クリスティアーノロナウドを同時に

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ピッチにたたせることが可能となる。さらに同一の選手であっても、デビューから引退時に至るまでの間に、所属チームや能力、髪型などは常に変化していくが、その中で一人一人の選手に関し、もっとも好ましい年度のものをプレイヤーは選択することができる。

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一方、リーグ、チーム、選手の「完全」な再現を目指す「fifa」「ウイイレ」にこの機能はない。選手は必ずその年代の容姿、能力でなければならないので、特定の選手のファンにとってはリアル世界における選手の状態は悩みの種となる。衰えればゲーム内の分身も輝きを失い使いづらくなり

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あるいはfifaですらカバーしきれないマイナーリーグに移籍したり、チームごと下部リーグに降格したり、引退してしまうようなことがあっては、それ以降のバージョンで問題の選手をプレイすることはできなくなる。これらのゲームはグラフィックをはじめとした機能の技術向上のスピードが速いだけでなく

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オンラインでの対戦を希望した場合、競技人口は最新版のソフトに偏ってしまうため、贔屓の選手恋しさでいつまでも過去のバージョンにすがり付いているわけにもいかない。結局現実世界同様、いつかその選手とは別れねばならない。「fifa」や「ウイイレ」のプレイヤーは、日々喪失を経験する存在である。

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「fifa」「ウイイレ」と「wccf」の本質的な差異は、前者が主に2018年度ならば2018年度という時間の中におけるリーグ全体の現象を丸ごと包み込み、もって「時」を固定しているのに対し、後者は時を超え「人」という現象を固定している部分に集約される。

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「fifa」「ウイイレ」のこのような性質は、実写に迫りつつあるグラフィックをもととし、実在する選手の保管庫になりうるポテンシャルを台無しにしてしまう。人の記録簿としては、グラフィック、登録選手数を抑えても、一度収録した選手は未来永劫回収可能な「wccf」のほうが適任である。

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ただ、「wccf」においては現実世界に実在するいかなるチームも登場しない。選手を収めるのはすべて架空のチームとなる。一人の選手はキャリアの中で何度か所属チームを変えることがあるため、「人」を軸にものを見ると、これに特定のチームを押し当てる考え方はふさわしくなくなるためである。

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クリスティアーノ・ロナウドという選手を使用する場合、この選手にはマンチェスターユナイテッド、レアルマドリード、ユベントス等複数のチームの属性が備わっている。そのいずれかを選択するにしても、対戦相手には問題のチームにやはり過去在籍した選手が複数居座っていることがあり、

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ひいては、もう一人のクリスティアーノ・ロナウドが起用されていることも往々にしてありえる。このような環境化においては、選手を包む器としての固有のチームやリーグ年度といった概念は効力を失う。

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wccfで意味を持ちうる唯一の固有の情報は、選手を使いこなすプレイヤーに与えられる「監督ポイント」のみである。しかしプレイヤーはゲームの外にいる。個々の選手を老化とも引退とも無縁な、時の流れとは離脱した存在として軸にすえる世界においては、固定された外部環境というものが消失する。

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この、時という共通尺度による支配を受けない条件下では、基本的に自分（プレイヤーおよびこれが使用する選手とチーム）自体が世界そのものとなる。この世界は、別のプレイヤーと対戦するときのみ融合して拡大され、試合終了後には再び分離して閉じる。