苦労は人を育てる?それとも人をすり潰す?

英雄は苦労を糧として大きく成長し、私たち凡人はすり潰されてしまう。その違いはどこにあるのか?凡人でも真似ることができるのか?そのヒントは恐らく、「笑い」にある。
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shinshinohara @ShinShinohara

「苦労は人を育てる」という。「ライオンは我が子を千尋の谷に突き落とす」という(現実ではない)諺とあいまって、苦労した方が人間が大きくなる、と言われる。 確かに、二度も遠島(牢獄入り)した西郷隆盛は、苦労を乗り越えて一段と人間的に成長した。周の文王もそう。苦労は人間を育てる。

2019-01-14 08:51:36
shinshinohara @ShinShinohara

他方、「苦労は人間をすり潰す」という現実にぶち当たることも多い。「あの時、あっちの道を選択していれば」「あの時、あいつが余計なことを言ったからこんなことに」「そもそもあいつはあの時も」と、怨みが次々に湧き、やがて大きくため息をつき、絶望する。そしてまた、怨み、の繰り返し。

2019-01-14 08:59:10
shinshinohara @ShinShinohara

「苦労は人間を育てる」と「苦労は人間をすり潰す」の違いはどこから生まれるのだろう?英雄は前者で凡人は後者だと分類するのはたやすい。しかしそれでは評論家にとどまってしまう。自分がどちらの側になるか、岐路に立たされた時、凡人の私たちでも、前者の道をたどるにはどうしたらよいのだろう?

2019-01-14 09:03:08
shinshinohara @ShinShinohara

「苦労が人間をすり潰す」場合、その当事者は、苦労の中に沈殿し、溺れている。苦労の中にすべての感覚を沈め、苦労以外の世界が見えなくなり、思考も感覚も苦労の中に沈湎する。苦労ばかりを見つめ、そればかりを思考している。苦労を見つめることで苦労に魅入られている。

2019-01-14 09:09:52
shinshinohara @ShinShinohara

苦労ばかり見つめると、人間は「脳内サーキット」が形成されるらしい。「あの時、あっちを選択していれば」「いや、あいつが余計なことを言ったからこんなことに」「そもそもあいつはあの時にも」「いやでも、自分さえ選択を誤らなければ」もはや取り返せないのに、同じ思考を繰り返す。

2019-01-14 09:13:04
shinshinohara @ShinShinohara

同じ思考を繰り返すと、その思考を繰り返すための神経繊維が太くなるのだろう。繰り返される強い刺激がシナプスを強化し、悔いと怨みを繰り返し素早く思考できるように。こうして「脳内サーキット」は形成される。トラウマやPTSDは、この脳内サーキットの所産ではないか、というのが私の仮説。

2019-01-14 09:18:55
shinshinohara @ShinShinohara

PTSDの治療法として、近年興味深い方法が効果を上げている。トラウマを思い出しながら、左右に動く指や光を目で追いかけるというもの。こうすると、次第に悩みを客観視する余裕が生まれ、次第にパニックに陥らなくなるという。

2019-01-14 09:21:25
shinshinohara @ShinShinohara

これは恐らく、「視線」の力だ。悩んでいる最中の人は、視線が凝固してる。「脳内サーキット」をグルグル回って、悔いと怨みを次々と思い出しながら、頭の中の出来事を凝視してしまう。だから心ここにあらず、視線が宙に浮く。もはや悩み、苦労しか見ていない視線が、悩みの溝をさらに深く掘り進める。

2019-01-14 09:25:15
shinshinohara @ShinShinohara

しかし左右に動く指、光る点を目で追うと、悩みを凝視することができなくなる。「脳内サーキット」の中で、悩みと怨みを繰り返し追体験する余裕が失われる。そのうち、「悩みを思い出しながら視線を動かしてる俺って、なんだろう?」と滑稽にも感じられて、脳内サーキットから外れていく。

2019-01-14 09:28:04
shinshinohara @ShinShinohara

脳内サーキットを繰り返すことがなくなっていくと、神経繊維をつないでいたシナプスがプチプチ切れていくのだろう。逆に脇道にそれる回路が次々に生まれ、脳内サーキットが強化されることがなくなる。「視線を動かす」ことでPTSDを脱却できるのは、そのためではないか。

2019-01-14 09:30:33
shinshinohara @ShinShinohara

ここで冒頭に戻る。「苦労が人間を育てる」場合は、苦労だけを見つめず、大所高所から自分の苦労を客観視しているのではないか、ということだ。苦労に溺れ、苦労の中に沈殿するのではなく、むしろ空から自分を眺める気分で、自分の苦労を「広い世界の一部」と、どこか微笑ましく見ているのではないか。

2019-01-14 09:34:44
shinshinohara @ShinShinohara

このように考えるヒントになったのは、嫁さん。最初に勤めた会社が倒産し、路頭に迷い、中小企業で安い給料で働いていた。嫁さんはそのいきさつを、実に楽しく面白く話す。私は笑い転げながら、その逞しさ、頼もしさに感心する。苦労を笑い話のネタにするなんて、と。

2019-01-14 09:39:54
shinshinohara @ShinShinohara

そして不思議なことに、笑い話の方が、相手の苦労の深さを思いやることに気がついた。「苦労を笑い話に転換するまで、どんな葛藤を乗り越えてきたのだろう」と。逞しさの向こうに、乗り越えてきた悲しみを思いやれるのだ。

2019-01-14 09:42:18
shinshinohara @ShinShinohara

私は嫁さんを見本にして、苦労を笑い話にしてみた。すると、それまでとは打って変わって、笑いながらも感心してくれるようになった。「笑ってるけど、本当は苦しかったはずだ」と。 苦労を苦労として話していたときの反応は違った。「ハイハイそうですね、大変でしたね。でも、聞くのもツラいですな」

2019-01-14 09:46:53
shinshinohara @ShinShinohara

「苦労の脳内サーキット」に引きずり込まれるのは、他人としては疲れる。だから特に親しいわけでもないなら、苦労をつらそうに話している人には、礼儀として同情しては見せるが、深入りしないよう、距離を置く。

2019-01-14 09:49:12
shinshinohara @ShinShinohara

しかし、苦労を笑い話のネタにできる人は、聞いてて気楽。苦労を客体視していることが分かるから。そして、どんな苦労も笑い話に転化する逞しさに憧れ、それが魅力へとつながる。すると、人が集まり、絶望の淵から引き上げる力となる。

2019-01-14 09:51:20
shinshinohara @ShinShinohara

凡人が英雄を真似るコツ。それは、苦労を笑い話のネタにすることだ。笑い話にするには、苦労をする自分を遠くから俯瞰する視点が必要になる。俯瞰すると、苦労だけを見つめずに済み、苦労を追体験することなく、「たくさんある中の苦労の一つ」として、心理的に楽に処理できるようになる。

2019-01-14 09:54:21
shinshinohara @ShinShinohara

会田雄次氏「アーロン収容所」は、敗戦後の収容所の生活を面白おかしく描いている。実際にその場に身を置けば正気でいることも難しいかもしれない苦労を、笑い話にすることで、多くの人に読んでもらうことに成功している。

2019-01-14 09:57:36
shinshinohara @ShinShinohara

京大の名物教授だった森毅氏は、「正しいは伝わらんけど、オモロイは伝染する」と言った。正しくても、重くてつらいことは、距離を置きたくなるのが人情。しかしどんなにつらい体験でも、笑い話に転化すれば、その逞しさへの憧れと、苦労への同情と、その人物への尊敬が集まる。

2019-01-14 10:00:18
shinshinohara @ShinShinohara

だから、凡人たる私たちは、苦労を苦労として語るのではなく、苦労の中に身も心も沈めるのではなく、苦労をあえて笑い話のネタにしてみよう。悲劇を喜劇としてとらえ直す逞しさは、英雄が苦労を糧に人間として大きくなることと同じ作用がある。

2019-01-14 10:02:44
shinshinohara @ShinShinohara

苦労を笑い話に転化することは、苦労の中に埋没し、悩みと怨みの中に沈湎することから、自分を助けることになる。そして、笑い話に苦労を包み込める逞しさに魅力を感じる人が、あなたのそばに集まり、あなたを助ける。

2019-01-14 10:05:01
shinshinohara @ShinShinohara

西郷隆盛は最初、敬愛する主君の島津斉彬を殺された怨みで心を占められていたと思う。しかし古典を開き、先人が自分以上の苦難を経験し、それでも「苦労の向こう側」を見つめていたことに気がつき、自分も悩みと怨みだけを見つめないようにしよう、と思ったのではないか。

2019-01-14 10:08:24
shinshinohara @ShinShinohara

普通、牢獄に二回も入れられたら、人生を絶望する。NHK朝ドラ「まんぷく」の主人公も、三回も牢屋に入って財産を失って、普通なら絶望する。それを乗り越えてきたことに、驚愕する。 私たち凡人がそれを真似るなら、苦労を笑い話に転換してみよう。あなたの視点が苦労から逸れ、思考がはばたく。

2019-01-14 10:11:49
shinshinohara @ShinShinohara

苦労の中に溺れるのではなく、苦労する自分を笑い話のネタにするような。それを訓練すると、どんな苦労も「新しいネタができた!」と喜び、苦労を克服する知恵が働くだろう。 笑いは、苦労をネタに換えてしまう力がある。

2019-01-14 10:14:44