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ヤブ蚊のエサ 総まとめ 連載初日~三日目

発表元のアカウントを移動(@hm1d6@TXz17EbOcEB81GI)しました。それに伴い、本作の総まとめは https://togetter.com/li/1311072 にて発表を続けます。各最新話をお読みになりたい方は新アカウントのフォローをして頂けますと当該TLにてその都度発表に触れられます。よろしくお願いいたします。 表の顔はセレブ専門のレポートブロガー、裏の顔は情報屋。幸山は上昇志向のおもむくままに、とある成金パーティーで知った美人投資家の会食を盗撮した。それが複雑で常軌を逸した事件の幕開けになるとも知らないまま。 続きを読む
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
ヤブ蚊のエサ 1、羽音  『ラ・ボルキュンヌ』……都内にある、駅前の公園とむかいあう品のいいフランス料理店。公園の時計を目にするまでもなく、お昼にさしかかっている。すなわち店は混んでいた。そのさなか、二人の男女がテーブルをはさんでランチの羊肉テリーヌを楽しんでいる。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
外は真冬、中は春のように暖かい。そこで冷やしたテリーヌを食べるのはなかなかの味わいだ。  男性の方は少なくとも六十才は過ぎているだろうか 。一目でオーダーメードとわかる肩幅の整ったスーツに、一見地味だがシックで持ち主を引きたてる腕時計をしている。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
目が肥えていればスイスの高級ブランドだとわかるだろう。少しやせていてがっちりした体格に、背は欧米人並みに高い。髪は黒いままで、間違いなく白髪を染めている。遠目には穏やかな表情をしているように思えた。  女性の方は男性よりは金のかからない身なりをしている。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
貧乏なのではなく無駄な金を使わない主義なのは、まだ二十代であろう若さと屈託のなさそうな表情に、金色に染めた髪が半ば強引に裏づけていた。彼女が食器を動かす度にかすかに胸がゆれ、小さくしまった唇が開くときれいに整った歯がちらちら現れては消えた。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
二人の会話は隣の席にいてさえ聞きとられない。まして壁の代わりを果たす広くて分厚いガラスごしにでは。しかし、 駅前の噴水広場で冷たい風をもっと冷たくする水の流れを背に、噴水のふちに座ってスマホの画面をのぞく幸山にとっては大した問題ではない。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
彼は、レストランの男女に比べるとどこにでもいる二十代の男性としか思えなかった。黒髪黒目、中肉中背。おしゃれらしいおしゃれは頭にかぶったつば広の帽子だが、これとてせいぜい三千円かそこらの品だ。にもかかわらず、幸山はスマホの画面から一攫千金のにおいを冷静に……つとめて冷静に……
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
感じとっていた。とはいえ、明らかに自分よりは生活水準の高い人々を目だたないように監視し続けるのは不満がたまる。怒鳴ったりわめいたりできないので、右足のつま先で路上に絵を描くことにしている。ペンキかなにかで本当に描くのではない。頭の中で描いたつもりになるだけだ。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
最初は相合傘や子供むけの簡単な漫画キャラクターだった。修行を繰り返してレベルが高くなり、この時の彼は丸暗記したゴッホの『ひまわり』を模写している。右足の靴がすり減ってしまうが、いちいち注目する人間はいないだろう。盗撮は順調だし。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
幸山のスマホには、ランチを楽しみながら会話する二人の男女が写っている。手にしたスマホのカメラは地面をむいているのに。実は、帽子の中にもう一つスマホがあり、一見しただけではわからないよう模様にまぎらわせた穴から『ラ・ボルキュンヌ』の様子を撮影していたのだ。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
二つのスマホはオンラインでつながっており、いってみれば頭のうしろに目玉がついたようなものだ。会話そのものが聞こえなくとも二人が日本語をしゃべっているのはほぼ間違いない。だから、口の動きを読唇術アプリで解析すればおおよそしゃべっている内容がわかるはずだ。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
ただ、男性についてはアジア系なのがわかるだけで日本人かどうかは定かではない。日本語だけでなく英語なり中国語なりできるかもしれない。幸山としては女性の方こそ多少の面識のある人間だった。そもそも彼女を知ったのは一ヶ月ほど前になる。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
タワーマンションで若い起業家が集まる私的なパーティーを取材した時だ。いうまでもなく、幸山としても今よりはずっと高い服を身につけた。彼女、川島 津美はキャバクラ嬢上がりの投資家で、背は日本人女性にしては高め。派手めなメイクと美貌で参加者の人気を集めていた。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
その時は名刺交換とあいさつをしたきりで、取材そのものは全く無関係な主宰におこなった。無視されがちにせよ、幸山もまた若き起業家ではあった。自分一人で著名人や芸能人を取材し、記事をブログに上げるのを表の生業に選んでいる。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
その裏では、著名人や芸能人をつけ回して様々なゴシップネタを手に入れ、欲しがる人間に切り売りする仕事をしていた。個人の情報屋である。この手の仕事でまず肝心なのは『初めの一歩』に他ならない。それは、キャバクラから退勤した女性……川島とは別人だが……のあとをつけ、住所を特定し、
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
今度はその女性と同伴出勤した男性に嬢の住所を売った。金で売ったのではなく人脈を紹介してもらった。その二人がどうなったのかは知らない。関心もない。川島と初めて会った日、主宰の中年男性から話を聞きつつ、ポケットのスマホにパーティーの会話を録音させていた。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
読唇術にせよ大勢の会話の仕分けにせよ、多少金を出せば専用のソフトがすぐダウンロードできる時代だ。アルコールも入り、記者……つまり幸山……がいなくなって多少は気のゆるんだ彼女は、重大な個人情報のかけらをもらしていた。例えば学歴。高卒だそうだ。例えば出身家庭。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
意外にも西日本の地方都市で、母子家庭。両親は籍をぬかずに仮面夫婦をしている。そんな母親はスーパーのパートと知られた。つまり、大した教育は受けていない。外国語など論外だろう。投資そのものは、キャバクラ嬢時代に得意客から有力な情報を聞きつけたそうだ。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
そして、住所の……住所そのものではないが……手がかり。特定には大して時間がかからなかった。限られた人々の住む地域なのだから。  以来、川島を張りこみ、ついにヤマが動く気配を感じた。それこそ、まさにこの会食なのだ。  食事が終わり、席をたった二人はレジで勘定をすませた。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
幸山は間髪を入れず次の手だてにかかった。通りすがりの人々の記憶に残らないよう、しかしできるだけ急いで駅の出入口の脇にある駐輪場へ。そこには自分の原付をとめてある。スマホつきの帽子はリュックに入れ、原付の座席の中からヘルメットを出した。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
街中なら、自動車よりも小回りが効いてどこにでも止められる原付の方がかえって便利だ。それに、昼間は道路がこむから自動車はそうスピードが出せない。白バイやパトカーにはりつかれでもしない限り、法定最高速度になど全く関心を寄せなかった。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
「お兄さん、ちょときて下さい」  たどたどしい日本語と、すべすべした手が幸山をつんのめらせた。 続く
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
思わず振りむくと、一人の女性が自分の右手首を握っている。彼より少しだけ年上そうで、少しだけ背が低い彼女は、セミロングでウェーブのかかった茶色い髪に長いまつ毛のついた青い目をしていた。やや厚目の唇が不安そうに閉じられている。全体的に欧米風の顔だちだった。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
川島より体型は控え目ながら、こういう状況でなければ幸山も憎からず感じたろう。 「知るか」  こういう状況なので、邪険にふりほどこうとした。存外力が強く、腕は握られたままだ。 「お兄さん、死体あるよ」 「警察にでもいえよ、バカ」  押し問答の間に川島と男性は外に出てタクシーを拾った。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
二人を乗せたタクシーはどこかに去った。 「ふざけんなよ!」  さっきからまとわりつかれたせいで、本気で腹がたった。 「お兄さん、死体あるよ」 「いい加減にしろ、こらっ。はなさねーと俺がお前に警察を呼ぶぞ」  人目がなければ、握られてない方の手にヘルメットを持ちかえて
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
殴っていたかも知れない。法律や倫理はさておき、一刻も早くあの二人を追うのは幸山にとって死活問題だ。 「お兄さん、警察お兄さんも困る」 「ああ!?」  幸山の右つま先が意味もなく路面をこすった。カマをかけているつもりか。情報を切り売りされた人間が罠を張ったのか。 「だから、死体あるよ」
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