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ヤブ蚊のエサ 連載二日目

見知らぬ女性に連れられ、路地裏で射殺体を目にした幸山は何者かに狙撃されました。  連載初回から読みたい方は https://togetter.com/li/1310162 をどうぞ。 続きを読む
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ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
思わず振りむくと、一人の女性が自分の右手首を握っている。彼より少しだけ年上そうで、少しだけ背が低い彼女は、セミロングでウェーブのかかった茶色い髪に長いまつ毛のついた青い目をしていた。やや厚目の唇が不安そうに閉じられている。全体的に欧米風の顔だちだった。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
川島より体型は控え目ながら、こういう状況でなければ幸山も憎からず感じたろう。 「知るか」  こういう状況なので、邪険にふりほどこうとした。存外力が強く、腕は握られたままだ。 「お兄さん、死体あるよ」 「警察にでもいえよ、バカ」  押し問答の間に川島と男性は外に出てタクシーを拾った。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
二人を乗せたタクシーはどこかに去った。 「ふざけんなよ!」  さっきからまとわりつかれたせいで、本気で腹がたった。 「お兄さん、死体あるよ」 「いい加減にしろ、こらっ。はなさねーと俺がお前に警察を呼ぶぞ」  人目がなければ、握られてない方の手にヘルメットを持ちかえて
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
殴っていたかも知れない。法律や倫理はさておき、一刻も早くあの二人を追うのは幸山にとって死活問題だ。 「お兄さん、警察お兄さんも困る」 「ああ!?」  幸山の右つま先が意味もなく路面をこすった。カマをかけているつもりか。情報を切り売りされた人間が罠を張ったのか。 「だから、死体あるよ」
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
「もういい!」  川島達を追うのは手遅れだ。なら、死体なるものを別なネタにした方がまだましだろう。商売柄、死体そのものは怖くない。用心はするにしても。 「わかったから案内しろよ。お前が先だ。知り合いと思われたくねーからあとをついていく」 「うん。ありがと」  ようやく手をはなし、
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
女性は歩き始めた。幸山は、原付は戻したものの、ヘルメットは手にしたままだった。いざというとき、ヘルメットは棍棒代わりになるし、もちろん頭を守るのにも使える。  五分後、二つの雑居ビルの背中にはさまれた細長い路地へと女性は入った。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
それぞれのビルのゴミ置き場になっており、冬場なので悪臭はひかえ目だった。それにしても、昼なのに薄暗くよどんだ空気は払いようがない。 「ここ、ほら」  ポリバケツや市役所指定のロゴ付ゴミ袋が寄せ集められた場所を女性は指さした。幸山はヘルメットをかぶり、
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
スマホのカメラレンズをゴミ袋へむけて近づいた。  彼女は嘘をついてなかった。誰かが一人、ゴミ袋に埋もれて横たわっている。壁際に寝かせて、上からゴミ袋をかぶせてカモフラージュした形だ。これなら、ゴミ回収車がくるまでバレはしないだろう。 「ゴミ袋をどけろ」  遠慮なく女性に命令した。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
自分こそ被害者だという意識もあるし、なにか仕かけがないとも限らない。  女性は口をつぐんだまま手を動かし、死体の顔があらわになった。四十代くらいの男性で、大して上等でもない背広ネクタイをしている。少なくともアジア人だ。においのなさからして死んで間もないというのは断言できるだろう。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
なにか理不尽な打撃を急に受けたかのように、かっと目を見開いている。問題は死因だった。頭に一つ、穴が開いている。戦争映画やテレビゲームを持ち出すまでもなく、射殺されたのだ。しかもかなり腕がいい。一枚目の写真を撮影する直前、ポリバケツの下からゴキブリがはい出てきた。 「うわぁっ!」
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
幸山は、ゴキブリはすぐに殺虫剤で殺す。手元にそれはない。ならば飛びのくほかはない。その瞬間、ヘルメットをなにかがかすめ、ゴミ袋にブスッと穴がうがたれた。焼けた鉄のにおいもする。思わず尻もちをついた彼は、ヘルメットをぬいだ。額にあたる部分に、
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
人差し指で横からこそぎ落としたようなくぼみができている。理解に苦しむうちに、ぱたぱた走る足音がした。女性が背を向けて逃げていた。 「おいっ、待てっ!」  座ったまま幸山は叫んだ。効き目はなかった。女性は表通りに消えた。  ゴミ袋の穴といい、ヘルメットの様子といい、狙撃に間違いない。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
誰がなんのためにかはどうでもいい。脱出が先決だ。二発目がないところからして、姿勢を低くしていれば狙われずにすむのだろう。なら、はっていけばいいのか。いや、本気で自分を殺すための罠なら、あせって動くのをふまえてもう一人の狙撃手が反対側にいてもおかしくない。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
ただ、表通りから幸山に気づいた人間はいない。大声で誰かの注意をひきつけるか、それこそ警察でも呼ぶか。いずれも目だつ。情報屋がやたらに目だつのは論外だ。思案にくれるうちに、図らずも死体と目が合った。そして、スマホを握りしめたままなのを思い出し、閃いた。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
彼は一一九をダイヤルし、射殺体とはいわずいき倒れとぼかして通報した。救急車がくれば野次馬にまぎれられる。狙撃手も、そんなごった返しの中で殺しはできないだろう。  数分後、文字通り急を救う車のサイレンが聞こえてきた。幸山は生まれて初めて救急車を呼び、生まれて初めて救急車に感謝した。
ぞろ目の八ことマスケッター(旧 1d6) @hm1d6
救急車は裏路地のすぐ手前に停車したので、狙撃手からは自分は死角に入ったに違いない。 続く