花焰の道 〜 BOTH 2984 〜 #FSS_jp
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≡ BOTH 2984 ≡
カステポー、ジキ・シティの雑踏の中を、マントを羽織り、フードをか被った小柄な人影が、やや急ぎ足で歩いている。人々の間を縫い、時々脚を止めて周囲を見回す様子から察すると、誰かを、或いは、何かを、探しているのだろうか。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:02:35(はぁ、いつも勝手にいなくなってしまうんだから・・・) その人物は小さく溜息をつくと、少しフードを上げて空を、或いは林立する建造物の上を見上げた。まだ幼く見える、頬にソバカスの散った少女の顔が覗いた。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:02:58その顔に見て取れるのは、困惑というよりも、諦め・諦観だろうか。どこか、清々しさも感じられる。少女の腹が音を立てた。恥ずかしそうに腹を手を当て、周りを見回す。街に溶け込んだ小柄な人物に注目している人は誰もいない。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:03:21(何か食べよう。もうお昼もだいぶ過ぎているし) 少女は胸を撫で下ろすと、適当な飲食店はないかと辺りを見回した。中点を通り過ぎたとは言え、ウェスタの強い陽射しは、街に、建物に、そして少女に降り注いでいる。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:03:51(まったく、丁(ティン)様、今日はどこに雲隠れしたのかしら) 小さな食堂を見つけて落ち着いた少女──クー・ファン・シーマ元イーミュ王国王子の侍従、パルゥ・スェイン──は、注文した軽食を頬張りながら考えた。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:04:39ここ数日、丁に付き従ってボォス星を訪れている。昨日まではノーキィ・シティに滞在し、今日、このジキ・シティに来る予定だった。昨日、ノーキィ・シティにとったホテルに泊まったところまでは丁も一緒だった。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:05:21しかし、一夜明けると、ベッドから主人が消えていることにスェインは気付いた。残されていたのは、 先に行っている。 後からゆっくり来い。 とだけ書かれたメモ一枚。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:06:19またいつもの気まぐれか、とスェインはあまり深くは考えず、ホテルで朝食を手早く摂った後、チェックアウトを済ませて予定していた通りにジキ・シティへと来た。昼前に街に着いてからずっと、逐電した主人を探しているが、まだ見つからない。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:07:25(丁様のことだから、一番ありそうなのはその辺の屋根の上だけれど・・・トラブルを探して街中を散策しているかも・・・) 今までのところ、大きなトラブルがあった気配はない。街は平穏そのものだ。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:07:57尤も、ザンダ・シティやヴァキ・シティほどではないとは言え、それなりの広さがあるこの街で騒ぎのすべてが耳に入るとは限らない。しかし、騎士やグリント・ツヴィンゲンが絡めば必然的にある程度の大きな騒ぎになるはずだ。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:08:51それならば、どこか高い所から下界を見下ろしている可能性が高い。食事の後は高所をより重点的に探すことに決めて、スェインは軽食の残りを急いで腹に納めた。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:09:18「遅かったな」 スェインの主人は、街で一番高いビルディングの、普通なら人の出られない屋上で寝転んでいた。 「こんな場所にいらっしゃったのですか。探しました」 四つん這いで、慎重に主人に近寄りながら、スェインは答えた。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:10:18「ここに上がるのに苦労しました。丁様はひとっ飛びでしょうけれど」 「探し当てたのだから、文句を言うな。時間にも間に合ったことだし」 「時間?」 スェインは首を傾げた。これまで行方をくらませた丁が、スェインの探しに来る時間を気にしたことはない。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:10:49「そろそろ時間だ」 そう言ったきり、丁は西の空、或いは大地を見つめている。スェインも丁の隣に腰掛け、主と同じものを見ようとした。広く広がるカステポーの大地、その向こうにそびえる山脈、そして、そこへ沈んで行こうとするウェスタ。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:11:24「っ!」 スェインは息を飲んだ。夕陽が山の端に掛かった時、手前の大地にうねるような七色の光の道が現れた。北から南へと続く、光の道。まるで、七色の焰をあげているようだ。 「二千年以上前、詩女が都行きの途上に蒔いたという花の道だよ」 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:11:54隣で話す丁の言葉を、スェインは夢見心地のまま聞いた。 「この時期、数日だけ、ほんの数分間、このビルの屋上から眺めると、花弁が夕陽を反射して七色に光って見える。俺が知ったのも偶然だがね」 主人の言葉を聞きながら、幻想的な光景にスェインは見惚れた。 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:12:29「丁様、これを私に見せるために、時間を気にされていたのですか?」 「まあな」 「でも、どうして」 「なんだ、自分では忘れていたのか」 クー・ファン・シーマは、殺人狂とは思えない優しい目付きで微笑んだ。 「Happy Birthday」 #FSS_jp #twnovels
2019-01-21 00:12:53
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ジキ・シティとは
暗殺者 ニードル・ショットが請け負った仕事に失敗した、ボォス星の架空の街。名前はもちろん、静寂の詩女・ジキジディ様から戴いております(^^)