戦術人形ログ "甘い毒" Episode 2 "義体"

ドールズフロントライン二次創作 UMP45視点での物語 第2話 2019/01/21時点での途中経過
0
寝る子@ @neruko3114

私の元に届いた一通の封筒には,不正を働く指揮官の暗殺依頼が入っていた。差出人は私の仕事相手を騙り,戦術人形たちの間で使われている暗号化方式を踏襲してきた。復号に必要なパスワードは,私とある人間との間で決めた合言葉。これらの情報から,思い当たりがあるのは一人だけ。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:04:20
寝る子@ @neruko3114

携帯電話を取り出し,記憶に残している番号を叩く。呼び出し音が数回鳴ってから,電話の相手は「はい」とだけ応えた。聞き慣れた声,いつも通りの返答に私は安堵する。こうして話をするのは久しぶりになることを踏まえて,私はその声に答える。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:04:51
寝る子@ @neruko3114

ドールズフロントライン二次創作 #戦術人形ログ 「UMP45」のログより: "甘い毒" Episode 2 "義体"

2019-01-21 22:06:43
寝る子@ @neruko3114

「……久遠?」もし目の前にいたならば,きょとんとした顔をしていただろう。声音からそんなニュアンスを聞き取った。「どうしたの?」続く言葉に私は呆気にとられた。指揮官は私が電話をかけてきたことに心当たりがない様子だった。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:07:53
寝る子@ @neruko3114

「どうしたのって……依頼書,送ったのは指揮官でしょう?」「依頼書……?何のこと?」全く想定外の返答に私はため息をつく。こうまで言われてしまっては,相手はすっかり忘れているのだろう。あるいは私が依頼書の差出人を指揮官だと思ったのが勘違いだったか。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:08:37
寝る子@ @neruko3114

二択を考えて,私はすぐに後者を否定した。あの合言葉を知っているのは私と指揮官の二人だけである。漏れていないという前提に立つならば,信じるべきは前者である。とするならば,こういう時のためにお互いの間で交わした約束事に従うしかないのだろうか。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:10:07
寝る子@ @neruko3114

指揮官は私たちに出した依頼のことを忘れた――正確には,本人には記憶があるのだけれどそれを思い出せずにいる――時のために合言葉を設定している。それを使うということは,私はあなたから重要な依頼を受けていましたよ,という表示になる。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:11:03
寝る子@ @neruko3114

同時に指揮官にとっては,思い出すための起点となる。どういう記憶の仕方をしているのかは知らないが,依頼した事実と合言葉があれば依頼した内容を思い出せるらしい。もし依頼していなければ思い出せない。単純な二択ではあるが,しかし私に与えられた合言葉を言うのは恥ずかしい。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:12:03
寝る子@ @neruko3114

どうしたものかと逡巡しているところに,指揮官の声が混ざる。「依頼書……依頼書……。んん……?そういえば郵送したような……」それから何かを探しているのか,ページをめくる音や端末を操作する音が混ざってきた。私は依頼者が指揮官であってほしいと思いながら次の応答を待つ。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:14:26
寝る子@ @neruko3114

時計を見ながら返答を待つ。すると数分後に返答がきた。「あったあった。えっと,その件ね」「ようやく思い出してくれたようね」「ごめんなさい。ちょっと別のワークで忙しくて」「でしょうね。前の時もそうだったし」 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:15:25
寝る子@ @neruko3114

大体優先度の高いワークやリソースを多くとられるようなものにとりかかっていると忘れている。それはいつも通りのことだ。「それで,いくつか聞きたいのだけれど」前置きはそこそこにして,私は本題に入る。依頼書を読んでも,依頼内容と対象の概略くらいしかなかった。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:18:20
寝る子@ @neruko3114

私は手元にメモ用紙を用意する。ペンを走らせて日付を書き,題目は……話を聞いてから決めることにしよう。電話の相手は仕事相手ということにして,カナリア書房とする。メモ用紙の隅に印を書いておく。こうすれば誰かに見られても,仕事のメモ書きにしか見えない。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:19:16
寝る子@ @neruko3114

「まず,上の許可はとっているの?」資材の横流しという不正を働いているとの名目はあるものの,身内に手を出すのだから話は通しているはず。そうであってほしいと思う反面で,これまでの経験から私には嫌な予感がする。「とってないよ」指揮官は平然と答えた。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:20:30
寝る子@ @neruko3114

「これは私の独断で実行する。だからあなたに依頼しているの」「上級執行官への通告は?」「してない。あの野郎に言ったところでもみ消されるか報復が関の山ね」「……ヘリアンさんに相談は?」「他にとられているのが半分,迷惑かけたくないのが半分」「……そう」 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:21:07
寝る子@ @neruko3114

他にもコンプライアンス部門への通告,上級執行官よりさらに上層への匿名通告を提案したものの,どれも身元が露呈することを理由に却下された。そもそも私のところまで来ている時点で,回避策を提案しても無駄なことは分かっていた。ここは私が折れるしかなさそうだ。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:22:16
寝る子@ @neruko3114

「……はあ,分かった。これ以上は無駄ね。最近収入が心もとなかったの」「ありがとう」形ばかりの礼を受け取って私は話を次に進める。とはいえ対象は指揮官である。外部の人間――私は戦術人形だが――が接触する体裁をとるにしても,容易には近付けないだろう。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:23:15
寝る子@ @neruko3114

打開策が気になり,こちらから話を切り出したところ,興味深い返答が来た。「IOP社が被験者を募集しているプロジェクトがあって,そこに枠を確保してある」「IOPが被験者を?詳しく聞かせて」話を聞きながら私はペンを走らせる。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:24:19
寝る子@ @neruko3114

「義体プロジェクト,彼らは呼んでいるらしいのだけれど」私は暗号化プロトコルを起動する。題目は自律人形のメンタルモデルの指向性について。メモ用紙の上には,次の原稿のプロットに偽装したメモ書きがはじまる。義体プロジェクト,聞き慣れない名前だと思いながら続きを聞く。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:29:05
寝る子@ @neruko3114

内容は名前の通り人形の意識を別の人形,つまり義体に移す試みだという。これが人間に適用する話であって,その試験ならばまだ理解できる。しかし人間と異なり,修復すれば運用に支障がない人形に義体を用意しようとは一体どういう次第なのか,疑問を抱いた。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:30:23
寝る子@ @neruko3114

しかし私の疑問はともかくとして,今回はこのプロジェクトを利用して潜入を試みるプランだという。義体を使えば,私は試作品の人形として対象の部隊に潜入できる。どこかの指揮官の命令で戦場にいたところを救助されるシナリオを描いていた私にとっては,よりやりやすい方向だ。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:31:48
寝る子@ @neruko3114

「それで,私の義体についてのプロフィールはある?」「えっとね……久遠に割当予定なのは……」私は頭の中でどんな人形が割り当てられるだろうかと,考えを巡らせて期待する。どんな人形であれ,それらしく演じるのは得意だ。指揮官と初めて会った時もうまくやれていた。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:34:02
寝る子@ @neruko3114

その延長か,あるいは多少の方向転換があるとしても,私はうまくやれるだろう。私は指揮官の応答を待つ。書類から探しているのか,ページをめくる音が聞こえる。少ししてページをめくる音が止まる。「あったあった」携帯電話の向こうから声が聞こえるまで,長く感じた気がした。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:35:01
寝る子@ @neruko3114

「えっと……M4A1のコピーね」「M4A1……?」「そう,16LAB所属のAR小隊のリーダー。指揮モジュールを搭載した戦術人形の先駆けね」噂では聞いたことがある。指揮官を必要としない,戦術人形だけで作戦行動を実行できる特殊小隊。 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:36:18
寝る子@ @neruko3114

そのリーダーのコピーを義体として選ぶとは,一体どういう風の吹き回しだろうか。AR小隊の成功を聞いて,同じようなことをしようと考えたのであれば,あまりにも選択が安易すぎる感は否めない。「よりによってM4A1って,安易すぎない?」「私も同じことは思ってる」 #戦術人形ログ

2019-01-21 22:37:21