Y Tambe先生の「はしか」の話

アイコンはコーヒー豆なのにすごいかっこいい。
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Y Tambe @y_tambe

麻疹の発症メカニズムは割と最近になって、いろいろ発見があったものの一つだったりする。

2019-01-21 17:45:08
Y Tambe @y_tambe

「ある病気に罹ると別の感染症にも罹りやすくなる」という現象が、いくつかの疾患で見られるのだけど、じつはこの現象が認識されたのは麻疹(はしか)が最初。 ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/P… "Measles was the first disease recognized to increase susceptibility to other infections"

2019-01-23 11:41:26
Y Tambe @y_tambe

麻疹ウイルスは、いわゆる「空気感染」でヒトからヒトに伝染していく病原体。ここで言う「空気感染」は「飛沫核感染」と呼ばれるもの。一般的な風邪のウイルスなどもヒトからヒトに伝染するが、そっちは「患者の咳やくしゃみで飛び散る飛沫(唾液や鼻汁などの水滴)」による「飛沫感染」が主体(続

2019-01-23 11:46:12
Y Tambe @y_tambe

承前)こうした飛沫は数メートルほど先まで飛び散るが、水滴自身のの重さのため、時間が経つと地面に落下する。このため「飛び散ってから落下するまでの時間」に、それを吸い込んだ人が感染することになる。これが「飛沫感染」。一方、「飛沫核感染」(続

2019-01-23 11:49:43
Y Tambe @y_tambe

承前)一方、「飛沫核感染」は、こうした水滴が空中を飛んでるうちに水分が蒸発して小さくなったもの(飛沫核)によっても伝染する。一般的な風邪のウイルスには、水分が蒸発して乾燥すると感染性を失ってしまうものが多いけど(続

2019-01-23 11:52:40
Y Tambe @y_tambe

承前)麻疹や結核、水ぼうそうなど一部の病原体は飛沫核の状態になっても感染性が失われない。こうした飛沫核は、空気中の微粒子(エアロゾル)として、長時間空中にとどまりつづけ、空気の流れによってより広い範囲に拡散する。このため「飛沫感染」しかしないものよりもはるかに伝染性が高い(続

2019-01-23 11:56:23
Y Tambe @y_tambe

承前)臨床家の多くが「空気感染」と呼ぶのは、だいたいはこの「飛沫核感染」という伝染パターンのことだと思っていい(ただし基礎系だとそもそもヒト-ヒト伝染しないようなレジオネラ肺炎とか肺アスペルギルス症を意味するようなタイプを「空気感染」として、「飛沫核感染」と使い分けることも)

2019-01-23 12:00:23
Y Tambe @y_tambe

承前)ところで、この「飛沫核感染」のもう一つの特徴は「飛沫核の小ささ」にある。最近、大気汚染で問題視されている「PM2.5」と同様に、我々が呼吸とともに吸い込んだ微粒子の中でも特に小さなものは、気道の途中で引っかからずに、肺の中まで到達可能になる(続

2019-01-23 12:03:36
Y Tambe @y_tambe

承前)もちろん私たちの体には、そうした小さな異物を排除するための仕組みが存在していて、肺の中では一般に「肺胞マクロファージ」が異物を食べて排除する「掃除屋」として働いているのだけど(続

2019-01-23 12:05:26
Y Tambe @y_tambe

承前)じつは麻疹ウイルスは、このマクロファージと、樹状細胞と呼ばれる免疫系の細胞に真っ先に感染するという性質を持っている。

2019-01-23 12:09:26
Y Tambe @y_tambe

(アニメ「はたらく細胞」のおかげで、「マクロファージ」とか「樹状細胞」とかが伝えやすくなった感)

2019-01-23 12:10:19
Y Tambe @y_tambe

(はたらく細胞では、「白血球」こと好中球が主役になってるけど、実際のところ、食細胞系として好中球はいわゆる「鉄砲玉」に、自分もろとも病原菌を殺すことにだけ特化してるので。実際に免疫システム全体を理解するには、マクロファージや樹状細胞の役割が大事なので、そこはちょっとだけ不満が)

2019-01-23 12:14:42
Y Tambe @y_tambe

食細胞系の中でもマクロファージや樹状細胞は、好中球にはない「抗原提示」という機能を持っている。自分が食べてやっつけた異物を、細胞内で消化し、その断片を細胞表面に提示するという機能。これをヘルパーT細胞が認識することで、その異物に特化した免疫が誘導されて、抗体が産生されたりする(続

2019-01-23 12:17:55
Y Tambe @y_tambe

承前)このため、マクロファージや樹状細胞は「抗原提示細胞」とも呼ばれるのだが、その表面には、ヘルパーT細胞などのリンパ球を活性化するのに必要な「SLAM」(別名CD150)と呼ばれるタンパク質がある。じつは麻疹ウイルスは、このSLAMを目印(=ウイルス受容体)として結合し、その細胞に侵入する。

2019-01-23 12:20:48
Y Tambe @y_tambe

承前)SLAMはマクロファージや樹状細胞以外にも、一部のリンパ球にも存在しており、感染後の麻疹ウイルスは「気道のマクロファージ/樹状細胞→リンパ球」と感染を広げ、直近のリンパ節を経て、血流に乗って全身に広がっていく。実は、これがまだ「初期段階」。(続

2019-01-23 12:24:23
Y Tambe @y_tambe

承前)麻疹の初期段階では発熱や、「カタル」と呼ばれるような鼻風邪の症状や目の充血などが見られるが、特徴的な全身の発疹などは出ない。このため他の病気との鑑別がつきにくいけど、この段階で既に、ウイルスが随所に広まってるし、患者が感染源になるのが厄介なところ(続

2019-01-23 12:28:16
Y Tambe @y_tambe

承前)んで、その後。麻疹ウイルスは感染したリンパ球とともに血流に乗って、気道に到達する。気道の表面には「気道上皮細胞」という細胞が並んでいて、隣り合う上皮細胞同士は、細胞表面のタンパク質を利用してぴったりと結合している。(続

2019-01-23 12:32:08
Y Tambe @y_tambe

承前)この、細胞間の結合に関わるタンパク質の一つに「ネクチン4」というものがあるのが、じつはこのネクチン4が、麻疹ウイルスに対するもう一つの「受容体」になってる(続

2019-01-23 12:33:38
Y Tambe @y_tambe

承前)リンパ球には、こうした細胞間の狭い隙間を通り抜ける(=遊走)能力があるため、血中にのってやってきたウイルス感染リンパ球から、ネクチン4を介して、気道上皮の細胞に麻疹ウイルスが感染する(続

2019-01-23 12:36:17
Y Tambe @y_tambe

承前)面白いことに…と言ったら語弊があるのだけど、感染した気道上皮細胞で新しく作られた麻疹ウイルスは、もっぱら管腔側(=のどの中)だけに放出される仕組みになっている。そうすることで、気道に放出されるウイルスが増えて、他の宿主に伝染しやすくなる仕組みだと思われる(続

2019-01-23 12:40:40
Y Tambe @y_tambe

承前)この段階が「麻疹の後期のはじまり」あたり。気道上皮細胞での感染によって、頰の内側とか口の中に「コプリック斑」という病変が出てくるので、診断しやすくなる(続

2019-01-23 12:44:40
Y Tambe @y_tambe

承前)ここまで来たあたりで、やっと「免疫」が追いついてくる。もともと我々の細胞は、そのとき細胞内で合成しているタンパク質の一部を消化して、自分の細胞の表面に提示するという、マクロファージや樹状細胞とは別のかたちの「抗原提示」を行なっているのだけど(続

2019-01-23 12:49:18
Y Tambe @y_tambe

承前)麻疹ウイルスに感染した上皮細胞が、いつもと違う「麻疹ウイルスのタンパク質の消化断片」を提示すると、それを細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)が認識して活性化され、感染細胞を排除する「細胞性免疫」が誘導されてくる(続

2019-01-23 12:51:40
Y Tambe @y_tambe

承前)このとき、すでに麻疹ウイルスに感染したリンパ球は、血流に乗って全身に広がっているので、全身のいたるところで「キラーT細胞が感染細胞を殺して排除する」ことに。このときキラーT細胞が放出するサイトカインが、皮膚のいたるところで発疹を起こす。これが「麻疹」でイメージされる発疹に(続

2019-01-23 12:55:06
Y Tambe @y_tambe

承前)なので、麻疹でラッシュ(赤い発疹)が出てるのは、じつはある意味「治りかけ」の段階だったり……つっても、このときもまだ患者からの感染性はあるのだけど。(続

2019-01-23 12:56:51