暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がるスマートフォンの光。やや置いて、室内に鳴り響くアラーム音。 目覚ましに呼応してぱちりと目を覚ました少女が、すらりとしたその指先でアラームを止める。 真っ暗闇、照り返すブルーライトが少女を幽鬼のように染め上げている。
2018-12-25 04:29:05黒いショートヘア。碧い瞳。生白い肌。 少女がスマートフォンの画面から視線を外し、不安げに暗闇を見る。彼女はその闇の向こうにーー赤い炎を、見た。 揺らめく炎。煌めく火の粉。燃えて、燃やして、燃やし尽くして。荒れ狂う炎はまるで伝承の火蜥蜴のように。 火が、火が、火が。 迫ってくる。
2018-12-25 04:29:05炎の形をした人、人の形をした炎が歩いてくる。 それは何だっただろう。それは誰だっただろう。人なのか、炎なのか、それともそれらからかけ離れた化物なのか。 わからない。わからない。わかりたくない。 炎の向こうに面影を見た。とてもよく似た顔。あどけない。黒い紙と蒼い目。
2018-12-25 04:29:06ああ、燃えている。髪が黒く。瞳が蒼く。炎を湛えて。触れれば焦げるほどの熱を纏って。 それを、怖いと感じた。 喪うのが怖くて、傷つけられるのが怖くて、得たいの知れないものになってしまった「それ」が怖くて。 そうして、私は何もできずに。 わたしは、ほのおにやかれて。 .
2018-12-25 04:31:49暗闇に、光を見る。 目も眩むほどの炎を見る。 きゅう、と心臓が縮む。喉が絞まって、息が詰まった。 辛うじて冷静な頭が震える指を操作して、音楽再生画面に一曲だけ登録されている音楽を再生させる。 流れ出すのは静かな曲だ。牧歌的で郷愁を誘う子守唄だ。
2018-12-25 04:36:01その子守唄は少女の心を唯一落ち着かせるものだ。深層心理に埋め込まれた暗示が彼女をそうさせる。 子守唄は彼女を炎から遠ざけ守る、障壁となる。 心がすっと冷えて、全ての出来事が遠くなる。薄いヴェールを覆い隠したように他人事になる。 マインドコントロール。 私が私であるための精神掌握術。
2018-12-25 04:39:24心が十分落ち着いたところで、彼女は漸く布団から抜け出した。未だ子守唄はスマートフォンから流れ続けている。 電子機器の表示を見る。二時三十五分。次の任務開始まであと二十五分。あまり時間はない。 少女がパジャマを脱いだ。薄暗がりに、はらりと白い布が落ちる。
2018-12-25 04:43:25何も纏わぬ少女の背中。その背には、珠の肌も憐れな醜い傷跡が残っている。 まるでその背を炎が鷲掴んだかのような、背の翼を焼き潰したかのような、見るも無惨な火傷痕。 炎が彼女を焼け焦がした痕跡が。 密やかに。 今も残る。 それを知るのは彼女と、もう一人だけ。
2018-12-25 04:47:40ーー午前三時。 東京近郊N市には昼夜を問わず平穏は無い。日常の裏で常に非日常は牙を剥き、そのかんばせを喰い破らんと吠えたてる。 そんな獣(ジャーム)を狩り、世界の均衡を保つのがUGNという組織。彼の組織の支部長室に、少女ーー春雨桜が今日も足を踏み入れる。
2018-12-25 04:50:52「春雨先輩、珍しく遅かったっすね」 そう驚いたような表情をするのは覚醒したての少年、賢者の石をその身に持つ九間右凪。 「支部長代理も疲れてる時はあると思う、から…」 そう心配そうにフォローをするのは永くを生きる女、古代種の蒼。 「遅くなってごめんなさいね。ちょっと寝覚めが悪くて」
2018-12-25 04:54:48苦笑して答えるのはこの支部のUGNエージェントである桜だ。彼女は室内を見渡し、自分に声をかけてこなかった少年へと歩み寄る。 「こら、慎悟!起きなさい!」 「んわっ」 ソファで寝こけていた少年……春雨慎悟がその声で飛び起きる。 「ん、ん、あ、姉貴。今来たの?」
2018-12-25 04:57:36「そうよ。まったく……支部長室で寝るなんて。ここは休憩室じゃないのよ」 「誰も使ってないから…」 「そういう問題じゃなくてね」 ばつが悪そうな顔をする弟を、姉が叱る。いつまでも世話が焼ける弟ねと姉が呆れれば、弟は少し満更でもなさそうな曖昧な笑みを浮かべる。
2018-12-25 05:00:16「もう、頼むわよ。今日の相手は氷使い、貴方の炎が無いと太刀打ちできないんだから」 そう言って、桜は今日の任務の説明に取りかかった。 その心は凪いでいる。 身を焼いた業火の記憶も今はヴェールの向こう側。任務に支障は無い。 今日も私は私の与えられた役割を果たすことができる。
2018-12-25 05:04:55. 炎が燃えている。 私の背で。 私の心で。 私の記憶で。 今もなお燃えている。消えずに燃えている。 子守唄でも雨の音でも消えない炎が燃えている。 その炎は私の大切な、弟の形をして。 .
2018-12-25 05:08:55#雨降り子守唄 "光羅万象(カレイドスコープ)"春雨桜 モルフェウス/エンジェルハイロゥ Dロイス:生還者 UGNのある支部に所属する物静かなエージェント。この支部では支部長が頻繁に入れ替わるため、実質的に彼女が支部長代理を担っている。 過去にトラウマがあり、精神催眠を上層部より受けている。
2019-01-06 03:54:51名前:"光羅万象(カレイドスコープ)"春雨桜 侵蝕率:0% スロット:《エンハイ》《モル》 打撃点:0 財産点:10 #dxcordx登録
2019-01-10 10:47:23UGN某支部の会議室。 複数の支部経由で人員を集めた大規模作戦は見事成功し、現在はそのデブリーフィングが行われている。 やがて、司会役の人物が終了と解散を宣言すると、空気は一気に雑然とし始めた。 舞踏院舞はそんな中、ある人物に話しかけた。 「春雨志部長代理、お疲れ様でした」 @hisyabun_sk
2019-01-12 23:54:08#雨降り子守唄 某市、駅前のスターバックスコーヒー。そこで日夜アルバイトに励む屈辱の前に、一人の少女が現れる。 黒いショートカットの髪に蒼い瞳の少女は、某市の有名高校の制服を着ている。おそらく時間的に考えて、高校の帰りなのだろう。 「すみません、注文お願いしますね」 →
2019-01-13 00:13:02そう少女が告げると、彼女は言葉を続ける。 「ベンティホワイトモカシロップエクストラチョコレートソースアドエクストラチョコレートチップアドホイップバニラクリームフラペチーノで」 滑らかにその唇から紡がれたのはある種の呪文であった。 @GCtakaraimin2
2019-01-13 00:13:02@hisyabun_sk 「ベンティホワイトモカシロップエクストラチョコレートソースアドエクストラチョコレートチップアドホイップバニラクリームフラペチーノですね?」 ナマモノはそれを復唱する。割とこのバイトは長いので、最初は混乱していた呪文もさらっと受け取れる。 →
2019-01-13 00:16:05@hisyabun_sk 「最近よく聞くカスタムですね。僕も今度試してみようかな。」 他のバイトとちょっと違い、スタバは接客に軽い雑談が入る。少なくともこの店舗の傾向としてはそうだ。
2019-01-13 00:17:11