ストレイトロード:ルート140(39周目)
- Rista_Bakeya
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愛用の鞄に穴を開けられた。経年劣化ではなく故意と断定した理由は外側を齧られた傷で、犯人はすぐに判明した。「どうしてお客様の荷物にチーズを隠したの?」宿の女将が少年を問い詰める。藍は私達に損害を与え追い出すためではと言うが、その為に食べ物を使った問題こそ説教の根幹のように聞こえた。
2018-12-04 18:43:31写真に映る石垣はどう見ても根元から崩れていた。一帯を踏み荒らされたか瓦礫でも飛んできたか、どのみち悲しい光景だ。「この写真の被害には他と違う点があります、さて何でしょう」藍が突然クイズ形式で意見を求めてきた。「正解は、ここだけ暴徒の仕業」先に言われてから見比べても違いが判らない。
2018-12-05 19:12:06町を歩いていたら私達の頭上に植木鉢が落ちてきた。直撃する前に藍が気づいたので破片と土が靴にかかっただけで済んだが、その落下ルートは信じ難いものだった。「落ちたっていうか、飛んできたのよ」藍は通り沿いに並ぶ仮設住宅の一つを指した。屋根の向こうで何かが跳ねた。「夫婦げんかの現場から」
2018-12-06 18:46:49海岸に臨む道路を進むこと半日、ようやく町が見えてきた。近づくほど舗装の修復跡が目立つ。無線用らしき機器が載った支柱も見かけた。「全然つながらない。そろそろ電波が来てもいい頃なのに」藍は手元の端末を気にしている。「修理が追いつかないのかもしれません」塩害の爪痕は素人目には判らない。
2018-12-07 18:53:52平原を横断する途中、怒り心頭の農場主に行く手を阻まれた。聞けば最近の悪天候で温室に被害が出たらしい。「ただ壊れただけかもしれないなのに、人が細工したって決めつけるなんて」自分だけ大目玉を食う展開を藍が黙って受け入れるはずがない。車が再発進した途端、近くの村へ引き返せと命じてきた。
2018-12-08 19:25:11「詰め放題?」籠に入った分だけ定額で買える。食品の安売りは貴重だと加わった藍は熾烈な戦いにすぐ適応してみせた。「まだ行ける!」山積みの缶詰の隙間に袋をねじ込み、もう一押しを試みた瞬間、不穏な音を立てて籠の縁が壊れた。過剰に詰め込めばそうなるという常識を軽く溶かす空気こそ恐ろしい。
2018-12-09 19:35:23通信室の機材はどれも動かなかった。外側は無事だが、中の基板が壊され複数の部品が失われていた。「なんとか直せない?他から持ってくるとかして」「同じことを考えた人がここにいたようです」中央の大きな機械を開けたことで当時の状況が判った。最も大事な一台を修理する為に他を犠牲としたようだ。
2018-12-10 18:42:10犬小屋の前には千切れた鎖だけが残っていた。庭全体を調べてみると、茂みの中から壊れた首輪が出てきた。素材も構造も頑丈そうだがどう破ったのか。「まず、ここにいたのは本当に犬だったの?」藍の疑問は尤もだが、これはすぐ否定された。飼い主に提示された写真には幼児より大きな個体が写っていた。
2018-12-11 18:39:25油を補充しても火がつかない。藍の文句をどこかで聞いた気がして、引き出した記憶が着火具を買った店での会話だった。同じことを店員に訴える客がいたのだ。「最後の手順を説明書通りにやると壊れるそうです」「それ欠陥じゃないの」直し方も立ち聞きしてよかった。人里を離れている今、火は生命線だ。
2018-12-12 19:56:31再建された駅を囲む混雑を見た時点で嫌な予感はした。藍が私に肩車を命じ、誰より高い視点で端末をかざした時、懸念が確信に変わる一言を耳にした。人々の目当ては再開通した列車ではなく、それに乗るお偉方への抗議だ。汽笛を合図に投石が始まった。私は群衆に押され、藍は黙って動画を撮影している。
2018-12-13 19:05:24電力や化学の恩恵を捨てたがる人々は昔からいたが、謎の侵略者によるインフラ破壊を経てそんな集落が急激に増えたと聞く。私達が見つけた場所もその一つらしい。様々な工夫の痕跡が残っていた。「誰かの日記がある」読み始めた藍が途中で絶句した。細菌との戦いに敗れ全滅するまでの壮絶な記録だった。
2018-12-14 18:48:35長蛇の列は車や家庭用電源の充電目当てだという。地域の電力供給が復旧しない理由は意外なものだった。「送電線を埋めたそばから掘り出されるんだって」藍は地面を指した。「自分の家に早く電気を引くために」日に何度も争奪戦が起きては工事も進まない。バッテリーを抱える人々の顔は一様に暗かった。
2018-12-15 19:08:58棚に並ぶ素焼きの器はどれも単純な形で、藍が手に取った一枚にはひびが入っていた。「この辺の土では脆い物しか作れなくてね」焼き物に向かない土地に工房を構えた理由は隣にあると職人は語った。やけに騒がしい小屋を覗くと、人々が皿を次々と壁の的に投げつけていた。「わたしもやる」言うと思った。
2018-12-16 18:45:10