クルセイド・ワラキア ＃２ 前編

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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◆NINJA SLAYER PLUSより【クルセイド・ワラキア】＃２◆ pic.twitter.com/c5KjMhZDPi

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◇これまでのあらすじ：ネオワラキアの国土を〈夜〉で覆う絶対君主、ブラド・ツェペシュの正体はニンジャであった！　歴史の闇に葬られしニンジャ真実の一端がついに明かされる！　フジキドはドラゴン・ドージョーより奪われし聖なるヌンチャクをブラドの手から取り戻すことができるのか！？◇

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フジキドは「ワ」「ラ」「キ」「ア」と書かれた流体ネオン・ノーレンをくぐり、カウンター対面式のスシ・バーに入った。「エーラッシェー！」カウンターからイナセな声が掛けられた。清潔感のある青いジュー・ウェアに白ハチマキの女スシ職人が彼を出迎え、カウンターに湯呑みとオシボリを置いた。　1

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店員は彼女一人。客は他に誰もいない。「ドーモ」フジキドはカウンター席に座り、彼女のジュー・ウェアを一瞥した。刺繍された名はルチア。スラヴ系の名前だ。間違いなく地元のスシ職人だろう。オシボリで手を拭き、チャを軽く啜ってから、フジキドはまず店内を見渡してみた。　2

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ウナギズ・ネストと呼ばれるタイプの店構えで、席はカウンター席が４つだけ。ネタは新鮮なピーマン、ケバブ、チーズ、エンガワ、サバなどが並んでいる。どれもルーマニア地方の特産品だ。「落ちついたいい店だ」「アリガトゴザイマス。お客さん、もしかして、ネオサイタマから？」「ハイ」　3

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「素晴らしい。私、いつかツキジに行ってマグロの修行するのが夢でした」ルチアは誇らしげに笑んだ。フジキドは小さく頷いた。この店を選んだのはアタリだったといえよう。「新しい土地についたらまず地元のスシ屋に行け」……それは長い放浪の旅を経験してきたドラゴン・ユカノの教えだ。　4

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「何にします？いいバイオヒラメが入ってますよ」ルチアが微笑みかける。黒海バイオヒラメは眼を８個持ちいささか不気味だが、発達したエンガワは美味で有名だ。「そうだな…」フジキドはメニューを見た。それはルチア自身の手でショドーされ、透明樹脂製スタンドにより汚れから保護されていた。5

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フジキドは答えた。「ワラキアの旬のオススメ、七貫盛りをいただこう」「ハイヨロコンデー！」ルチアは腕を振るい、スシを握り始めた。店の天井から吊るされたブラウン菅TVからは、ノイズ混じりのニュース番組が漏れ聞こえる。『再びルーマニ……失礼、ネオワラキア全土を〈夜〉が覆いました……』6

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『…シュマズ社の声明によれば、これは敵対メガコーポによる監視や誘導兵器等を防ぐための戦略的なものであり、特に健康面での不安はないとのこと。実際、カルパチア山脈付近を支配し、度重なる戦闘行為で文化遺産を破壊し続けていたカタナ社やオムラ社等の勢力は、この〈夜〉の訪れとともに撤退…』7

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フジキドはチャを啜りながらTVを見た。『…多くの市民はネオワラキアは我らのものだと叫び、ケモビールを掲げ〈夜〉の再来を祝しています。…しかしそれは本当に喜ばしい事態でしょうか？市街をパトロール中のバイオ狼が誤ってユーレイゴス巡礼者を殺…事件について、シュマズ社…だ…式な声明を…』8

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ザリザリザリザリ……TVニュース番組に侵食してくる高圧的な広域電波のノイズ。画面の色はモノクロームに変わり、01十字架に架けられメインフレームに直結されたデジクライスト像が映し出された。『：死せる電子の神は如此語れり：汝らGOTO10せよと：それは即ち大いなる1bitへの回帰なり：……』9

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『天地開闢の時よりこの世界には0と1しか存在しえず：すなわち男と女：生と死：神と人：天と地：その間のあらゆる揺らぎは全て偉大なるサーキットを過剰負荷にて麻痺せしめる：排除すべきノイズなり』〈教会〉こと論理聖教会の大規模放送電波だ。荘厳な僧帽にサイバーガスマスクの老人が説教を行う。10

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『……：死せる電子の神は如此語れり：汝ら全員就職せよと：秩序が失われたるこの世界に再び繁栄を取り戻すには：全ての人間にコードとIPを振りその行動の全てを死せる電子の神のためにトラックせしめよ：如何なる人間もメガコーポに対し忠誠を誓い、休む事なく勤労に励むべし：これは勤めなり：』11

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「すみません、消しますね。折角の雰囲気が」ルチアは苦々しい顔を作った。「いや、いい。できれば、そのままにしておいてもらえないか。ネオワラキアで何が起こっているのかを知りたい」「解りました、お客さんがそういうなら」ルチアはホッと息を吐き、スシを握り直し「ハイ、お待たせしました！」12

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ルチアは美しい七貫盛りをフジキドの前に差し出した。「ドーモ」 フジキドは小さくオジギして、それを両手で受け取った。そしてショーユ皿にショーユを取った。そこでルチアが声をかけた。「あ……スミマセン、一個聞いておくの忘れました。……お客さん、論理聖教会の信徒じゃないですよね？」　13

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「ああ、違う。うちはストレート・ブディズムだ」「そうですか！ああ良かった。最近じゃあウカツなこと言えませんからね。まあ気にせず、スシを楽しんでください」「いただきます」フジキドはまず、緑鮮やかなピーマン・スシを選んだ。それはシャリに合わせて、程よい大きさにカットされていた。　14

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フジキドはそれを摘み、ショーユをつけ、口に運んで、咀嚼した。シャク、シャク、という小気味の良い歯ごたえと、ピーマン特有のほのかな苦味、次いで深い甘みが、口の中で少し硬めの酢飯と混ざり合った。ルチアはカウンターの向こうから、期待と不安に満ちた目で、フジキドの反応を見守っていた。　15

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フジキドの厳しい口元に笑みが見えると、ルチアはその何倍も大きな笑みを浮かべた。「……いいスシだ。ピーマン・スシを食べたのは初めてだ。長旅の疲れをよく癒してくれる」「アリガトゴザイマス！ネオサイタマの人に褒めてもらえるなんて、嬉しいですよ」　16

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「どこの誰が握ろうとスシはスシだ、ルチア＝サン」フジキドはチャを啜り、答えた。「ネオサイタマの人間が皆、スシの一級鑑定士だとは思わないほうがよい。だが、私はこのスシを美味しいと思った。生き返るようだ。感謝する」「ありがとうございます。嫌いな人もいますから」ルチアは肩をすくめた。17

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「バカにするなと帰ってしまった人もいました。私は少しもバカにしたつもりはなかったんですが…」「旅慣れていないのだろう。私も初めての土地では初めてのネタに面食らうこともある。だが、何と言えばいいのか…スシはスシなのだ」「ハイ、そういうものだと私も思います」ルチアは満足げに頷いた。18

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フジキドは次いでチーズ・グンカン・スシ、エンガワ・スシ、そしてケバブ・スシを咀嚼した。ブラド・ニンジャを追って、東南アジアから東欧までの長旅。その疲れがスシによって癒されてゆく。いや、疲れだけではない。実のところフジキドの体には未だ、ムカデ・ニンジャとの激戦の傷が残ってるのだ。19

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「時にルチア＝サン。ここへ来る途中に妙な噂を聞いた。この〈夜〉をもたらしているのは、シュマズ社などではなく、ある一人の男……蘇った伝説の吸血鬼、ブラド・ツェペシュなのだ、と」「お客さん、もしかして貴方……ヴァンパイア・ワナビーですか……？」ルチアは訝しむような顔を作った。　20

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実際「ネオワラキアに真の吸血鬼が蔓延っている」という噂はIRCで世界中に届けられている。それを聞きつけ世界中から集った熱狂的なヴァンパイアワナビー、ユーレイゴス、ヴァンプブラックメタリスト等の人数は増え続け、ネオワラキア人口の一割近くにも達し、住民との間でトラブルも多発している。21

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何故このような事態になったのか？2048年現在でもなお、吸血鬼は非主流の若者たちにとってアンダーグラウンド文化のアイコンであり、年々新たなフィクションが作られ続けているからだ。もしその祖が実在し、現代に蘇ったとしたら……全てを捨ててネオワラキアを目指す者は、決して少なくなかろう。　22