【まだ次がある】福間健二 #k2fact213

福間健二 @acasaazul

ひとりの死者の声とともに歩いて、いくつかの未遂、いくつかの放棄をたどった。耳から肩、さらに手に走る電気がある。百年前の坂、おいしい酒と食べ物のあるアジア、大事にしたい縁、あるいは鞭。なんだろう。いらないものを拾う憂愁だ。だれかに正解を握られている。（まだ次がある１）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

朝の六時。まだ暗い空に金星と木星がならんでいる。でも、それだけではわからない。自分のいる場所。積みかさねられた段ボール箱がふさいでいた窓の、黒い必要性。ユーロでもドルでも買えないだろう。狭い通路をとおる悲しみからの推理。ごつごつしたアジアの手の跡だ。（まだ次がある２）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

いちばん寒い時期。壊れかけのもの、放っておくしかなくて、暗くても明るくても閉じた台地。澄んだ目に見つめられたりしないように八キロ以上歩いて体は温まった。突然の、よく切れる包丁。だが、何を切っても中身はカボチャ。皮膚になにかあたっている。眠る種子だ。（まだ次がある３）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

経験がなにかを奪うだけのアジアとなにかを育てるアジア。ちがうよね、と笑っていつも体のどこかを治しているバレリーナ。元に戻らない体で目がさめてふと恋しくなる。来て人の顔を見ないでブツブツ言って出ていく人や、見えなくなった人をいつまでも見送る人などが。（まだ次がある４）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

古い地域。古い手口。とくに通りの音楽。踊りたくなったり、眠くなったり、かと思うといじられていない才能の未来にハッとする。死者にはできないこと。標識などのまちがいを直すこと。商店街、住宅街、学校、神社、そして本を書く場所。広さが変化する。生きているから。（まだ次がある５）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

一生に一冊の、深い休息。そのためにすわる場所。峠の道を支配する重い空気も、何度目かのゼロも、くたびれたニューバランス、紐はしっかり結んで通過して、まだ読みにくい地形のなかで濡れるが、生きること。ここまで、この滴はぼくの虎を馴らしていいと言ってない。（まだ次がある６）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

トラ柄とヒョウ柄。ちがうよね、と笑って、半世紀かそれ以上前の夢で会った仲間がまたひとり、生きているからこそできることについて新しい宿題をおいて去っていく。いまだろうか。使われていないダムまでの道をまっすぐに歩いてdon’t go breaking my heartと歌うのは。（まだ次がある７）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

かかってこない電話。通れないトンネルと橋。でも、炊飯器のスイッチを入れる。二月になった。ゴマフアザラシの、ゴマ太が帰ってくる。弟と妹、ゴマ平とゴマ子の待つ家に。クマのクーちゃんが帰ってくる。仲よしのブー子とブーやんのいるキッチンに。いま、午前十一時半。（まだ次がある８）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

こんなこと、二度とないかもしれない。連続ドラマ「まんぷく」は消してお昼を食べた。ごはんと味噌汁と残りもの炒め。ごちそうさま。だれかと死者のように合わさることのないアジアの悲しみからの、休息。元のぼくがどんな動物だったのか。推理は終わり、みんな笑った。（まだ次がある９）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

【訂正】 だれかと死者のように → だれかと死者のような （まだ次がある９）#k2fact213

福間健二 @acasaazul

それが最後のアジアであるはずもないが、泥は水道で落とした。楽しかったこととそのあと少し混乱して見失ったもの。ホースのはずれやすい掃除機かけながら思い出した。次々に用事を言いつけてくる人。前世紀からの二日酔いが残っている証拠の影を踏む人でもあるんだね。（まだ次がある10）#k2fact213