クルセイド・ワラキア #3 後編

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆ニンジャスレイヤープラスより【クルセイド・ワラキア】#3後編pic.twitter.com/Ix4ITRoLu2

2019-02-04 21:39:39
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「殿……」カシウスが言いかけた、その時。金網ピットで凄まじい歓声が上がった。「勝者、ソニア!」「「「ワオオオオオーーーーッ!」」」そこでは、全ての対戦相手をカラテで倒した半裸の女が緑色の髪を振り乱し、マウントポジションで最後の敵を殴り続けながら狂乱していた。「ARRRRRRGH!」

2019-02-04 21:42:37
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「あの女は何者だ?見込みがある」ブラドが問うた。カシウスが答える。「ソニアと申しまして……今の所その出自を伏せさせ、他の者たちと同等に扱ってはおりますが、結果として、このように群を抜いております。……実のところ、暗黒メガコーポたるスダチカワフ社から逃げ出してきた令嬢なのです」 0

2019-02-04 21:42:49
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「スダチカワフ…」「暗黒メガコーポのひとつに御座います。極寒のサイベリアに本拠地を置き…」「待て、余が調べる」ブラド・ツェペシュは懐からIRC端末を取り出し『スダチカワフ』とタイプした。「殿、もしや……!IRC端末を使いこなしておられるのですか?」「いかにも」ブラドは頷き、続けた。 1

2019-02-04 21:47:39
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「今回の遠征の最中に学んだのだ。余は民の営みをつぶさに観察しておる。ワラキアや欧州だけではない。遠征時も東アジアに暮らす者たちを観察していた。かつてこの世界は神々が支配し、人々が祈りを捧げる装置は礼拝堂であった。だが今はこれだ」ブラドは己の携帯IRC端末を指し示した。 2

2019-02-04 21:51:19
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「このIRC端末の中に、網(ウェブ)の如き曖昧な神がいるのであろう」ブラドが示す血のように赤いIRC端末には既に、由緒ある赤竜騎士団の紋章すらも刻まれていた。「まこと、その通りでございます……!」カシウスは感極まり、声を震わせた。中世から蘇った己の主君の聡明さに、感服したのである。 3

2019-02-04 21:54:09
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「余は常に本質を見ておるからな。良いか、今やこの世界の礼拝堂はIRC端末である。貪婪なる王どもの代わりに暗黒メガコーポどもが存在する。その背後にはリアルニンジャどもの暗躍を感じられる」ブラドは遠い過去の記憶に思いを馳せながら言った。 4

2019-02-04 21:57:45
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「こうした本質と趨勢を見抜けねば、真の統治者として国を維持することはできぬ。そのためには、常に最先端の技術を知らねばならぬ。……かつてもそうであった。猛将ヤン・ジシュカが堕落した十字軍騎士どもを押し返せたのも、当時の最先端であるピストルカラテがあったればこそ」 5

2019-02-04 22:00:37
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カシウスは感服する。「賢き殿に仕えられることは、光栄の至りにございます」「そして、余は今日のこの結果を見て、確信を抱いた。これより、玉座の間にて直ちに布告を行う。余の凱旋と、聖なるヌンチャクの獲得を、IRCを通じて全世界に宣言するのだ。ワラキアはいまや余の収める国であり…… 6

2019-02-04 22:03:42
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……余に対して臣下の誓いを立てたシュマズ社を除き、いかなる暗黒メガコーポも足を踏み入れること罷りならん、と。聖なるヌンチャクを持つ余こそは、ニンジャ社会の正統なる支配者であり、この警告を無視する者には必ずや滅びがもたらされるであろう、と」「……」カシウスの眉が怪訝そうに動いた。7

2019-02-04 22:06:21
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「それは危険ではありませんか」「お前のその懸念は無知より来るものだ。これなるヌンチャクは、かつてこの世界を統べたる父祖、カツ・ワンソーの骨より生み出されし三神器のひとつ」カツ・ワンソーという力ある言葉がリアルニンジャの口から発せられると、空気は捻れ、不穏な残響が微かに生じた。  8

2019-02-04 22:11:00
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「この意味がわかるか、カシウス=サン?余が三神器を求めてドラゴン・ドージョーを襲撃した理由は、何だと思っている?」「ヌンチャクに秘められし超常の力を手にするためでございましょう。その圧倒的な破壊の力をもって暗黒メガコーポに対抗し、再びこの国土を解放するためでございましょう…… 9

2019-02-04 22:12:44
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……あの日の光景が、未だ私の目に焼き付いております。遠征より戻った殿が、そのヌンチャクでオムラ社の陸上戦車部隊を次々に破壊したあの光景…」「否である。余を見くびるな。ただカラテのみならば、畢竟、ヌンチャク無しでも事足りるわ。余がこの神器を手にする事にこそ重大な意味があるのだ」 10

2019-02-04 22:14:49
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「意味……」カシウスは慎重に復唱するにとどめ、主の言葉を待った。レッドドラゴンは瞑想的に言った。「即ち、リアルニンジャ社会における絶対の権威だ。大いなる父祖が滅びて以来、三神器は常に、リアルニンジャ社会における正統な支配権の証としてあり続けてきた。余はそれを手にした…… 11

2019-02-04 22:16:53
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……のみならず、それを一瞬にしてあまねく世界に知らしめる手段が、今ここにある。IRCだ。……ドラゴン・ドージョーを襲撃しヌンチャクを得よ。そしてIRCを用い、ヌンチャクを御する姿を配信すべし。地上の全ての王国に留まらず、その闇に隠れるリアルニンジャ達にまで余の威信が示されるよう…… 12

2019-02-04 22:19:43
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……遠征に先立って、ケイトー・ニンジャ=サンが、それを余に進言していたのだ」「ケイトー・ニンジャ=サンが?」カシウスは胸騒ぎを覚え、さらなる困惑の色を示した。「お言葉ですが、あのケイトー・ニンジャという男、私にはどうしても信用なりません。それに、このような性急なプランは……」 13

2019-02-04 22:21:56
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「黙れカシウス=サン」レッドドラゴンは一喝した。「ケイトー・ニンジャ=サンを侮辱することは許さん。彼奴は確かに、惑乱と欺きのジツを得意とする胡乱なニンジャであるが、各時代時代における本質の見立ては大したものだ。…… 14

2019-02-04 22:25:23
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……そして余もまた、今はこの計画の成功に何ら疑いを持っておらぬ。はじめは余も、IRCの力について半信半疑であったが……見よ!現にここにいるモータルの熱望者らは、まさにIRCの力によってネオワラキアへと集った者達であろう。だからこそ余はヌンチャクを掲げ、声をあげねばならぬのだ」 15

2019-02-04 22:28:16
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「で、ですが……」カシウスの弱々しい反論の声は、訓練場の幾百のカラテシャウトによって塗りつぶされた。「カシウス=サン、その目を開き、見るがいい。職も家族も国土すらも顧みず、あの者らは海を超え余のワラキアへとやってきた。余に忠誠を近い、この国を暗黒メガコーポの蹂躙から守るために」16

2019-02-04 22:30:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「しかし、やはり性急に過ぎ……!」カシウスは悩み抜いた末に、己の主君を止めようとした。だが、「イヤーッ!」「イヤーッ!」バッ!バッ!バッ!バッ!突如、目の覚めるようなカラテの応酬!防戦一方となり、追い込まれるカシウス!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!?」 17

2019-02-04 22:33:10
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「余を止めることは出来んぞ、カシウス=サン!イヤーッ!」「グワーッ!」首を掴まれ拘束されるカシウス!「貴様は実に有能な家臣であるが、所詮はニンジャソウル憑依者だ!明日をも知れぬ生を生きるモータルの如き必死さもなければ、悠久の時を生きる余やケイトー・ニンジャのような矜持もない!」18

2019-02-04 22:36:17
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激昂したブラドは目を真っ赤に輝かせ、カシウスを睨めつけ吐き捨てた。「貴様に何が解る!?一刻も早く布告を行わねば、余の国土に再び暗黒メガコーポが攻め込んでくるのだぞ!」その声は耳だけでなく、精神にまで二重に響いてきた。彼は滅多には用いぬ開祖の力を振るい、カシウスを威圧したのだ。 19

2019-02-04 22:39:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ゲホッ!ゲホーッ!も、申し訳ありません……!御意、御意にございます……!」カシウスは膝を床につき、ドゲザした。全世界の岩盤が彼の背中の上にのしかかっているかのようであった。「……余はこれより、全世界へのIRC布告を開始する」ブラドは踵を返し、回廊を歩み始めた。 20

2019-02-04 22:42:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブラドの足音が螺旋階段の彼方へと消えてゆく。それがニンジャ聴覚ですらも聞き取れなくなる頃、カシウスはようやく、ニンジャ存在感によるカナシバリから解放された。彼は主君の後を追い、地下回廊を駆け、尖塔へと続く螺旋階段を登り始めた。 21

2019-02-04 22:44:25