クルセイド・ワラキア ＃４ 前編

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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◇これまでのあらすじ：ネオワラキアの国土を〈夜〉で覆う絶対君主、ブラド・ツェペシュの正体はニンジャであった！　歴史の闇に葬られしニンジャ真実の一端がついに明かされる！　フジキドはドラゴン・ドージョーより奪われし聖なるヌンチャクをブラドの手から取り戻すことができるのか！？◇

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◆ニンジャスレイヤープラスより【クルセイド・ワラキア】＃４◆ pic.twitter.com/KgVpjxOSa2

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「どれ、ジェイク、ミカエル、しっかり押さえといてくれ。わしがこの"嬢ちゃん"を綺麗にカットしてやるわ」「よし、わかった」「オーライ、いつでもいいぜ」キュイ！キュイイイイイイイイ！　ドルッ、ドルッ、ドルッ、ドルルルルルルルルオオオオオオ……！　1

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切断機や掘削機械の稼動音が、鉱山都市プロイェスティのエメツ第四採掘場に絶え間なく響く。ここではサッカースタジアムめいた照明の下、手足をサイバネ強化した採掘労働者たちや大型二足歩行重機が、忙しなく動き続ける。現時刻における採掘者人数は、地上部に見えているだけでも数千名。　2

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第四採掘場は最も最近になって作られたもので、露天掘り型の広大な土地に大型の屋根が作られ、要所要所には屋台や自動販売機も設置されて、二十四時間の交代制労働体制を支えている。ごく稀に起こる"不測の事態"に備え、シュマズ社の武装トルーパーや、紅い眼のバイオウルフなども配備されている。　3

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「よし、カット終了じゃ」ダイヤモンドカッターの右腕を持つ採掘技師のクリキ老人は、テヌギーで汗を拭った。「見てよこのエメツ。凄い大物が切り出せた！」両腕をテッコに置換した上半身裸サイバーゴスのミカエルが興奮気味に笑う。「ああ…なんて綺麗なんだ。これだけで１月分の稼ぎはカタいよ！」4

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「俺たちのチームワークの勝利だな。色ボケの老いぼれ採掘技師。図体だけデカい根性無しのサイバーゴス。そしてこの俺、有能なリーダーのラッキー・ジェイク様」 「ほざけ若僧！わしのワザマエあればこそよ！」クリキが笑い、違法カキノタネを噛み砕いた。　5

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「では、ベースに戻って換金して、オイランドロイド宿にしけこむとするか」とクリキ。「いや待て、今夜の高純度エメツの湧き具合はハンパないぜ」ラッキー・ジェイクはローラー芝刈機めいた旧型エメツ探知機を転がしながら言った。それはキュンキュンと良い反応音を返す。「もう一仕事、どうだ？」6

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「でももし、ニンジャゴーストが出現したら…」ミカエルが不安そうに言う。ニンジャゴーストとは何か？ごく稀にエメツ採掘場に湧き出し、カラテやスリケンで採掘者を殺すフェイスレスのことを、採掘者たちはニンジャゴーストと呼び恐れているのだ。フェイスレス出現の理由は科学的に未解明である。　7

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「そういう時のために俺がいるんだろ？」ラッキー・ジェイクはカラテを構えながら言った。「俺はかつて、本場ネオサイタマでニンジャとやりあった事すらあるんだぜ」　8

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ネオワラキアのエメツ採掘場では、地元の労働者たちだけでなく、世界各地から流れてきたアウトローやヨタモノや熟練工やハッカーが合わさって、即席のマイニングチームが日々いくつも作られている。彼らは一攫千金の夢を追い求め、死の危険と隣り合わせのタフな採掘生活を送っているのだ。　9

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特に、プロイェスティ地下から湧き出すエメツは純度が高く、脆い。切り出しの段階でいかに精密にカットするかが、熟練したサイバネ採掘工たちの腕の見せ所だ。傷つけず綺麗な立方体状に切り出せれば、プロダクト加工時の価値が何倍にも跳ね上がる。　10

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今のところ、そうした精密切り出は、各地を渡り歩いてきた熟練のサイバネ採掘師による手作業でしか不可能だ。「よし、ならもういっちょいくとするか……」クリキ老人は煙草を吸い終え、重い腰を上げた。そして気づく。他の採掘者チームが休憩所のTVに群がり始めている事に。「ん……何じゃ？」　11

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「相当強力な電波だぞ。聖論理教会の説教放送をキックアウトしちまった」ジェイクもTVに駆け寄った。画面には見慣れないエンブレムが映し出されていた。「どこかのハッカーカルトか？」「ネオワラキアのIRC-SNSにも同じのが映ってる。リアルタイム配信みたい」ミカエルが携帯端末を見ながら言った。12

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そして次の瞬間、ミカエルは息を呑んだ。「エッ、この紋章は！これ、もしかして……！」ミカエルは感動のあまり、心臓が止まりそうになった。TVとIRC携帯端末に同時に現れたのは、玉座に座る血のように赤い鎧の男であった。この玉座の後ろには、赤竜騎士団の紋章が染め抜かれた大軍旗があった。　13

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『……余の名はブラド・ツェペシュ。齢は600を超える。正真正銘のワラキアの王なり。余は長き眠りより目覚めた。そして暗黒メガコーポによって破壊されし、我が国土を目にしたのだ……』彼は立ち上がり、語り始めた。カメラが彼を追って動き、画面下に「ブラド・ツェペシュ」とテロップが入った。　14

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「「「ワオ」」」エメツ採掘者たちは作業の手を止め、サイバーゴーグルを外し、TV画面に見入った。「噂は本当だったんだ……」ミカエルは口元を手で押さえ、嗚咽した。彼の背中には、吸血鬼フィクションなどの影響で相当に脚色されたブラド・ツェペシュのゴシックネオンタトゥー絵が刻まれている。　15

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「ハー、くだらん。何がブラド・ツェペシュだ」クリキ老人は苦笑した。しかし、他の採掘者たちの何人かがクリキに険しい視線を向けてきたため、彼は煙草をもう一本くわえて、口をつぐむことにした。ブラド・ツェペシュによって国が守られていることを信じたい者は、思いの外、大勢いたようだ。　16

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「クリキ＝サン、俺にも一本くれよ。ドーモ」ラッキー・ジェイクは煙草をくわえ、ミカエルに耳打ちした。「お前も一本やって落ち着けよ。ドラキュラが生きてるワケないだろ？600歳だぞ600歳。引き算できるか？今何年だ？あの映像もシュマズ社かどっかの愛社精神高揚プログラムに決まってるだろ？」　17

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『……長い熟慮の末、余は自らの存在を公のものとすべく、このIRC-SNS配信を行うことを決意した。全ては、余の国土と領民を敵どもから守るためである……』TV画面の中のブラド・ツェペシュは語り続けた。　18

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『……果たして己がいま何者に対して戦争を挑もうとしているのかすらも知らぬ、無知蒙昧にして哀れなる敵どもに、余が何者かを知らしめ、畏怖させるためである。この放送を、ネオワラキアに暮らす余の民へ、そしてネオワラキアを脅かさんとする全世界の暗黒メガコーポへと送る……』　19

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「違うよ、これは絶対にブラド公本人だよ。だって、モニタ越しでもすごい存在感が伝わってくるし……。本気だってのが伝わってくるんだよ……」ミカエルは大粒の涙を流し始めた。「ネオワラキアに来て良かったよお……こんな日が来るなんて……」　20

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ジェイクが笑った。「現実を見ろよ。この世界に吸血鬼やドラゴンが実在するワケねえだろ。この世界に実在するのは、ヤクザとニンジャだけ……」『……まず最初に、何故余が今なお生きているのか？それを知りたい者は多かろう。その秘密を語る。余は吸血鬼などではない。余はリアルニンジャである』　21

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『そして余は、欧州と呼ばれるこの大陸の一画を支配するに相応しき者である。現在この地を覆う〈夜〉も、余のカラテとジツによるものなり』「オー・マイ・ガー」ジェイクは唖然とし、煙草を足元に落とした。「「「ニンジャ……！？」」」採掘者たちもどよめいた。何名かは急性NRSで過呼吸に陥った。22