バレンタインの勇尾 現パロ 全年齢

バレンタインの勇尾 現パロ 全年齢
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夏目一加 @natumeitika

今日は2月8日か……。もうバレンタインデーまで一週間を切っている。そろそろ準備を始めなければと、尾形は思った。しかし、ちっともアイディアは浮かんでこない。カレンダーを睨みつけながら、去年はカルティエの万年筆を送ったことを思い出す。

2019-02-08 12:47:12
夏目一加 @natumeitika

勇作は尾形からのプレゼントを大層喜び、仕事に行くときは必ず胸ポケットに万年筆を差していく。こうして愛用してくれているのだから、去年のプレゼントは成功ということになるだろう。 だが尾形からすれば何を贈ってよいかわからず、日用品でそこそこ値の張るものをと適当に選んだだけだった。

2019-02-08 12:55:36
夏目一加 @natumeitika

高価なものよりも、真心の籠ったものを勇作は喜ぶだろうことは予想できた。 「手作りチョコか……」 尾形は独り言ちに呟く。いかにもバレンタインな贈り物だが、こういうものこそ勇作は喜ぶだろう。

2019-02-08 13:10:26
夏目一加 @natumeitika

試しにインターネットで『手作りチョコ』と検索してみる。トリュフに、カップケーキ、生チョコなどなど……。ずらりと並ぶ検索結果に尾形は困惑する。チョコにそこまで興味がないので、何が違うのかもよくわからなかった。尾形はそっとページを閉じた。

2019-02-08 13:36:30
夏目一加 @natumeitika

尾形は今まで食べたチョコで、一番うまかったのはなんだったかと考えてみる。 ――『アニヴェルセル カフェ』のフォンダンショコラ だ。 『アニヴェルセル カフェ』は東京メトロ表参道駅から徒歩5分ほどの場所にある。

2019-02-08 14:21:27
夏目一加 @natumeitika

勇作と青山に買い物に行った際に、よく行くカフェだ。表参道に面したオープンカフェは、買い物に疲れたときに軽食をとりつつ休憩ができるので、ちょうどいいのだ。

2019-02-08 14:41:18
夏目一加 @natumeitika

ここの土産用のフォンダンショコラを勇作は気に入っていた。勇作いわく、ハートの形がかわいらしいとのことだが、尾形もうまいので好きだった。 尾形はフォンダンショコラを作ることに決めた。『フォンダンショコラ レシピ』で検索してみる。レシピを見た感じでは、そんなに難しくはなさそうだ。

2019-02-08 14:57:32
夏目一加 @natumeitika

バレンタインデー当日に残業で帰れないなんてことのないように、午後から有給もとった。有給申請書には『私用』としか書かなかったので、上司になんの用事か尋ねられたが、尾形は「私用です」としか答えなかった。

2019-02-08 15:20:54
夏目一加 @natumeitika

尾形は早々に仕事を切り上げ、駅前のデパートに立ち寄った。バレンタインシーズンということもあり、目当ての製菓売り場は女性客で混雑している。尾形はツーブロックオールバックの髪型にスーツ姿で、顔に傷もあるし目つきも悪い。そんな尾形はこの場所で明らかに浮いていた。

2019-02-08 16:18:54
夏目一加 @natumeitika

他の客達から向けられる好奇の視線にうんざりするが、ここで帰るわけにもいかない。必要な材料は仕事中に調べてあったのだが、製菓用のチョコレート一つでもいくつか種類がある。違いが全くわからなかったが、とりあえず一番高いやつにしとけば間違いないだろうと尾形は思い至った。

2019-02-08 16:46:37
夏目一加 @natumeitika

買い物を終え地下鉄に揺られていると、どっと疲れが出た。尾形は二度とこの時期の製菓売り場になんか行くものかと思う。 ちらりと買い物袋に目をやる。気疲れもしたが、ハート型のケーキカップが買えたのはよかった。

2019-02-08 17:48:10
夏目一加 @natumeitika

勇作は驚くだろうか? きっと喜んでくれるに違いないなどと、想像しているだけで楽しくなる。尾形は揺るんでしまう口元を手で隠した。

2019-02-08 18:03:03
夏目一加 @natumeitika

「おかえりなさいませ、兄様!」 満面の笑みで出迎える勇作に、尾形は「チッ」と、舌打ちをした。今日に限って勇作の帰りが早かったからだ。 「あの、兄様? えっと……、今日は早く仕事が終わりまして。兄様も今日はお早いお帰りなのですね。あっ。お荷物お持ちします!」

2019-02-08 18:21:36
夏目一加 @natumeitika

「けっこうです! 俺に構わないで下さい!」 尾形が語尾を強めに言い捨てると、勇作は悲しそうな顔をした。 「勇作が何か兄様のお気に障ることをしましたでしょうか?」 「いいえ、何もしてません。ただ俺が、勇作さんに、構われたくないのです。わかったら向こうへ行って下さい」

2019-02-08 19:32:22
夏目一加 @natumeitika

尾形は勇作を追い払うと、キッチンの奥にあるパントリーの中に買ってきたものを隠した。 尾形と勇作が暮らす部屋は90m2ほどの2DKで、リビングダイニングとキッチンはカウンターで仕切られている。二つある部屋は、一つを寝室に。もう一つは書斎として使っていた。

2019-02-08 20:37:38
夏目一加 @natumeitika

尾形がパントリーから出ると、キッチンカウンター越しに、リビングのソファーに座っている勇作と目が合った。勇作が不安そうな顔をしているので、尾形は悪いことをしたなとは思う。 尾形はリビングにいき、勇作を見下ろした。

2019-02-08 20:51:59
夏目一加 @natumeitika

「俺は勇作さんのことを怒っているわけでも、嫌っているわけでもありません。外で何かあったとかでもないです」 「それならばよかったのですが。あの、本当に?」 「はい。あと、今日からしばらく勇作さんはキッチンに立ち入り禁止です」 「兄様、それはどういう……」

2019-02-08 21:17:51
夏目一加 @natumeitika

「俺が立ち入り禁止と言ったら立ち入り禁止なのです。わかりましたね?」 尾形は勇作に微笑みかけてやる。尾形の有無を言わせない態度に、勇作は押し黙るしかなかった。

2019-02-08 21:34:02
夏目一加 @natumeitika

◆◆◆ 勇作は入浴と夕食が済むと直ぐに「今からリビングも立ち入り禁止です。もう寝て下さい」と寝室へ押し込まれてしまった。 尾形の様子がおかしいことはわかっていたが、理由を聞きたくても取り付く島もない。なんとなく尾形がキッチンで何かをしているのだろうと推察できたが、

2019-02-08 21:50:55
夏目一加 @natumeitika

何故秘密にされるのかわからない。やはり、何か怒らせてしまったのではないかと考えあぐねても埒が明かない。 寝るように言われていたが、寝れるはずもなく、小一時間程経ったころ。 「なんだろう? 甘い匂いがする。この香りは……!」 勇作は思い当たった答えに、思わず笑ってしまう。

2019-02-08 22:03:23
夏目一加 @natumeitika

「はは! 兄様、不器用すぎでは」 時計を見て日付を確認する。今日は2月8日、バレンタインデーまではあと6日だ。 こうなると尾形の様子が気になって仕方がない。勇作は尾形に気づかれないように、そっとリビングへ続くドアを開けてみる。

2019-02-08 22:10:55
夏目一加 @natumeitika

ぶわっと甘いチョコレートの匂いがした。ドアの隙間から様子を窺がうと、尾形はしきりにオーブンを覗きこんだりしている。どうやら焼き菓子を作っているらしい。 今日は帰って来てからというもの、勇作は尾形から理不尽な扱いを受けている。ここでちょっとくらい仕返ししてもいいだろう。

2019-02-08 22:27:35
夏目一加 @natumeitika

「兄様」 勇作が声をかけると、尾形の体がおもしろいくらい跳ねた。尾形がこちらを振り向く前に、さっとドアの影に顔を隠す。ほんのいたずら心でやったことだが、驚かせ過ぎてしまったみたいだ。 「勇作さん!? リビングは立ち入り禁止と言ったはずです!」 「すみません、トイレに行きたくて……」

2019-02-08 22:39:51
夏目一加 @natumeitika

「ちょっと待ってて下さい!」 尾形の言い方に棘があるのは恥ずかしいからだろうと勇作は思った。少ししてから尾形がこちらにやって来る。 「目をつむっていて下さいよ。いいですか、絶対に目を開けないで下さいね」 「はい。わかりました」

2019-02-08 23:10:00
夏目一加 @natumeitika

勇作は言われた通りに目を閉じる。だけどどうしてもにやけてしまいそうになるので、すました顔をするのに苦労した。尾形に手を引かれてリビングを抜ける。途中うっすら目を開けてみると、前を歩く尾形の耳が赤くなっていて、勇作はかわいいなと思った。

2019-02-08 23:18:34