即興おっさん受け(ΦωΦ)

即興で書いたおっさん受けです。プロットなしの即興なのでいろいろおかしいですがさらっと流してください。※BL注意※
BL
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龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん①】ふうっ、と吐き出した煙草の煙を目と、指先でたどった。煙を掴もうとする哀れな指先とに、手の甲に時間の流れを感じてしまう。昔はこんなに大きな手ではなかった。指も長くなく、日焼けもしていなかった。三十五を越えたあたりから、若さ、が急激に遠くなった気がする。回顧を、する。

2010-04-08 01:24:13
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん②】くたびれたスーツがまた、哀愁を漂わせている。子どもの時分、嫌悪していた存在に自らが成り果てていることに愕然としてしまう。煙草の匂いも、そういえば嫌いだった。煙たくて、近寄るのも眉をひそめたくらいなのに、今ではすっかり愛煙家である。けれども大人にはなりきれていない。

2010-04-08 01:29:57
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

おっさん③】ずっと、心は子どもっぽいままだ。わがままで、たぶん、馬鹿みたいに独占欲が強い。「寺林さん」「わっ!」よりかかっていたフェンスから、背中が前触れなく浮いた。背中を軽く押されたのだ。振り返り、出会った悪戯っぽい眼にため息をつく。「……君ね、またおじさんをからかって」

2010-04-08 01:34:42
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん④】肩を竦めて諭してみせると、梅村はえへへ、と浮かれ調子に笑った。一回りは歳の離れた彼はこうしてよく外で喫煙休憩をしているとおいかけてきて、そのたびにぽん、と背中を叩いてくるのだ。理由を訊くと、決まって「寺林さんに構ってほしくて!」としかあの口は返してこない。

2010-04-08 01:41:32
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑤】まったく、解せない後輩である。「あーあー、そういう、自分から言うのがおじさんですよ? 寺林さん、顔は渋くてかっこいいんだからそういうのやめてくださいって」「年月はねえ、厳しい。んだよ。俺だって三十七だよもうお兄さんって言うと怒られる歳です」いつも、こんな会話である。

2010-04-08 01:44:19
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑥】なんの気兼ねもなく会話ができるのはいいが、自分にこんなに懐かれる要素はないはずなのだ。顔がいいのはむしろ梅村のほうで、おじさんに構っているよりも、いくらでもかわいい女の子がいるのではないか。――寂しいかも。その光景を思い浮かべてしゅんとなった気持ちから、目を逸らす。

2010-04-08 01:48:24
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑦】隣に並んだ梅村は、寺林よりも上背がある。最近の子は大きいな、なんて考えることからしてもう老化現象だ。「おじさんとかおにーさんとかじゃなくて! 寺林さんは寺林さんですよ。かっこいい先輩です」「君ね」「照れた寺林さんもかわいいですよ」「……おじさんにかわいいはちょっと」

2010-04-08 01:58:58
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑧】「かわいい、ですよ……?」聞いたことのない低音。隣に並んだ梅村に、ぐっと腕を引っぱられて足がもつれた。体格のいい彼に寄りかかる格好になる。指先から煙草が転げた。煙たいな、と久々に眉をひそめる。「梅村くっ……ふあ!」体勢を正そうとした矢先、あろうことが唇を奪われた。

2010-04-08 02:06:13
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑨】がちっ、と不器用に歯がぶつかり合った。ネクタイを引っぱられ、無理矢理彼のほうを向かされる。唇を食まれ、舌が絡んだ。拒絶だとか、そういう行動にはまったく出られなかった。梅村の体温にほだされて、考えもつかなかったのだ。そっと腰を抱かれ、いよいよ抵抗の術をなくされた。

2010-04-08 02:08:48
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑩】「ふっ、あ……っん!」「はあ、っあ、ふ……」頭がくらくらした。吐息の甘さに腰が砕けそうになる。唾液が混じって、鼓膜を淫らに犯す。空が青かったな、なんて急に今日の天気を思い出した。気をまぎらわせようとしている自分になんて気づきたくなかった。嫌悪感が、なぜないのか。

2010-04-08 02:19:44
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑪】「……ふあっ、はあ、はっ、は」「ん、ふあ……」顔が離れて、ぼうっとした思考回路のまま梅村を見つめた。いつもは、見ない顔だった。うっすら、情欲のにじみ出た表情。どきりとする。不覚にも、格好いい、と感心してしまった心をどうしたらいいのだろう。「寺林さん、訊きますよね」

2010-04-08 02:27:51
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑫】「な、にを……」胸から腹をつうーっと、圧迫するように撫でられる。ぞくっとした。梅村が、首を傾ぐ。「どうして俺に構うのかって。寺林さん、だって、かわいいんですよ。あなた、気づかないから」「気づかない……?」「そう。鈍感で俺がキスするまで気づかない」「はっ?」

2010-04-08 02:30:44
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑬】今度は、手の甲が頬をなぞる。冷たい手だった。他人の手の感触を感じるのは、いつ以来だろうか。いやに心臓がうるさい。どっ、どっ、と、身体に楽器でも入っているようだ。「寺林さん、顔真っ赤ですよ。かわいい。鈍感なとこも含めて俺、あなたを愛してますよ」ふっと、梅村が笑った。

2010-04-08 02:36:16
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑭】「あいっ? ……んっ!」詰問しかけた口を、ふたたびふさがれる。息がつっかえる。言葉も、思考も、沈んでいく。しばらく交えて、それからとん、と胸を押された。梅村が踵を返す。「寺林さん、あと三分して、一服して、そしたら自分の胸に訊いてみてください」「……なにを」

2010-04-08 02:38:49
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑮】ひらひらと振られる梅村の手をただ見つめていた。煙草。そういえば、落としてしまっていた。急に、侘しい気持ちに駆られてぎゅっと手を握り締めた。「絶対、訊いてみて。考えてください。答えが出るから……」「だからなにを……」「自分の好きな人は誰か? って!」

2010-04-08 02:40:48
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑯】ばたん、と室内につながるドアが閉まる。呆然とその扉を見つめた。好きな人は誰か。さらに心臓が早くなる。こんなおじさんに訊いてどうするのか。キスなんかして、後悔をしないのか。「……梅村くんに、決まってる」二本目の煙草に手を伸ばす前に、答えは決まっていた。指がふるえる。

2010-04-08 02:43:31
龑村ももか6部2章4話 @mgnstar

【おっさん⑰】「……もうちょっと若かったらなあ」勇気も出せたし、もっと早く踏み出せていたものを。きっと梅村は後悔しない。彼は強くて、振り返らないから、たぶん。「うん……追いかけるか……!」思い切って空を見上げてみる。やっぱり、真っ青だった。変わらないものが傍にあるのは、心強い。

2010-04-08 02:45:27