アトムはどうして頭蓋骨がおかしいのか

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uroak_miku @Uroak_Miku

1)『鉄腕アトム』シリーズ屈指の名作といわれる「アトム赤道をゆく」から。人間の女の子を救った後、ロボットであることを知られたくなくて失踪(=死亡を偽装)したアトムが、自分を慕って日本まで来たこの子をそっと見送るラストシーン。これで女子読者を激増させたのですが―― pic.twitter.com/AjqYNgU2bF

2019-02-14 04:33:34
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2)アトムの頭蓋骨がへこんでいますね。彼女を救うための戦闘での負傷です。へこんだ頭のまま小学校に登校しているのです。上の段の最左翼のコマに注目。へこんでいます。

2019-02-14 04:35:48
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3)こっちのほうが見やすいかな。アトムの首がもげています。こんな姿を見せたくないと彼は飛び去り、あっというまに日本に舞台が移って幕。ページ数の制限が厳しくてこういう駆け足展開になったものと思われます。 pic.twitter.com/zbVGg99d6D

2019-02-14 04:40:35
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4)前にこの最終頁の解釈をめぐって『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』の著者である細馬宏通氏とツイッターでちょっと議論したことがあるのですが…南の島でのアトムの冒険は、日本時間にして夜中に行われたものであること、夜になるとアトムが南の島まで飛んでいって連日冒険していたこと等から

2019-02-14 04:43:35
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5)細間氏は「あれはアトムの夢の中での冒険ということではないか」という論を立てていました。担任のヒゲオヤジと、南の島でアトムに救われたもうひとりのヒゲオヤジがいっしょにいることも、これで説明できると。

2019-02-14 04:45:27
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6)私はこの説が腑に落ちなかった。この話は後に改稿されて今はこんな姿で世に出回っています。ヒゲオヤジは双子ではなく、別の人物と会話をしていますね。各コマからノンブルが消えて、アトムの頭蓋骨も直されていて、それから彼女を見送りうなだれるコマが描き加えられています。 pic.twitter.com/tobWCbzen6

2019-02-14 04:47:55
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7)元の版では小学校でのできごとは二段で描かれ、改稿版では三段に増やされています。頁数がたくさんもらえたので別れの切なさをもっとじっくり描けると判断しての加筆と思われます。

2019-02-14 04:49:58
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8)南の島での冒険にどういうわけかヒゲオヤジ氏が出てくるのは、頁数の制約のなかで精一杯ドラマを展開させるためだったのではないか、というのが私の説です。

2019-02-14 04:52:12
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9)おそらく当時(最初の版を描いていたころ。ちなみに二回にわけての付録用まんがでした)の手塚は、この女の子がアトムの母校を訪れるところで幕という終わりは描き始めの時点で構想していて、与えられた頁数のなかでそこにきれいに収まるよう、使い慣れたヒゲオヤジ氏をアトムに同伴させたのです。

2019-02-14 04:55:21
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10)そしてこのシーンは幕引きのためのバトンタッチです。それでふたりのヒゲオヤジ(南の島でアトムと冒険を共にしたほう&担任の先生)をひとつのコマに出して「後はよろしく」と物語の引継ぎを行った、と。 pic.twitter.com/HrUzhotLV7

2019-02-14 04:57:26
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11)アトムの頭蓋骨がへこんだままなのも、南の島での物語を、いつもの小学校での物語に引き継ぐための演出で、それ以上の狙いは手塚にはなかったと考えますね。

2019-02-14 04:59:00
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12)改稿版は頁数が増えたこともあって、こういう強引な(しかし効果的な)演出は省かれています。 pic.twitter.com/VxFSSqUybZ

2019-02-14 05:00:08
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13)ほかにもいろいろ面白い分析ができるのですが、今はここまでにしておきます。

2019-02-14 05:01:01

以下、続きです。

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海に同級生たちと遊びに行って、ビン詰めの謎のSOSレターを知ったアトムが、夜中に太平洋を越えて謎解きに向かう(というか通う)。この展開、子どもの夜遊びのメタファーという気がする。 pic.twitter.com/55R9zCK9ri

2020-09-25 06:00:26
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ロボットは所属する国のハイテクそのものなので知財の流出を避けるためにも国外に出すのはご法度という物語世界のなか、アトムは両親の目を盗んで南太平洋まで深夜に往復を繰り返す。まさに子どもの夜遊び。いくら漫画でも好ましくない。それでヒゲオヤジ(の双子)が冒険の相棒に登場。 pic.twitter.com/ihnUgOpqGo

2020-09-25 06:06:23
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冒険は終わり、何事もなかったかのようにアトムの日常は続いていく。南太平洋でアトムの保護者役を務めたヒゲオヤジ弟は、この最終頁で兄(アトムの担任教師)にバトンをわたして役目を終える。 面白いのは、南の島で負傷したアトムの頭蓋骨、途中で唐突に治っているのです。 pic.twitter.com/nMop10Atfb

2020-09-25 06:10:28
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これには事情があります。アトム君は南の島で頭蓋骨を負傷した後に日本に一度帰還し、スペアの頭蓋骨をママからもらった後、またもや無断で南太平洋に飛んで行って、この女の子の救出に全力をふるい、今度は頭蓋骨そのものを奪われてしまう。帰国後、負傷した旧・頭蓋骨を装填して登校したわけです。 pic.twitter.com/7RPJ5eX7JI

2020-09-25 06:17:33
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ヒゲオヤジ弟につれられて、去っていく女の子。 それを見送るアトム。 一時の逸脱(=女の子との禁じられた恋物語)は終わり、もとの日常がまた始まる…頭蓋骨が治っていますね。戻って来た平凡なる平凡のメタファーという気がします。

2020-09-25 06:21:34
uroak_miku @Uroak_Miku

そうそう各コマに番号がふられています。ふろくまんがとしてもともと描かれたものなのでコマとコマのつなぎに飛躍があって、それで番号を付けていたものと思われます。

2020-09-25 06:23:46
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単行本収録にあたっては原稿が大幅改稿されてコマ数ページ数も増え、代わりに番号は消えてしまう。 pic.twitter.com/jWOMz6UQ7g

2020-09-25 06:24:11
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ヒゲオヤジ弟は、別の人物に再設定されています。夜遊びアトムの保護者役(=読者たる児童&親たちに「ヒゲオヤジがいっしょだから夜遊びしてるわけじゃないよ」とエクスキューズする仕掛け)として唐突に双子設定を挿し込んだけれどやはり強引なので単行本収録版では別の男性に描き替えられた。

2020-09-25 06:27:05
uroak_miku @Uroak_Miku

ページ数の制約も薄れたぶん、コマはこびも唐突さが薄れ、設定の整合性にも気を配る余裕ができた…そんなところでしょうか。

2020-09-25 06:28:30