悪の幹部とヒーローの女子高生(百合風味)

普段大人しい図書委員ちゃんはヒーローになるとクソデカボイスで叫んで欲しい
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発端

詩織子 @cyan0401

山田さん、悪の組織をやめてください。 #皆があなたにやめてほしいと思ってること shindanmaker.com/866190 …バレちゃった? あなたも…ヒーローやめなさいよ。このままじゃ私たち、いつかは…

2019-02-16 21:09:25
詩織子 @cyan0401

@Kyo_Makino 図書委員の寡黙美少女(ヒーロー)とバスケ部の元気美少女(悪の幹部)とか…?

2019-02-16 21:18:01

で、書いた

詩織子 @cyan0401

下校のチャイムが校内に響き渡る。生徒たちは自主的に、あるいは教師に追い立てられながら校門を出て各々の帰路に立つ。いつも通りの日常を、諸沢みやびもまた繰り返そうとしていた。放課後の蒸し暑い体育館でバスケットボールを追いかけ回して過ごした彼女からは制汗スプレーの涼やかな香りがする。

2019-02-16 21:33:41
詩織子 @cyan0401

背中には勉強道具より部活の荷物の方が多く入っているリュック、髪は乱雑に括られ、カラフルなスニーカー。それが、「みやび」の姿だった。流行歌を口ずさみながら下駄箱を出ようとする。ふと、違和感に気づいた。ーー下校時刻を過ぎているとはいえ、人がいない。

2019-02-16 21:36:46
詩織子 @cyan0401

普段ならば日直の教師や、駄弁って出るのが遅くなった生徒がいるはず。しかし、誰もいない。まるでわざとされているような…。みやびはとっさに胸元のペンダントを握りしめる。「…誰?」はっきりと声を出す。物怖じしないのが、彼女の長所であった。

2019-02-16 21:41:03
詩織子 @cyan0401

すっと出てきたのは、眼鏡をかけた同級生だった。名前は「わこ」と呼ばれていたのを思い出すが、フルネームは知らない。同級生で、みやびは文系、わこは確か文理系なので接点がないのだ。制服をきっちりと着こなし、腕時計だけが唯一のアクセサリー。細いフレームの下にある瞳はわずかに揺れている。

2019-02-16 21:44:21
詩織子 @cyan0401

ふたりは見つめ合う。夏の空気だけではない、じっとりとした嫌な感覚が背中の汗とともに伝った。「…諸沢さん」わこは口を開く。静かな口調だった。「悪の組織を、やめてください」みやびは数度瞬きして、そして笑った。「ああ…なるほど。バレちゃったんだ」「気づいていました?」

2019-02-16 21:47:38
詩織子 @cyan0401

「ううん。だから学校では頑張って隠してたのに……」あーあ、とため息をつきながら身体をわこに向けた。「知りたくなかったなぁ。……ねえ、ヒーローさん?」「……」痛いほどに空気が張り詰める。「じゃああなたもさ、ヒーローやめなよ」

2019-02-16 21:50:35
詩織子 @cyan0401

わこは首を振った。だろうな、とみやびは思う。辞められるならとっくにやめて、普通の人間として暮らしている。それが叶わない。「今は違うけどさ…いつかは、ウチら…」言葉は最後まで言えなかった。みやびが口ごもったのと同時に、けたたましいアラームが鳴ったからだ。

2019-02-16 21:52:59
詩織子 @cyan0401

わこは腕時計に視線を移した。『レッド!頼む、出動だ!』「了解しました」通信をきると、わこは顔を上げてもう一度みやびを見る。「……」「…だ、大丈夫? レッド」「本場和子(かずこ)です」吐き捨てるようにわこは言った。思わず身をすくめたみやびの横を通り過ぎていく。

2019-02-16 21:57:08
詩織子 @cyan0401

「また、お話しさせてください。諸沢さん」彼女の背中をみやびは見送ることしかできなかった。わこが校舎から出た途端、ざわざわと下駄箱が賑やかになり、何事もなかったかのように皆が帰る支度をする。そんな中でみやびは呟いた。「殺す気満々の目じゃん、怖…」 続かない

2019-02-16 21:59:07
詩織子 @cyan0401

のちにみやびちゃんとわこちゃんは屋上で昼飯のウィンナーと玉子巻きをトレードする仲になる

2019-02-16 22:05:14
詩織子 @cyan0401

「本場さん? ああ、図書委員の子だね」「ふーん、ウチ行かないからなぁ」「なんかあったの? 本場さんと」ポニーテールの毛先をいじりながら友人の前田理沙子は首をかしげる。この質問は予想していたのですぐに答えた。「んーや、昨日タオル拾ってくれて。こんな子いたんだなって」

2019-02-16 23:53:10
詩織子 @cyan0401

万が一、わこに話がいったとき上手く合わせてくれるかは不明だが。あちらもヒーロー活動は公表してない…つまり、バレたくはないのだろう。正体を隠すためなら嘘の一つ二つはつけるだろう。「ふぅん。大人しい子だよ。みやびとは性格合わないんじゃない?」「え〜? ウチ友達百人作れるタイプだし」

2019-02-16 23:56:14
詩織子 @cyan0401

まあ部下は百人とは言わずとも結構いるのだが。理沙子はけらけらと笑い、その話は終わった。朝の予鈴が鳴った。…授業をやり過ごし、昼休憩になる。購買で買った菓子パンを食べながら友人と話をするのがみやびの好きな時間だった。

2019-02-16 23:59:04
詩織子 @cyan0401

水筒が空にならそうなことに気づき、みやびは一階の自販機に飲み物を買いに行こうと思う。会話の輪から離れ、ついでにと女子トイレへ向かう。窓からわこが飛び降りようとしていた。「ウッ、ウワーッ!?」とっさに駆け寄り腰に抱きつく。「きゃっ」「待て待て待て待て!!死ぬのは早い!」

2019-02-17 00:01:40
詩織子 @cyan0401

「え…?」「確かにヒーローは相談できない仕事だよ!?でもそんな若い命を散らすには早いよ!!」「別に死ぬつもりじゃ……」「じゃあ何してたの!?」「出動ですけど…」わこはみやびに大人しく抱きかかえられ、ずるずるとトイレの個室に連れ込まれる。「窓からァ!?」「楽なので」

2019-02-17 00:04:21
詩織子 @cyan0401

前科持ちらしい。「出動って、だってアラーム鳴ってなかったじゃん…」「昨日は気を抜いてマナーモード解除していました」「マナーモード」「すいません、行っていいですか?」これは自分の部下がボコされるな、とみやびは思った。しかし遅れて到着し周りの視線の冷たさを彼女は知っていた。

2019-02-17 00:07:20
詩織子 @cyan0401

「行ってらっしゃい…」「行ってきます」もしかして本場和子はだいぶズレているのではないかと、みやびは感じずにはいられない。個室から出てわこは平然と窓から飛び降りる。次の瞬間にはもう、見覚えのある赤い戦闘ヒーローとなり街へ駆けていた。みやびは窓にもたれる。「どこが大人しいんだ…」

2019-02-17 00:09:53