ギガベース日誌 ほのぼの閑話「バレンタイン」

再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

2月15日、午前2時。 ギガベース鎮守府食糧保管庫。ほの甘い芳香を放つ積み上げられた在庫の山を前にして、間宮は頭を抱えていた。 「やってしまった……完全に、完全に事前調査を怠っていた……」　#ギガベース日誌

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トーラスから取り寄せた大量のチョコレート。全ては2月14日の一大イベント、バレンタインの為に間宮が秘密裏に用意したものだ。 それが、全て無意味となった。 準備期間とされる12日から今の今まで、間宮は艦娘達からチョコレートそのものの提供や器具の貸出を一切要求されなかった。　#ギガベース日誌

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節分に対する力の入れようから、バレンタインも大規模に行われると予想した。 そして、渡す側は相手が封を開けるその瞬間までの過程を隠したがるもの。 かつて海軍に所属していた頃に根付いた深い気遣いは、最悪の形で機能してしまった。　#ギガベース日誌

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「で、処理に困って俺達を呼んだと？」 「はい……独断でこれだけの量のチョコレートを購入してしまいこのような結果を……どんな罰も受ける覚悟です……」 すすり泣く間宮の横には、DfJと大宮、そしてたまたま食堂に足を運び間宮の慟哭を耳にした扶桑と那智がいた。　#ギガベース日誌

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「大宮。チョコレートって弾薬に転用出来たりするか？」 「無茶言わないでください。というか、普通に艦娘の皆さんに配布すればいいんじゃないでしょうか。あるいは期間限定のデザートメニューにして出すとか」 「それも考えたんですけど、見てくださいこれ……」　#ギガベース日誌

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間宮はチョコレートを一つ開放し、DfJ達に渡す。 「なんだこれ。煉瓦か？」 「我々の知ってるチョコよりも……なんかこう、だいぶ無骨だな」 「トーラス製でしたっけ。コジマ粒子とか練り込んでないわよね？」 「実はこれ、完全に手作りチョコの素材用の品でして……」　#ギガベース日誌

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「大宮。ちょっと食ってみろ」 「いいんですか？では失礼して……うーん。なんか木の皮みたいな味がしますね！フルーティー！」 「しっかりと処理をして砂糖や生クリームを加えないととても食べられたものでは……」　#ギガベース日誌

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「こんなものをそのまま配るなんて私のプライドが許しません！ですが、私一人だけ勝手にやる気を出してバレンタインの準備をしていた結果がこれだと思うと、調理がだんだん精細さを欠いてきて……私はもう……」 「落ち込み過ぎだろう。どれだけ楽しみにしていたんだ」　#ギガベース日誌

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間宮が以前所属していた横須賀第二軍港の司令官は、解り易く言えば艦娘達から非常に好かれていた。 ブレない正義感。端正な顔立ち。的確な指揮。真剣に恋慕を抱いていた艦娘も少なくなかったかのように思える。 その時の感性をギガベースに持ち込んだ結果、すれ違いは起こった。　#ギガベース日誌

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「バレンタインってのは人が人にチョコをくれてやる行事だろう。この鎮守府には獣しかいないだろうが」 「あなたそれ自分も含めて言ってるのよね」 「獣から人へもあり得んが逆も然りだぞ、貴様」　#ギガベース日誌

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「そもそもお前等はなんでこんな時間に食堂にいる」 「トーラスの防衛部隊の艦娘から良い酒を貰ってな。扶桑と一杯やろうとしていたら、間宮の情けない声が聞こえた」 「バレンタイン、バレンタインねぇ。山城にあげるならともかく、提督にはね……」　#ギガベース日誌

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敬意の欠片も無い扶桑の言葉だが、DfJはそれに怒る事も無い。 「今の聞いただろう？此処の艦娘の殆どは俺の事を衣食住と戦場とコジマ粒子を提供してくれる便利なおじさん程度にしか思ってないぞ。わざわざチョコを作って寄越す奴なんざ」 「不知火は」　#ギガベース日誌

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DfJを遮った那智が言い放ったその艦名。その場の全員が内心最も気にしていた疑問を、那智は少しの遠慮も無しに投げかけた。 「不知火からは、貰っていないのか？この鎮守府を始める前から、10年以上共に過ごしていると聞いたぞ」 「……」 DfJの記憶は、ORCA入団以前へと遡る。　#ギガベース日誌

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グローバル・アーマメンツ社。アメリカ中央地上拠点。 汚染によって拡大した砂漠のど真ん中に建設された軍事都市。クレイドル体制の発足以降地上に残された自社所属リンクスの拠点とされていたその場所の、とあるエリアの休憩所。　#ギガベース日誌

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「よーう、首輪付き！」 「……D」 休憩所に座り何かの封を開けていたストレイドのリンクスの後ろから声をかけたDfJは、そのまま彼の真正面の座席に腰を下ろした。　#ギガベース日誌

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ラインアーク防衛任務で出会ってからというもの、オーダーマッチや協働を通して彼と親睦を深めたDfJは、彼が持つ自身のオペレーターへの従順さとカラード所属をかけた「首輪付き」というあだ名で呼ぶほどの仲になっていた。 「ミッションで寄ってるのか？」 「うん。そっちは？」　#ギガベース日誌

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「済ませてきたところだ。ブリーフィングの時点できな臭い話だったが、案の定蛇が……いいや、蜘蛛が出た」 「シャミアが？」 「初めてやり合ったが相当キレてるな、アレ。上手く退けたが、もう少し霧が濃かったら苦戦していたかもしれん」 「まぁ、無事でよかった」　#ギガベース日誌

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ミッションの内容についてより細かい話をしようとしたDfJだが、少し落とした目線の先にあるものに気付き、話題を切り替える。 「なんだそれ」 「チョコレート。セレンに貰った」 「あいつ、お前にちゃんと飯食わせてるんだな。甘いもの好きだったのか？」　#ギガベース日誌

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「好きっていうか……あれだよ。バレンタインの」 「バレンタイン？聞いた事無いメーカーだな。今回の仕事で結構稼いだし、御馳走しようか？」 DfJの返答に、首輪付きは暫し困惑した。 「D……もしかして、バレンタイン知らない？」　#ギガベース日誌

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「生憎な。舌がイカレる前はよく料理をしてたんだが……メーカーの名前までは」 「そうじゃなくて、バレンタインっていうのは行事の名前。毎年2月14日に、女の人が親愛の意を込めて男の人にチョコレートを贈る、あのバレンタイン」 「……なんだそれ」　#ギガベース日誌

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首輪付きにとって、それは意外だった。何故ならば。 「Dってさ、艦娘と……不知火だっけ？一緒に暮らしてるんだよね」 「ああ」 「貰った事無い？チョコレートとか」 「一度も無い」　#ギガベース日誌

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雰囲気が気まずくなっていくのを感じながら、首輪付きはどうにか着地点を探りに行く。 「じゃあ、2月14日に何か貰ったりは？チョコを渡すっていうのは元々日本の製菓企業が打ち出した戦略らしくて、国家解体戦争以降GAに……」 「物知りだな。そこまで説明してもらってなんだが」　#ギガベース日誌

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「一度も、無い」 「……そう」 痛い沈黙が二者を包む。首輪付きは、これ以上バレンタインについて話を掘り下げる事をやめにした。 「……オーメルの新作パーツ、見た？」 「ありゃ詐欺だな。プレリリースではコジマブレードって言ってたのに蓋を開けてみりゃ……」　#ギガベース日誌

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懐かしい記憶の光景から帰還し、DfJは言い放つ。 「一度も、無い」 「本当か？意外だな。てっきりあいつぐらいからしか貰っていないのかと」 「もしかして、本当は仲悪かったりするのかしら」 「んなわけあるか。同衾してるんだぞこいつら」　#ギガベース日誌

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「那智。そろそろ黙れ」 「うっそでしょ本当？どこまでいったの？夜のスリガオは抜けた？レイテ突入は？」 「間宮。チョコは明日妖精達にくれてやれ。大宮がさっき美味そうに食ってたからな」 「そんな御無体な」 「俺はもう寝る。那智。酒盛りは構わんが、間宮を手間取らせるなよ」　#ギガベース日誌