戦争が終わったら

同志雪の人＠活動低下 @yuki_8492

「戦争が終わったら、か」 霞は先ほど言われた言葉を咀嚼していた。戦争が終わったらなんて、考えたこともなかった。

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両親手ずからに海軍に売られて以来……いや、この表現は適切じゃなかった。一応、志願したことになっている。補助金が村に、給与の多くが両親に入っているだけで……海軍に入って以来、戦争の終わりなんてものは考えたことがなかった。

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考えてみれば、ほんの何年かの出来事なのに人生の全てが戦争で形作られているような気がした。 実際そうなのかもしれない。入隊する前は、物心ついてからずっと、食べ物のことしか考えていなかった。あれはただ、漠然と命を繋いでいただけ。生きていたと言えるほど、主体性の伴うものではなかった。

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戦争が始まって、海軍に売られて、それで初めて自らの意志で考え、行動し始めた。 戦って生き残るために必要なこと、上手い艤装の動かし方、敵を倒すこと、仲間との協力、友達もできた。訓練や任務の後の入浴、耐え難い毛布の誘惑、間宮の甘味、読書やけん玉みたいな娯楽、遊び…賭け事も。

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人として生きることの全て、人としての尊厳、それらを得ることが出来たのは、戦争と海軍のおかげだ。 そうやって考えてみると、人生の全てが戦争だと言っても、決して誇張表現ではない。

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戦争の中で、戦争のために生きてきた。 戦争が終わったら？ 戦争のない日々？ そんなところで、そんな世界で自分は生きていくのか？ 想像もできない。あまりにもかけ離れていて、遠く感じる。娯楽小説の空想世界の方がよっぽど身近に感じるほどに。

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むしろちょっと怖かった。いつか誰かが、私から艦娘であることを取り上げるのか。私から戦争を…深海棲艦との戦いを奪うのか？ そこまで考えて、笑ってしまった。 本末転倒じゃない。戦争を終わらせるために、深海棲艦を滅ぼすために戦っているのに、それを恐れるなんて。

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「ねえ、望月」 「なに？」 「戦争が終わったら、私達何をやっているのかしら？」 「ええ…、わかんないけど……」 霞の疑問に、望月はいつものように気だるげに答えた。 「少なくともあたしは、それまでには沈んでるんじゃないかなぁ」

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「確かに。今の損耗率じゃ、そんなの気にするだけ無駄かもね」 その日が自分達にも来ると言うのは、確かに希望的観測が過ぎた。 「ううん」 だが望月は、霞の結論を気だるげに、しかしはっきりと否定した。

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「たぶん、霞は死なないよ」 「どうして」 霞は憮然として尋ねた。自分だけ死なないなんて、なにか仲間外れにされたような気がしたのだ。 答える望月は、確信に満ちた表情をしていた。 「なんとなく、そんな気がする」