競馬場に行っていますか?

@glassracetrackさんの秀逸連載、第2幕をトゥギャりました。
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治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」1・私が初めて競馬場に足を踏み入れたのは、今から21年前の10月の天皇賞秋の日のこと。それよりもほんの少し前から競馬を始めていたので、満を持して(?)の競馬場入りであった。ウインズのテレビモニターで競馬を見始めた私にとって、競馬は単なるゲームであった。

2011-05-04 23:42:22
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」2・それがこの日を境に大きく変わった。府中競馬場の入場門をくぐり、顔を上げて、競馬場を見渡した瞬間、これまで見たことのない空の大きさに圧倒された。他のスポーツの場、たとえば野球場や競技場やスタジアムにはなかった、大きな空が競馬場には広がっていた。

2011-05-04 23:56:35
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」3・テレビモニターの奥にこんな大きな空が広がっていたことに驚き、今の今まで、この歳になるまで、競馬場に1度も来たことがなかったことを恥ずかしく思った。こんな素晴らしき世界が広がっていることに、なぜもっと早く気がつかなかったのか。何をやっていたのかと。

2011-05-05 00:03:00
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」4・それからというもの、競馬場にある全てのもの、競馬場で起こる全ての現象が、私にとって新鮮に映った。パドックに行けば、サラブレッドの息遣いや足音が聞こえ、ボロ(糞)の匂いがしたりする。なぜか回ってくる度に目が合う馬もいて、どうしても馬券を買ってしまう。

2011-05-05 00:10:55
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」5・「止ま~れ~」と号令がかかり、騎手たちが集合し、一列に並んで礼をすると、これから走るサラブレッドがそうであるように、私もブルっと身震いする。競馬ファンのうんちくも耳に入ってくる。ここにいる人たちは全員、競馬関係者なのではないかと思うほどの口ぶり。

2011-05-05 00:20:29
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」6・今でも細かい部分は正直分からないが、当時の私にとっては、馬が歩いているのを見て、競馬ファンがあそこまで良し悪しを言い切れることに、尊敬と畏怖さえ覚えた(どの人も良し悪しはバラバラであったが)。少し居心地の悪さを感じつつも、次は返し馬を見に走る。

2011-05-05 00:27:04
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」7・大抵の場合、お目当ての馬はすでに走り去ってしまっていることが多かったが、たまに自分の目の前を通り過ぎたりすると、もしかして勝つサインかもと妄想し、少しだけ厚めに馬券を買ったりした。当時は馬券を買うのにも、平場のレースでも、並ばなければならなかった。

2011-05-05 00:32:42
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」8・だから、レースの発走までの残り時間と、列の長さを見比べて並ばなければならない。この列に並んでいれば馬券を買えるかどうか。もし買えないと判断したのなら、別の短い列を探しに競馬場の中を走り回らなければならない。

2011-05-05 00:35:57
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」9・毎レースが、馬券を買えるかどうかの勝負でもあった。慣れないうちは、何度も失敗する。よくある失敗としては、短いと思った列にとんでもない奴が潜んでいるケースだ。とんでもなくたくさんの枚数の馬券を買う奴と、とんでもなく馬券の買い方が分かっていない奴だ。

2011-05-05 00:42:54
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」10・前者は友達からの馬券を頼まれていて、自分の馬券も併せて、数十枚の馬券をまとめ買いするのだ。特にメインレース(特にG1)の直前になると必ず現れる。前もって買っておけよと思いきや、買っている途中で頼まれた友人から携帯に電話が掛かってくるではないか!

2011-05-05 00:52:46
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」11・何度も買い目を変更をして、およそ10分間かけて購入完了。後ろに並んでいたおっちゃんらがブツブツ言っていると、締め切りのベルが鳴る。その列にいたことの不運を呪いつつ、買えなくて良かったと思えるよう、応援するはずだった馬たちの凡走を願うことになる。

2011-05-05 01:00:27
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」12・後者は初心者ではなく、馬券の買い方を覚えようともしない人だ。スーパーマーケットに入って、探しもせずに、「トイレットペーパーはどこにある?」と店員に聞くタイプである。だから、ほぼ必ずと言っていいほど、マークミスをする。

2011-05-05 01:04:46
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」13・買おうと思っているレースや馬の番号、賭ける金額を間違えていたりする。そういう人に限って、100円単位で数え切れない点数を買うので、間違ったらその修正に膨大な時間が費やされる。そんな時、後ろに並んでいる私の胃はキリキリしている。

2011-05-05 01:11:10
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」14・そして、とんでもない奴が列に潜んでいたことを見抜けなかった自分が悪いのだと反省する。つまり、列の長短の問題だけではなく、列に並んでいる面子も見なければならないのだ。これも慣れてくると、次第に見分けられるようになるから不思議だ。

2011-05-05 01:15:39
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」15・列の並び方が変だったり、視線が泳いでいたり、赤エンピツの持ち方がおかしかったりする挙動不審なやつがいると、短い列でも並ばずに、隣の列に並ぶ。そうすると、やはり、そこで流れが止まる。自分の直感が正しかったことを喜びつつ、馬券を買う。でも負ける(笑)

2011-05-05 01:20:55
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」16・今思えば、馬券を買うために並んだ時間も貴重だった。長い列に一旦並ぶと、もう引き返せない。引き返すことは、つまり馬券を買えないことにつながるからだ。この馬と決めて列に並んだものの、並んでいるうちに、段々と自信がなくなってくる。

2011-05-05 01:24:48
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」17・前に並んでいるおっちゃんが新聞につけている印や大きな見出しが気になってくる。「○○で自信あり!」と書かれると気持ちが揺らぐ。モニターにオッズや馬体重が見えて、やっぱり来ないかもと不安になり、ターフから聞こえてくる歓声に耳はダンボのようになる。

2011-05-05 01:28:37
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」18・そうしている間に、購入窓口はどんどん近くなり、一刻も早く決断をしなければならない。冷静を装ってみても、心の中では七転八倒している。逃げたくても逃げられない。何度、マークシートを書き換えたことか。マークシートが汗で濡れて、しわくちゃになったことも。

2011-05-05 01:32:23
治郎丸敬之@ROUNDERS @glassracetrack

「競馬場に行っていますか?」19・自分が1度決めたことを(それも数分前に)、列に並ぶという僅かな空白の時間あるだけで、これほどまでに貫き通すことができないものかと、初めて実感することができた。今は買おうと思えばすぐに買える時代なので、あの空白の時間の緊張感は味わえない。

2011-05-05 01:35:47