戦術人形ログ "Cafe Springfield I"

ドールズフロントライン二次創作 スプリングフィールドのカフェに訪れた指揮官の独白
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寝る子@ @neruko3114

ドールズフロントライン二次創作 #戦術人形ログ 「スプリングフィールド」のログより: "Cafe Springfield I"

2019-03-05 22:44:41
寝る子@ @neruko3114

非番の日はいつもカフェを開けている。誰かにそうするよう言われたわけではなく,自然とここに足が向いて,私はコーヒーを淹れている。この施設に設置されているカフェは,誰も使っておらず,しかし道具は揃っていた。付け足すなら,ほこりを被ってた様子もなかった。 #戦術人形ログ

2019-03-05 22:46:07
寝る子@ @neruko3114

元々誰かがここでカフェを開く予定だったのか,それともその誰かが現れるのを待っていたのか。カフェが用意されている経緯はどうあれ,私はカウンターに立っている。 #戦術人形ログ

2019-03-05 22:47:00
寝る子@ @neruko3114

一区画に設置されたここは場所の都合か,お客さんの出入りはまばらだ。休憩なら時間外の食堂が空いている。ここにはたまに休憩しに人形が来るくらいで,人が来るなんてほとんどない。そもそも,この施設にいる人間の数なんて,片手で数えられるくらいだけど。 #戦術人形ログ

2019-03-05 22:48:34
寝る子@ @neruko3114

時計の針が頂点で交わってからしばらく,カフェに新しいお客さんが現れた。グリフィンの制服を着たその人の背丈は高くもなく低くもなく。一目見て,大人しい印象を与える。カフェの入口で店内を少し見渡してから,誰もいないカウンターについた。 #戦術人形ログ

2019-03-05 22:49:55
寝る子@ @neruko3114

その人は椅子に座ってすぐ,メニューも見ずに注文をする。「コーヒーひとつ」注文の時,いつもそう言っているから,聞き慣れた。ここへ通うようになってからしらばく経つ。指揮官と戦術人形という間柄のせいか,それともこの人が無口なのか。お互い多くは語らない。 #戦術人形ログ

2019-03-05 22:52:44
寝る子@ @neruko3114

豆を挽き,ドリッパーに入れる。熱湯を少し注ぎ,蒸らしてからサーバーに抽出する。それから温めておいたカップに注いで,ソーサーに乗せて差し出す。この所作を何度繰り返してきただろう。数えるのをやめたのは,カウンタが千回,あるいは万回を超えた頃だっただろうか。 #戦術人形ログ

2019-03-05 22:54:03
寝る子@ @neruko3114

「どうぞ,指揮官」私が差し出したコーヒーを,指揮官は一言礼を言って受け取る。ほぼ毎日こうしてカフェへと来ているが,その表情にはどこか影を感じさせる。誰かと来たような覚えもなく,一人で来て,私の淹れたコーヒーを飲んで,仕事に戻っていく。 #戦術人形ログ

2019-03-05 22:55:11
寝る子@ @neruko3114

他の戦術人形や副官と親しくしているような様子も見られない。噂では人形嫌いだけどやむなく指揮官をやっているとか,この世界に絶望しているとか,幼少時代にひどい目にあったとか聞いたけれど,実のところどうなのだろう。 #戦術人形ログ

2019-03-05 22:58:26
寝る子@ @neruko3114

昔,仕事は大変なのかと聞いたことがある。指揮官という日々の激務で疲れているのかと思ったが,そうではないと返され,何故だろうねと逆に返された。その時のやり取りを,私はよく覚えている。一体何がこの人を悩ませているのだろう。私はそれが気になっている。 #戦術人形ログ

2019-03-05 22:59:26
寝る子@ @neruko3114

「……?」気付かず私は指揮官を見つめていたらしい。カップに口をつけながら,指揮官が私を見上げている。「ご,ごめんなさい」恥ずかしくなって視線を逸らす。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:00:53
寝る子@ @neruko3114

指揮官は何も言わず,コーヒーを一口すする。指揮官より先にいた人形が退店するのを見送り,私は再び指揮官を見た。「あ,あの,指揮官」「はい」指揮官が応じてくれる。意を決して私は口を開く。「最近何かありましたか?」「別にないけど」「その,いつになく暗い顔をされてるので」 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:02:49
寝る子@ @neruko3114

これは事実だ。小さな変化だから気付かなかったかもしれないが,いつもより空気が暗い感がある。それに本人は気付いていないのかもしれない。これを放置すればやがて大きな変化になるような不安がふと私の中に生まれた。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:04:37
寝る子@ @neruko3114

指揮官は私に視線をあわせない。その視線は手元のコーヒーカップに向けられている。「その,誰もいませんし,話してくれませんか」遠回しにせず,私は言った。あなたが抱えているものを,私は知りたい。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:05:32
寝る子@ @neruko3114

指揮官は何も答えず,沈黙を返した。私は,指揮官が何か答えてくれるのを待った。これまでの指揮官との関わりから考えるに,この沈黙は返答に躊躇している。口を開き,答えを返してくれると期待し,私は待った。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:07:33
寝る子@ @neruko3114

私が問うてから,数分。指揮官はカップに残っていたコーヒーを飲み干すと,口を開いた。「時折,肩身が狭い」「それは,どうしてですか?」私は空いたカップに追加のコーヒーを注いで続きを促した。再び淹れられたコーヒーを一口すすって,指揮官は続きを話し出した。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:08:55
寝る子@ @neruko3114

「私が人間だからだと思う。……ここにはたくさんの戦術人形と,少しの人間がいる。つまり人間が少数派だから肩身が狭い。と,私は思っていた。でも実際はそうじゃなかった」「と,言いますと?」 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:09:50
寝る子@ @neruko3114

「つまり,人間とそうでないものの比率は原因ではなかったということ。……ここには人間しかいない。それもそうね」「……ごめんなさい,話が見えなくて」私は疑問符を浮かべる。唐突に話がずれていないだろうか?この施設における戦術人形と人間の比率について話をしていたはずだ。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:11:05
寝る子@ @neruko3114

「言い換えるとね,私はあなたたち戦術人形を人間だと思っている」「指揮官,私たちは戦術人形であって,人間ではありません」とっさに反応してしまった。しかし私たちは戦術人形であって,人間とは非なるものだ。そのように私は認識しているし,他の人形も同様だろう。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:12:50
寝る子@ @neruko3114

「分かってる。分かってる。でも私はあなたたちをそう思っていて,だから私は疎外を感じている」「それは何故です?私には分かりません」戦術人形と人間の比率の話からはじまり,実はそうではないという話へと移った。かと思えば私たちを人間と思い,それが疎外感の理由だという。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:13:46
寝る子@ @neruko3114

指揮官の話はどこかもったいぶっているような気がする。いつもであれば,要点をかいつまんで話してくれるし,結論が先に来るような人なのに。そう思って抱いた疑問は,指揮官の次の一言でつながった。「私ね,人間が嫌いなの」 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:15:02
寝る子@ @neruko3114

指揮官はコーヒーをまた一口すする。カップ半分程度になったコーヒーの水面を通して,ランプがゆらゆらと揺れていた。「何かひどいことをされたわけではなくてね。どうしてか,嫌いなの。やかましくて,私のことわかったふりをして,土足でこちらに踏み込んでくる」 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:16:03
寝る子@ @neruko3114

私のことを何も分かってないくせに,そう言ってから指揮官は続ける。「人付き合いに疲れたから,人の少ない場所を求めてここにきた。でもここは探し求めた楽園じゃなくて,私よりずっと人間らしい人形がいる」指揮官の言葉になんと返せばよいか,すぐには浮かばなかった。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:17:14
寝る子@ @neruko3114

しばしの沈黙。指揮官はコーヒーをちびりちびりとすすり,私はそこに立ち尽くす。なんとか言葉を口に出そうとして,やっと口に出すことができた。「あ,あの,指揮官。……私たちの,存在は,苦痛ですか?」途切れ途切れながら,私は問いを発することができた。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:18:22
寝る子@ @neruko3114

彼女の話からすれば,私,いや私たちの存在は苦痛のはずだ。こうして話してくれたことは,一つの成果かもしれないが,そうとも知らずに接していた私たちは,これからどうすればいいのだろう。演算回路が熱を持つのを感じる。 #戦術人形ログ

2019-03-05 23:19:22