【備忘録】オコナイに見る「餅」と「バイ」

古来各地の寺院で行われてきた修正会、修二会が形を変えて今なお続けられてるのものを「オコナイ」と呼んでいる。福井県丹生郡越前町の朝日観音には「二日扉(フツカド)」という名のオコナイが続いており毎年3月2日に行われてきた。かつての「二日扉」の姿を想像しながら、オコナイに見る「餅」と「バイ」のあれこれを考察。
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みょうこう @asahiji_myoko

朝日観音のオコナイ「二日扉」畢んぬ。 その由来は、泰澄大師が魔神を調伏して百年余り後、再び鬼人が出て、二月二日の巳の刻に、朝日、内郡の両村より三歳になる幼児を一人まで奪い去っていった(人身御供)。それを拒むと農作物は荒され人々の生活が脅かされてしまうとのこと。

2019-03-02 20:49:42
みょうこう @asahiji_myoko

そこで時の住職道実和尚は里の人々と共に観音菩薩に悪魔退散を祈り三七日間の願をかけ、鬼人を退治されたいう。里の人々は喜び、深く観音菩薩の妙智力をたたえ、その後、毎年二月二日を記念し(これは旧暦で現在は月遅れで三月二日に行う)、一つの行事をすることになった。これが二日扉の始まりである

2019-03-02 20:49:42
みょうこう @asahiji_myoko

その行事というのは、朝日の里に生まれた三歳になる幼児は、晴れ着を着せて、御神酒、御鏡餅を観音様に供え、生大根に塩を振りかけ鬼人の腕に譬え、萩のバイ(棒)を幾十本かを供え、住職により観音経が読誦される。終わると萩のバイを参詣者に与え、それを手に手に持って「ソレヤ出たぞ」と

2019-03-02 20:49:42
みょうこう @asahiji_myoko

縁板を叩く。このようにして退治の様相を表し、萩のバイが四つに割れると、その家の蚕が吉であるとして持ち帰り、神棚に捧げたとのことである。そして参詣者一同が御堂に座し、御神酒をいただき直会となる。御鏡餅は悪魔退治の時、里の人々が道実和尚に加勢して鋤鍬で鬼人の肉を削ぎ取ったとの事から

2019-03-02 20:49:43
みょうこう @asahiji_myoko

「削ぎ餅」ともいわれ一般の人々に分配される。この行事は大正初期迄行われ、その後は幼児を持つ家の代わりに村より御神酒、御鏡餅を供え、氏神の宮番の世話にて、三月二日に形ばかりの様になっている。

2019-03-02 20:49:43
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

何度か触れているけれど、朝日観音さまのオコナイ(二日扉)の古式(大正初期まで行われていたという餅大根悪魔退治)のお話、興味深いよね~♪ 祭式の、とりわけ惹かれるポイントは、何と云っても「餅と大根を悪魔に見立てる」というところと、あと「バイで縁板を打ち鳴らす」ところかな。

2019-03-05 23:03:13
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

まず「餅」。 「オコナイ」に「餅」は付き物で、湖北~湖南(主に甲賀の辺り)に残る「オコナイ」と呼ばれる行事では、鏡餅のお供えや餅花飾りが行事の中心になる。越前では少ないが、鯖江市の「オコナイ」の餅撒きが知られているだろうか。(なお、「オコナイ」の餅撒きが… dearfukui.jp/event/784

2019-03-05 23:21:29
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…おこなわれる鯖江市・加多志波神社に伝来の「追儺面」は有名で、かつては「鬼やらい」的な追儺が行われていたであろうと想像される。) info.pref.fukui.jp/bunka/bunkazai… 現在、湖北・湖南の地域に民間行事として伝承される「オコナイ」も、その背景には修正会・修二会の仏教「悔過」(一年の罪過の懺悔)…

2019-03-05 23:21:29
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…があって、それが地域に定着したのを起源とする。現在、湖北の「オコナイ」のほとんどが神事として神社で行われているのに対して、湖南(甲賀)では多くが寺院行事として行われており、比較的古い形態と考えられるらしい。

2019-03-05 23:28:43
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…「湖北のオコナイについては、戦国期に顕著となった浄土真宗の拡大にともなう密教系寺院の減少、さらに明治初年の神仏分離政策の影響などにより、神事への変更が進んだものと思われる。」…というのが、『長浜市史6 祭りと行事』の説明。また同書には、「仏教色の濃い甲賀郡のオコナイでは、…

2019-03-05 23:47:48
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…「ランジョウ」または「ダンジョウ」などと掛け声をかけ、木の棒や杖などで激しく床や板戸を叩く儀礼がしばしばみられる」…「喧騒による魔除け行為は、古来仏教行事としての修正会・修二会の重要儀礼であったことを考えると、今では仏教色の薄くなった湖北のオコナイにこれらの儀礼が少ないのは…

2019-03-05 23:47:49
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…頷ける。」とあって、いくつかの具体例を挙げている。 (朝日観音さまの古式は、越前では稀な仏教寺院型オコナイだったのだろう。…この板を叩く儀礼を、魔除け行為の「ランジョウ」(乱声)とのみ解してよいかは、やや留保が必要だと思うが…。)

2019-03-05 23:47:49
みょうこう @asahiji_myoko

@KatsuoOkuhara バイで縁板を打ち鳴らすのは、 神戸市北区無動寺のオコナイ mosso-mosso.com/1%7E3%E6%9C%88… 奈良市都祁馬場町金龍寺のオコナイ blogs.yahoo.co.jp/nekozero54/607… 甲賀市甲南町市原の乳薬師のオコナイ 11.pro.tok2.com/~kazuo/m20-228… などに類似例があります。そもそもは牛王杖なんでしょうが、萩の枝は珍しい。

2019-03-05 23:27:02
みょうこう @asahiji_myoko

@KatsuoOkuhara そして悪魔みたいな飾りを乗せるお餅といえば、伊賀島ヶ原の観菩提寺正月堂のオコナイ。こちらではバイで壁を叩いてますね。 youtube.com/watch?v=M7s7m4…

2019-03-05 23:37:43
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奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

そうそう、観菩提寺「修正会」の“餅悪魔”(仮称)ね! (以前、みょうこうさんと「これ元ネタっぽいよね~」とお話ししたことがあるのですが…)重ねた餅の上にシュロと野菜で作った「鬼頭」を載せる、というものですね… ↓ igakanko.net/?p=223 ただし、朝日観音さまの古式では、餅と大根は… pic.twitter.com/dXV0jePL1I

2019-03-06 00:01:22
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奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…悪魔の体に見立てて切り刻む、だけで、組み立てて鬼や悪魔を造形することにはなっていません。(もしかしたら、記録に無いくらい大昔には、実際に悪魔像が造形されていた可能性もなくはないと思いますが…) これ面白いと思うんですよね~!餅と大根を「悪魔」に見立てるって、高度に抽象化…

2019-03-06 00:05:45
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…された儀礼で、例えば先日の「睦月神事」の“張りもの”の祭式くらい象徴化されている。(演劇的には直写再現ではなく、より高度な代置象徴の技法。) もっと飛躍したことを云えば、パンと葡萄酒を血肉に見立てるキリスト教の聖餐式をさえ連想します。

2019-03-06 00:13:17
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

※ただし―! ここで注意が必要なのは、具象的な「鬼退治」が、餅と大根を鬼や悪魔に見立てるまでに高度に抽象化された、と成立過程を一方通行でばかり考えてはいけなくて、参会者が餅を分け合う広範囲に行われる「オコナイ」の一般的な儀礼に、泰澄の創建伝説や土地の鬼神退治伝承が…

2019-03-06 00:21:02
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…地域の特殊性として後から付会されていった、という側面もあるはずなので、そこは両方向的な干渉によって抽象性が獲得されていった、と解するのが妥当かと思います。

2019-03-06 00:21:02
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

さて、バイ(棒)で板を叩く(打ち鳴らす)話。 日本海側では、若狭からもうちょっと西のほうにまで見られる「戸祝い」の風習なども思い浮かびます。(先日、国の無形民俗文化財に選択されたニュースは記憶に新しいかもしれません。) twitter.com/KatsuoOkuhara/…

2019-03-06 00:33:53
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

若狭の「戸祝い」「キツネガリ」のお話はこの辺 ↓ twitter.com/KatsuoOkuhara/… 若狭町歴史文化館の企画展示で拝見した「祝い棒」の話とか… twitter.com/KatsuoOkuhara/… 「妖怪ウォッチ」の呪力の話とか… twitter.com/KatsuoOkuhara/…

2019-02-09 10:37:48
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

「バイ」「祝い棒」で玄関先の柱や軒先の板を叩く行為は、五穀豊穣を祈り福を呼ぶ…と説明されますが、「戸祝い」行事に、害獣を追い払う「キツネガリ」と習合している例も多いように、魔除けの意味ももちろんあるでしょう。 気になるのは、板を棒で叩く「ランジョウ」の、もう一つの意味なのです。

2019-03-06 00:45:42
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

最近たまたま目にした『藝能史研究』という雑誌の「歌舞伎の〈見得〉」特集(223号)に、和田修「見得の源流 ―元禄歌舞伎の神霊事と修正会・修二会の鬼―」という、とても面白い論考が掲載されていて、(詳細は省きますが)歌舞伎の見得の起源の一つを、その演技に伴うツケ(バッタリ)から…

2019-03-06 01:14:56
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…修正会・修二会の「追儺」の鬼登場シーンの「乱声」に遡る内容で、興味深く読みました。 前出の観菩提寺の修正会や大分の六郷満山から、新野の「雪祭」の「さいほう」登場シーンの「らんじょう」など、多数の例を挙げて、「鬼を呼び出すための乱声の機能」「古来神霊を驚かすための乱声」を論じて…

2019-03-06 01:14:56
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

…いる。(同論考は、そこから元禄歌舞伎の「神霊事」につながる主旨。) (<余談> 前記論考からは離れるが…中世の密教寺院には乱経(順番でたらめな読経)によって障礙神を発動させ、もって魔祓いとなす行法などもあったらしく、もう一回り持って廻った心意と云おうか…)

2019-03-06 01:29:48
奥原佳津夫 @KatsuoOkuhara

で、ややこしい話をして結局、何が云いたいのかというと― バイ(棒)で縁板を打ち鳴らす「ランジョウ」(乱声)は、もしかしたら魔除けではなく、(象徴的なものにせよ)餅大根悪魔の登場シーンだったかもしれないじゃないですか―!?

2019-03-06 01:34:55