その7、悪の結社の元戦闘員と元ヒーロー連続失踪事件
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前の話
本編
【告知】 本日は 元戦闘員さんテレビスペシャル 「元ヒーロー連続失踪事件」 の放送を予定しています。ニンジャスレイヤーめいた連投になりますのでうっとうしいかたなリムーブ・ミュート推奨です
2016-06-10 20:22:34【予告】 少女は紙袋から戦闘服をつかみだし、黄色い歓声をあげる。 「すごーい秘密結社の!本物だー!さっすが流星さん!」 「ちょ、ちょっとこんなところで出さない!」 慌ててひったくり、元通りにしまう年上の女性。 「あはー。わっかりました!あとでじっくり!」 「そうそう。ふひひ」
2016-06-10 20:27:11【予告】 「お、俺…いやアタシはヒーローなんかじゃない。通りすがりの人気マスコット、ヤッホープッシーにゃん!」 ボイスチェンジャーからハイピッチな声を流しつつ、猫の着ぐるみはポーズを決めた。 「さすが仕事を選ばないプッシーさん、な訳ないでしょ!」 殺人鬼は容赦なく凶器を向ける。
2016-06-10 20:31:01狭い裏路地を、ひとりの男が息を切らせて走っていた。もう夏も近いというのに厚着をした、背丈の低い中年。片目にはめていた眼帯はずれ、昆虫のような複眼が露出している。 「はぁ…はぁ…ドクトロに…ドクトロにお知らせせねば…うっ!!!」 背後から青い光が波のように打ち寄せ、男をとらえた。
2016-06-10 21:55:03「おにごっこはもーおしまい?」 青く光る何かを手に、黒い影が近づいて来る。男は歯噛みすると、うめくようにして声を絞り出した。 「変身…解除…」 複眼がせりだし、反対側の目も同じ形状になる。服を破いてキチン質の肌が盛り上がり、肩のあたりから虹色の羽。ずんぐりしていた体形は流線形に。
2016-06-10 21:56:53「へー見かけによらないですね。メガネウラ?ですか?石炭紀に生息していた史上最大のトンボ」 古生物を思わせる姿で飛び立とうとする怪人をしかし青い光が包み、路上に墜落させる。 「ドク…トロ…」 「でもだめですよ。私の邪魔をしちゃあ…さ、楽しい解体タイムを始めましょう♪」
2016-06-10 22:00:02影はうつぶせになったトンボの怪人の背にゆっくりとのしかかる。片手には輝き振動するナイフ。 「怪人は初めてなんですよ♪ヒーローよりいい声で鳴いて下さいね♪」 細かく震える刃がキチン質にめりこんだ瞬間、紫の体液が噴き出し、弱弱しい悲鳴が路上にあふれた。
2016-06-10 22:01:39午後の陽ざしがわずかに差し込む喫茶店。 カウンターだけの店内には、頬杖をついた若い女性がひとり。日に焼けた肌に引き締まった体つきは、スポーツをやっている雰囲気。年頃は二十代後半ぐらいだろうか。 ラフなファッションが似合いそうだが今日はおとなしい白のブラウスにグレーのパンツ。
2016-06-10 22:04:25鼻歌を口ずさみながら、スマートフォンをつつき、時折、マイセンのカップに満たしたコーヒーを口に運ぶ。 「今日はひさしぶり上機嫌だな」 銀髪銀髯のしぶいマスターがカウンター越しに話しかける。 「えーそうですか?」 ほほえんで答える女性は、特に否定するそぶりもない。 「よかったぜ」
2016-06-10 22:06:03「そんなひどかったですかねー?」 「詳しくは聞かないがよ。風間のやつも最近落ち着いたみたいだし、悪いこっちゃねえ。常連のしけた顔は見たくねえからな」 「あーフウライガーさん。なんか晴れ晴れしてましたよね」 「おいその名前はご法度だぜ」 「ふひひ、さーせん」
2016-06-10 22:08:05世間話をしばらくしたところで、マスターはふとだまりこみ、真面目な顔になってまた口を開く。 「しかしそう浮かれてもいられねえな。お嬢ちゃんはあの話聞いたか?」 客が否定のしぐさをすると、うなずいて先を続ける。 「そうか。まだ広まってねえんだな」
2016-06-10 22:09:42「最近、引退したヒーローが何人も行方不明になってる」 「ヒーローが?」 「そうあんたみたいなな。機動交番パルサーのライバルだったはぐれ公安のガイサンカ、五僧戦隊シュッケンジャーのシュッケンモスグリーン、それに麗人仮面ペワテロン」 「うーん…」 「何か気づかねえか?」
2016-06-10 22:12:52客はコーヒーをもうひとすすりしてから考えこむように眉根にしわをよせた。誰あろう、彼女もまたヒーロー。大空流星こと銀光戦士シャンバランだった。宇宙から来たメタル軍団をひとりで叩き潰した豪のものだ。現在は保育士として仕事に生き、またヴィランマニア(悪の組織好き)として趣味も充実。
2016-06-10 22:15:08「全員女性?」 「そうだ。いなくなったのは女性ヒーローばかりだ」 「じゃー次は私が失踪かなー。なんて」 マスターは鼻息もあらく吹き終わったグラスを片づけると、叱るように言った。 「冗談じゃねえぞ。気を付けな」 「はあ。私、ヒーローですけど」 「元ヒーローだろうが」
2016-06-10 22:17:00「引退しちまったら、勘は鈍るもんだ。ヒーローだからって死なないとは限らねえんだぞ」 「あはは。どっかの怪人がしょうこりもなく襲いかかってきたら返り討ちにしてやります」 「…お前さんが前に酔っぱらっていってた例の」 流星は身を固くしてから溜息をついて答える 「イ゙ーッ、ですか」
2016-06-10 22:18:36「あんなの、そんな甲斐性ないですから…」 「そうか…いや、すまん。とにかく気をつけてな」 マスターにむかって、妙にうつろな笑いを見せてから、スマートフォンに目を落とし、はっとした表情になって立ち上がる。 「待ち合わせの時間なんで行きます」 「いってきな」 「ごちそうさま!」
2016-06-10 22:20:14