【十字路の夜から】福間健二 #k2fact217

福間健二 @acasaazul

十字路の夜に立ちつくした。この世界はどういう仕組みなのか。それが少しはわかった気がして。風がつめたい。こぼれる液体を踏みたくない。心の足に用意した靴は紐をほどけないようにイアンノットにして。途中だ。小さな失敗にはクヨクヨしないが、たまには休みたい。（十字路の夜から１）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

その古靴が言うのか。まだ若いきみが言うのか。ほぼ半世紀から着ているくたびれたシャツの神様に問われてしまった。自分の欲しいものがわからない神様。彼は言った。休息は動いて発達しながらのスイート・ナッシングでいいだろう。いいよ。同情はしないが、キスはした。（十字路の夜から２）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

【訂正】 ほぼ半世紀から　→ ほぼ半世紀前から （十字路の夜から２）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

ガソリンスタンドと三軒の家。わざとピンぼけ写真を撮ってお別れだ。きみを引きよせようとする神様の手には代用品。本物のきみよりもきついことを言う。言うべきだ。春がもうすぐ。どうやっつけるか。裕福な獲物を狙う別の神様もいる。黙って観察。はなみずは止まった。（十字路の夜から３）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

カラスの多い町。「家路」のチャイムが鳴って。老人の多い町。遠い山に日が落ちても。どこにも帰りたくない悪い子。その言い分を聞く神様。何を切りきざむか。だれが欲しいか。行方不明の二五三三人の言い分は聞かないその手に握られる夜の感情。守ってくれなくていい。（十字路の夜から４）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

返事がない。なければないで育つものがある。親しい影の消えた戸口の前。無関係のむこうの空の、次世代の雲。制服を脱いだというだけの、わかりにくい飛び方をする自分を責めない。世界には抗議する。山と川があって、小心者にもやさしいヴェルベット。風が頬を撫でる。（十字路の夜から５）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

だれの関心を引くつもりだったか。階段の、身ぶりの課題。実習どおりにやってきてはくれない。ひとつあればいいもの。ひとりいればいいもの。入口の数だけ複数の物語を背負ったきみ。その手をキラキラさせて、アンダーグラウンド。大衆酒場の「まねき屋」はどこですか？（十字路の夜から６）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

最初は覗き込んだだけ。いつのまにか深入りしている。二つある「まねき屋」。違いはよくわからないが、さらに隙間を探って、隣へ、下へ、裏へ。いくつもの線。何種類もの青。歌がきこえる。壁の落書きから生まれたような夜明けの住人たち。朝食はベーコンエッグと豆。（十字路の夜から７）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

皿に豆をひとつおいて見つめている人もいた。どうしたかったのか。ひとりで物語をいくつも背負う。そんなの罪でもなんでもないのに、左胸にある傷が十字路の夜を思い出させて、豆は床に落ちた。逃げるときだった。若いきみ。どこでもいいから地上、無表情の妹になって。（十字路の夜から８）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

どなたも中にいませんね。そう確かめて鍵をかけ、きのうの夢の外に出る。純粋病、悲しい目をした鳥、ファムファタール。どれも見事に挫折で、空は青い。もう道はひとつだけ。基礎構造のわからない川に沿って普通に人であること。あと四分で正午。間に合ったみたいだ。（十字路の夜から９）#k2fact217

福間健二 @acasaazul

こんにちは。でも、すぐにお別れだね。昼の渦巻きを追わない。神様たちを追わなかったように。富士見通り、大学通り、旭通り。あっておかしくない場所に、呼吸の音、生きる姿、まとまりをもつ構造体が並ぶ。気をつけろ。直角じゃないもの、直角だと錯覚することがある。（十字路の夜から10）#k2fact217