以前の話
蛇の口隧道
蛇の口という隧道が、今居と森坂の間の、市街から少し外れた藪の中にある。街道から延びる枝道の一つだが、拳ほどの石がごろごろ転がっているし、いつも壁が濡れていてかび臭い。おまけに壁を伝う水はなんだか濁った水だ。 #ありもしないはなし
2019-01-11 23:58:24今でこそ足元にアスファルトを打って蛍光灯を一日つけているが、昔はら真っ暗な中を探り探り行く。それでもまだまともな方の道だったそうだ。蛇の口の西にある山道も同様に今居と森坂をつなぐ道だったが、滑りやすくてよく滑落があった。隧道の水が濁っているのはそのせいだという。
2019-01-11 23:58:25竜の背の道
蛇の口の隧道の話を西ヶ原の子供にしたところ、うちには竜の背の道というのがあると言った。一緒にいた親は知らなかったから、子供の間で流通している話なのだろう。地図で見ると住宅街の比較的まっすぐな道だ。 #ありもしないはなし
2019-01-13 11:23:15実際に行ってみると、確かに道はまっすぐなのだが微妙な凹凸の上に道が走っていて、電柱もそれに合わせて右に傾いたり左に傾いたりしていた。この電柱は竜の背に打っているそうだ。本当かどうかは知らない。
2019-01-13 11:23:16近くに公園には昔あった回転遊具が撤去されたのか、コンクリートを円く打ってあるところに何人か子供がたむろしていた。子供が帰った後に覗くと、コンクリートの上に白墨で何か書きこんだ跡が残っていた。散歩するにはいい道なので、しばらく通おうと思う。
2019-01-13 11:23:16夜の光る目
夜道を歩いていて、光る一つ目なのは二輪車、二つ目なのは自動車だから、向こうから来るのは二輪車だなと思った。一つ目で光ってふらふらしている。光の強さも定まらない。多分自転車だろうとはじめ思った。 #ありもしないはなし
2019-01-14 17:44:30それが段々近づくにつれて、自転車ではなく自動二輪だなと思った。自転車にしては光りが強かったからだ。それにしても明かりが黄色い。なんだろうなと思って目を細めて見ると自転車でも自動二輪でもなかった。車はなくて、光自体が猛烈な勢いでぐるぐる回っている。
2019-01-14 17:44:30中で生首のようなものも転がっていたが、それが主体と言うよりも巻き込まれたようだった。目を開いて凄い顔のままぐるぐる流されるままに回っているのがとりあえずこっちに来るので、知らない家のガレージに隠れて通り過ぎるのを待った。
2019-01-14 17:50:40庭先の物音を聞いて出て来た家の人に事情を話すとハネヤを呼ぶから乗って行けという。ハネヤとはタクシーのことだ。そんな悪いからと辞去すると、どうせ呼ばなきゃならないのだし、うちには車に乗る用は無いのだからと言われたので、ありがたく徒歩10分ほどの所をタクシーに乗って帰った。
2019-01-14 17:54:17雪焙烙
雪焙烙をするから来いといわれた。鍋でもするのかなと思ったが違った。元八幡近くの野原に雪合羽を着込んだ親爺どもが並んでいる。なにもない野原だから、膝の上まで雪に埋まっている。 #ありもしないはなし
2019-01-16 22:21:53持てといわれて渡されたのは確かに焙烙だったが、火薬が詰まっているから気を付けるんだぞと言われた。それを一人で三つほど持つ。指示役の合図で一斉に投げるのだといわれて、とりあえず雪を踏み分けて持ち場についた。雪合羽はぐにゃぐにゃと並んでいた。
2019-01-16 22:21:53櫓の上から指示役の喇叭の音が聞こえたので焙烙を投げた。あちらこちらで曇った音を立てて雪がはぜる。なにも投げずに立っている合羽がいるからおやとおもったが、どこかでいたぞという声が上がるとその合羽が動いた。猟友会らしい。
2019-01-16 22:21:54誰かが撃てといった。焙烙よりも雪煙が軽くて鋭い。弾の流れる先を追っていると、雪の中から頭部のない、胴に顔がある、足が一つしかない、赤い、茶色い、むき出しの歯が黄色い何かが飛び出して、誰かがそれに向かって焙烙を投げたので、ぼんと雪煙が立った。焙烙と銃弾が殺到する。
2019-01-16 22:30:49あれは野人だろうかと後で知り合いに聞いたが、野人とは違うだろうといわれた。雪の多い年の冬に出るものだそうだ。人のいるところまで来ると疾病が流行るという。大方元八幡の社殿を住処にしているのだろうとその人は言った。
2019-01-16 22:30:49獅子舞飛行
獅子舞が人を食って、首だけ咥えて飛んでいったという話を駅で聞いた。たまに聞く話だ。そうすると駅には首なしの死体だけ残されていることになる。 #ありもしないはなし
2019-01-18 20:56:39