しあわせなやまと

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次の大和の話です。 落ちぬいというか唐突に思いついた雑文より派生し一本お話を作ってくださったことに感謝しつつ、それでは皆様お楽しみを。 ご感想などは、竹村京さんor#落ちぬいタグへ。 続きを読む
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はじめに

竹村京 @kyou_takemura

#落ちぬい二次 、はじまります。本作は #不知火に落ち度はない 及び #しあわせなやまと の二次創作であり、オフィシャルではありません。意見、指摘などは #落ちぬい タグへお願いします。

2019-03-25 22:06:30

本編

竹村京 @kyou_takemura

妻を愛さない男がいる。 憎いわけではない。 艦娘としてはこれ以上なく頼りになる戦力であるし、人としてもおよそ文句の付け所の無い立派な女性だ。 ただ、妻としては、どうしても愛する事が出来ない。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:08:33
竹村京 @kyou_takemura

彼の妻である艦娘、大和は日本海軍艦娘部隊の象徴だ。艦娘部隊の重要性から言えば日本軍の象徴とさえ言える。 故に大和は完全無欠にして百戦無敗でなければならない。 艦娘として敗北が許されないだけでなく、容姿から家柄、私生活に至るまで、一点の曇りもあってはならない。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:10:25
竹村京 @kyou_takemura

大和の艦娘として選出された女性は、旧華族の娘だった。 家柄は申し分なく、名門校を優秀な成績で卒業し、薙刀、居合道、合気道、華道、茶道、和歌などを修めた、まさに文武両道の女性である。足りないのは、それに見合う夫だけであった。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:12:30
竹村京 @kyou_takemura

無論、そんな立派な男がそうそう見付かるわけはない。艦娘の夫であるからには、最低限でも佐官以上の軍人でなければならない。尚且つ家柄と学歴その他が全て優秀な……となれば、もはや旧帝国時代の宮家くらいしか有り得ないだろう。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:15:00
竹村京 @kyou_takemura

そこで海軍は妥協に妥協を重ね、家柄については旧士族の分家まで要求条件を下げて、ようやく彼を見付けた。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:17:02
竹村京 @kyou_takemura

防大を首席で卒業し、艦艇乗りとして勤務していたのが、この男だ。当時砲雷長だった彼はまず隊司令に、次いで群司令に、終いには地方総監に呼び出されて、とある重要な女性との見合いを命じられた。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:18:17
竹村京 @kyou_takemura

見合いの後、新任の砲雷長だった彼は大尉から少佐に昇任の上で船務長を追い越して副長兼務となり、半年後には中佐に昇任して護衛艦の艦長に抜擢された。異例中の異例の大出世である。大和に釣り合う夫に相応しい肩書を与えるための措置である事は明らかだった。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:19:53
竹村京 @kyou_takemura

彼には心に決めた女性がいた。見合いの時に大和も積極的に話をしなかったので、家格も経歴も落ちる自分との縁談など立ち消えになるだろうと楽観視していたのだが、副長兼務を下命された時にそう甘くは無かったと思い知らされた。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:21:24
竹村京 @kyou_takemura

退役して逃げてしまえば良いか。縁談を断ればどうか。考えるまでもない。社会的地位が違いすぎる。彼は大和の夫というドレスに仕立てられる布のようなもの。断る自由など、そもそも存在しなかった。 彼は全てを諦め、交際していた女性に理由を秘して別れを告げ、大和の夫になった。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:23:54
竹村京 @kyou_takemura

普通であれば三回ほど名誉の戦死を遂げなければならない異例中の異例で少将に昇進した彼は、大和を旗艦とする最精鋭部隊を率いている。いや、飾られていると言った方が正しいか。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:26:17
竹村京 @kyou_takemura

百戦無敗を求められる大和が参加する作戦は万全のお膳立てが整えられ、筋書き通りに動けば必ず勝てる。誰が指揮を執ろうと同じ事だった。 愛する女性を捨てさせられ、軍人として研鑽した能力を発揮する事も出来ない。彼に出来るのは、ただ忍耐のみであった。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:29:44
竹村京 @kyou_takemura

愛していない女性との結婚生活を耐え。 お飾りとしての軍務を耐え。 不毛な会議ばかりに引き出される日々に耐え。 それでも、彼はそれが軍人としての務めと信じて耐え続けていた。 その彼の耳に、こんな噂が届いた。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:32:03
竹村京 @kyou_takemura

「司令官はあんなに良い奥様を貰っているのに浮ついた話の一つも聞かない」 そんな事を基地で働く部下が言っていたらしい。 又聞きではあるし、どうやら大和という妻を娶りながらもそれに溺れない司令官は禁欲的で立派だ、というニュアンスらしい。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:33:02
竹村京 @kyou_takemura

しかし、看過出来る事ではない。今は称賛であったとしても、やがて夫婦としての営みはしているのかという疑念になり、いずれは仮面夫婦ではないかといったセンセーショナルな噂になっていくだろう。 悪い噂の芽は早い内に摘むに限る。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:35:28
竹村京 @kyou_takemura

その日の夜、彼は珍しく大和に声をかけた。 「大和。次の日曜にでも出かけましょう。何か希望はありますか」 寝室は一つだがベッドは二つ。二つのベッドの間には決して破られない見えない壁がある。その壁越しに、彼は大和に訊ねた。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:36:51
竹村京 @kyou_takemura

大和の表情が、ぱっと華やぐ。 ――ああ、何故その笑顔を私に向ける。 「それは、その、もしかして――」 「ええ。デートをしましょう。夫婦、なのですから」#落ちぬい二次

2019-03-25 22:41:19
竹村京 @kyou_takemura

まるで小娘の様に舞い上がって言葉を途切れさせる大和に代わり、彼女が望んでいるであろう言葉を接いでやる。あくまで夫婦としての体面を保つためであると言外に含ませながら。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:43:28
竹村京 @kyou_takemura

「それでしたら、ご一緒したい所がたくさんありすぎるので、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」 「構いません。明日の夕方までに希望を出して貰えると助かります」#落ちぬい二次

2019-03-25 22:44:44
竹村京 @kyou_takemura

期限通り、翌日の課業終了の直後に大和が告げた希望は銀座でのデートだった。詳細を訊ねてみると、細かな予定を立てずに街歩きをしたいとの事だった。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:45:58
竹村京 @kyou_takemura

遊園地に行きたいなどと言われたらどうしようかと危惧していたし、逆に高尚な美術館を希望されたらその道には疎いので間が持たなかっただろう。多少意外ではあったが、銀座の街歩きであれば何とかなるだろうと思い了承した。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:47:04
竹村京 @kyou_takemura

基地内には次の休日は提督と大和が揃って官舎から外出する旨を業務連絡として流しておく。表向きは緊急時の連絡体制の為だが、どれほど鈍感な人間でも重要人物である提督と大和が揃って外出すると聞けばそういう事だと理解するだろう。理解して貰わなければ困る。#落ちぬい二次

2019-03-25 22:49:56
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