ア・デッカーガン・イズ・マイ・パスポート #9

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」SMASH!鮮やかなミドルキックが鉄フスマをくの字に吹き飛ばした。ガーランドは焼け焦げた室内に用心深くエントリーした。バラバラに吹き飛ばされた鏡台UNIXデッキの残骸に彼は眉根を寄せる。「……」先程殺したアゾット以外のニンジャソウル由来粒子の存在は感じない。 1

2019-04-10 21:58:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして一人、残骸にしなだれかかるようにして動かない人体をガーランドは発見した。熱と破壊でひどく傷ついた、黒焦げの死体。しかし首回りから上とその下で損傷の状態が異なる。彼は死体に屈み込んだ。「チ……」舌打ちを一つ。死体は女、生体LAN端子、そして……鎖骨の下はオイランドロイドだ。 2

2019-04-10 22:01:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

外傷らしい外傷はない。UNIXを自爆させて電子的にセプクしたか。彼は首元を指で探り、メンテナンスチップを引き抜いた。これで事足りるかはわからぬ。頭部は人体。脳は沸騰し、もはやトーフだ。……鏡台UNIXはどうか。彼はデッキをあらため、かろうじて機能するスロットからフロッピーを抜いた。 3

2019-04-10 22:05:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ア・デッカーガン・イズ・マイ・パスポート】#9

2019-04-10 22:05:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ボォン……。ボォン……。両耳から音の波が入ってきて、頭を揺らし、散ってゆく。奇妙で苦しい感覚だった。ムギコは目を開いた。反射的に耳に手をやると、血だ。タバタが彼女を助け起こす。「無事でよかった」タバタの声が妙な聞こえ方をした。「無事でもないか。耳、やられているみたいだ」 4

2019-04-10 22:11:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア……」「自然に治るまで、ちょっと療養が要ります。数週間かな。割れた事ないんで、わからないけどね」タバタはムギコに肩をかした。ムギコは感謝し、立ち上がった。「どんな無茶を?」「色々と」ムギコは呟いた。「それより……アゾットは」「もぬけの殻。戦闘の痕があります。爆発四散痕も」 5

2019-04-10 22:15:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャスレイヤー……」「え?」「違う」ムギコは自ら否定した。痛むこめかみを押さえる。記憶のフラッシュバック。床で苦しむムギコの耳に、(サヨナラ!)の叫び、爆発四散音。そのあと廊下に進み出て来たのはアゾットではなく、あの油断ならぬニンジャは……「ノボセ長官は?」「無事ですよ」6

2019-04-10 22:20:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タバタが答えた。「シンゴ=サンがこの後送り届けます。ヘリでソウカイ・ディストリクトに」「ヘリで」「自分が行かないと決着できない、という話で。流石、かくしゃくとしてますよね、ノボセ長官。アイキドーも」ムギコの緊張がゆるみ、力が抜けた。「……よかった……」 7

2019-04-10 22:22:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

見計らったように、彼女の通信端末が反応した。ノボセ長官である!ムギコは応答した。「……モシモシ」『……モシモシ、ノボセ=サン。ワシだ』「申し訳ありません」通信端末ごしにムギコは頭をさげた。よろめいたので、タバタが心配そうにした。ムギコは言った。「デッドエンド=サン達を、どうか」8

2019-04-10 22:26:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『自分の心配をせよ。今後キモンがトコシマ・シェリフと連携を取り、その工場に調査をかける。今日のところはタバタ=サンに任せ、まず自宅待機だ』「どうかデッドエンド=サンを。戦争が……」『言った筈だぞ。キモンを信じろと』「……え……」『奴と連絡を取った。デッドエンド=サンとな』 9

2019-04-10 22:30:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……そのとき、ソウカイ・ディストリクトのチバ邸前では、デッドエンドが端末を懐に戻し、目の前のチバを睨んで、「長官は解放されたそうだ」と伝えた。チバは厳しい無表情を保ったまま、微かに頷く。そして面白くも無さそうに言った。「無事で何よりだな」「キモンに死者は無かった」「フン」 10

2019-04-10 22:33:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア?」クラックタンクが訝し気にした。彼はデッドエンドとチバの間に何らかの秘密的テウチのアトモスフィアを感じ取った。しかしデッドエンドは彼を睨み、それ以上の詮索を許しはしなかった。彼女は部下を見渡す。「と、いう事だ。トコシマ区で長官は無事だ。ソウカイヤを騙ったクソは死んだ」 11

2019-04-10 22:36:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それ、確かめたんか」「そうだ」「ッて事はムギコの嬢ちゃんが……」「そういう事だな」「いや、だめだ」タイトロープが口を挟んだ。「この目でオヤジ見るまでは、テコでも動かない」肩が震える。「……オヤジ」「そりゃ当然だ。まだ動けるか。ソウカイ・ディストリクト観光は終わってない」 12

2019-04-10 22:40:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デッドエンドは頷き、腕を組んだままチバを睨み据える。「長官がここに直接来るまでは、そう簡単には動けない。わかるよな」「好きにしろ。中に入らんのだな?」「ああ入らない」「ネヴァーモア。相手をしておけ」「ハイ……ヨロコンデー」ネヴァーモアは直立。チバは戻ってゆく。「俺は忙しい」 13

2019-04-10 22:42:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

火花散るほどの眼力で、デッドエンドとネヴァーモアは睨みあう。「エーッ?何スかァ?ボコボコやり合わねえの?」ゲッコーが不満げに舌を垂らした。クラックタンクがその頭を殴りつけた。「痛ェ!」「やり合わねえよ。デッドエンド=サンがチバの野郎と何かしらテウチ決めてやがったんだ」「エー?」14

2019-04-10 22:44:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゲッコーはデッドエンドを見た。ネヴァーモアを睨んだままだ。「何だよ?じゃあ俺ら来る必要あったンすか?盾重いし……痛ェ!」「あるンだよバカが!長官の身に何かあったりすりゃあ、即俺らで戦争だよ!コイツら相手に!」「スッゾ……」ネヴァーモアがクラックタンクを睨みつける! 15

2019-04-10 22:48:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

然り……デッドエンドはノボセ長官拉致という重い事実を抱え、ラオモト・チバと緊急IRCホットライン会談を行っていた。そこでチバは「クロスカタナが使われた事に関してはソウカイヤの恥」と先に認め、それによってキモンの一方的な追及と攻撃を牽制した。そしてガーランドを派遣したのである。 16

2019-04-10 22:50:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

大部隊でチバ邸前に乗り込んだのは当然必要な圧力だ。ノボセ長官の身になにかあれば、このまま全面戦争をも辞さない構えであった。デッドエンドとしても、そこまでの動きをとらねば部下のキモン・デッカー達を抑える事はできない。そして、今回の事件で両者の力関係が揺れてもいけないのだ。 17

2019-04-10 22:54:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何スかァ。そッスかァ」ゲッコーは頭を掻き、物騒な目でデッドエンドとネヴァーモアを見比べた。「そういうもんスかァ……しょうがねえな……」「それよりアレだ。ムギコお嬢ちゃんが手柄なのか、エエ?」クラックタンクがデッドエンドに尋ねた。「そうだ」とデッドエンド。クラックタンクは笑う。18

2019-04-10 22:56:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「非ニンジャのクセに頑張りやがったな!さすがはお孫さんッてか。カカカ!」「アー!うるせェんだよ!」デッドエンドが黙らせた。「長官がここに来るまで、このまま待機!」「そうだ……この目で……俺の目で本物を確かめるまでダメだ」タイトロープが頑固に呟いた。 19

2019-04-10 22:58:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キュンキュンキュンキュン……キュルルルル……。シンゴ達の眼前で接地したのは、トコシマ・シェリフ所有のヘリである。「オツカレサマデス」操縦席のシェリフがシンゴに敬礼した。トコシマのシェリフ達はシンゴに頭があがらないのだ。そして伝説のデッカー、ノボセ。キモンであろうと彼は別格だ。 21

2019-04-10 23:02:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「一応まあ、中立タチアイニンって事で、俺も同乗しなきゃならんでしょうな」シンゴがノボセに言った。「空飛ぶ乗り物なんて本当に苦手なんですよ、俺は」「すまんが、頼まれてくれんか」「偉人に頭下げられちゃ仕方ない」「感謝する。シンゴ=サン」彼らは譲り合いながらヘリに乗り込んだ。 22

2019-04-10 23:06:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やってくれェ」シンゴが操縦者に指示する。「アレ?」「……どうした」「いえ、浮上がうまく……」「ア?」「アレ?」操縦者は浮上操作を試みるが、うまくいかないようだ。しまいにはくぐもった異音すら聴こえて来た。「アレ?ちょっと待ってくださいね?なんかおかしいんで」 23

2019-04-10 23:09:27