ア㊙️イさんのお尻と学ぶ統計学(仮置場)

統計学を使った社会科学系の論文をゆるく紹介していくのだ!統計学そのものの解説ではなく、「統計学を使ってわかったこと」のまとめなのだ。3日に一回ぐらいのペースで更新していくのだ。
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目次からリンクで飛べる各トピックはツリー形式になっているのだ。

あまりにツイート量が膨大になってしまったので、123回目以後は各ツリーの最初のツイートへリンクだけまとめておくのだ。

お尻さんは各国の歴史や制度に詳しいわけではないし統計手法も誤って理解していることがあるから(それなら黙っておけという話だけど)、間違いがあったらどんどん指摘して欲しいのだ!

目次(シーズン1)

2019.04.〜2019.11
(1)相関関係と因果関係:ニコラス・ケイジと溺死
(2)政治指南書と宗教教義:マキャヴェリズムの起源
(3)盲目な有権者:選挙とサメの関係
(4)貧困のスケープゴート:寒冷化と魔女狩り
(5)クリーンな選挙不正:地方選挙とお引越し
(6)ダイナマイトボディ:女性による自爆テロ
(7)履歴書で差をつけろ:就職市場におけるゲイ差別
(8)孤独な狂信者:ISIS参加とTwitter
(9)ハーバード大学vs中国共産党(第1ラウンド):インターネットの検閲
(10)独裁者と煙は…?:超高層ビルと政治体制
(11)ハーバード大学vs中国共産党(第2ラウンド):ステマ国家
(12)弱者の武器:内戦における子ども兵士
(13)白黒つけろ!:ティーパーティー運動とオバマ
(14)戦争予報:新聞から内戦を予測する
(15)知ってることだけ:中国のネット検閲の効果
(16)憲法長寿大国ニッポン:改憲の要因
(17)モグラ叩き:メキシコの麻薬戦争
(18)獅子身中の虫:北朝鮮のサバイバル
(19)あの日あの時あの場所で:文化大革命の長期的影響
(20)虐殺の文法:ルワンダ大虐殺とラジオ
(21)日本のポピュリズム?:小池百合子とポピュリスト
(22)身の程を知る:所得レベルと累進課税
(23)宗教改革の起源:プロテスタンティズムの拡大と活版印刷術
(24)宗教改革と経済成長:マックス・ヴェーバー再考
(25)カリスマ演説家?:ヒトラーの選挙活動の効果
(26)諸刃の剣:ラジオ放送とナチス
(27)隷属への道:アウトバーン建設とナチス
(28)無関係な死:ナチス政権下の死刑と人民法廷
(29) “豊かな繋がり”?:社会関係資本とナチス
(30)ナチスの横顔:下士官データの分析
(31)ナチス式教育:ヒトラーユーゲントと規律-訓練
(32)もてる者ともたざる者:緊縮財政とナチスの台頭
(33)不毛な犯人探し:金融危機・ナチス・ユダヤ人
(34)勝ち馬に乗る:ナチス・コネクションと株価
(35)ブラウン神父の不信:カトリック・プロテスタント・ナチス
(36)ヒトラーの恩返し:パトロネージとしての公務員職
(37)差別と経済:「アーリア化」の帰結(その1)
(38)差別と学問:「アーリア化」の帰結(その2)
(39)差別と科学:「アーリア化」の帰結(その3)
(40)ナチスと栄養:アウタルキー・価格統制・再軍備
(41)ナチスと黒死病:ユダヤ人迫害の歴史的起源
(42)マイノリティと秘密組織:ナチス占領下オランダにおけるユダヤ人救出活動
(43)ゲットーの不死鳥たち:弾圧とユダヤ人レジスタンス
(44)死の黄金郷:ホロコーストの「遺産」
(45)東部戦線異状あり:赤軍パルチザンとドイツ軍の報復
(46)電波戦争:第二次世界大戦下イタリアのパルチザンとラジオ
(47)黒い悪魔:ドイツ国防空軍の実証分析
(48)従順な鷲:プロパガンダと戦闘モチベーション
(49)ナチスの遺産:現代ドイツの反ユダヤ主義
(50)過去と向き合う:第二次世界大戦後の非ナチ化
(51)全ての道はローマに通ず:古代ローマ帝国の国境と道路網
(52)拡散するアイデア:出版市場・経済成長・宗教改革
(53)競争する教会:宗教改革と世俗化
(54)宗教改革のダークサイド:プロテスタントとユダヤ人の迫害
(55)東ベルリン暴動:ラジオの大衆動員効果はあったのか?
(56)アメとムチ:東ベルリン暴動のその後
(57)密告の報酬:シュタージ協力者の実証分析
(58)技を盗め:産業スパイと技術のキャッチアップ
(59)監視国家の負の遺産:シュタージと他者への信頼
(60)ベルリンの壁: 国外脱出のメカニズム
(61)東ドイツの崩壊(1):テレビと抗議運動
(62)東ドイツの崩壊(2):国外脱出者と抗議運動
(63)東ドイツの崩壊(3):西ドイツのテレビと体制の安定性
(64)東ドイツの崩壊(4):東西ドイツ再統一の経済効果
(65)マフィアと天然資源:シチリア島の硫黄産業
(66)マフィアとレモン:シチリア島の柑橘類産業
(67)マフィアと社会主義:シチリア・ファッシ
(68)脅しのテクニック:地方選挙と政治家への攻撃
(69)選挙とマフィア:国政選挙への暴力的介入
(70)マフィアによる選挙動員:キリスト教民主党とシチリアマフィア
(71)フォルツァ・イタリアとシチリアマフィア:ベルルスコーニの疑惑の検証
(72)政治家の頭脳流出:地方議員殺害の効果
(73)金の行方:マフィアと補助金の分配
(74)マフィアの文化:経済学実験と他者への信頼
(75)ファミリーの掟: “囚人”のジレンマ
(76)マフィアの教育リターン:賢いマフィアは稼ぐマフィアか?
(77)マフィアのマネジメント:ネットワーク分析から見る組織構造
(78)エリート・マフィア: 昇進の実証分析
(79)公共支出とマフィアの進出:1997年イタリア中部地震の影響
(80)ボスの中のボス:マフィアの組織論
(81)仁義なき戦い:政治的コネクションを巡るマフィアの抗争
(82)投資家としてのマフィア:リーマンショックと起業と火山
(83)マフィアの経済的コスト:合成コントロール法による検証
(84)マフィア対策(1):マフィアの “流刑”
(85)マフィア対策(2):補助金のスクリーニングとソーティング
(86)おさかな天国:海賊と漁業の関係
(87)商業漁業と海賊:違法漁獲の推計値に基づく実証分析
(88)若者と海賊:若年人口圧力と失業問題
(89)国家権力と海賊:海賊たちの「聖域」
(90)選挙と海賊:海賊の駆け込み需要
(91) 貿易と海賊:海賊の間接的な経済コスト
(92)海賊の “呪い” :身代金とソマリア経済
(93)海賊化するテロリスト:テロ組織の海上進出
(94)内戦と海賊(1):海賊ビジネスと紛争の激化
(95)内戦と海賊(2): “強欲” な海賊と紛争の長期化
(96)過去に学ぶ海賊たち:海賊対策の効果
(97) 女王陛下の “海賊” たち:第二次百年戦争におけるイギリスの私掠船
(98)バルバリア海賊:身代金から考えるオスマン帝国の衰退
(99)嘉靖の大倭寇:海禁政策と海賊
(100)奴隷の “供給”と天気:歴史的気象情報を用いた実証分析
(101)コロンブスのトウモロコシ:農業生産性と奴隷貿易
(102)銃と奴隷のサイクル:大西洋奴隷貿易の時系列分析
(103)英国王立アフリカ会社:アフリカの王様達と通行料ビジネス
(104)マラリア特需:北米大陸における黒人奴隷の需給メカニズム
(105)怒涛の再分析&再分析:奴隷船の過積載と死亡率の関係
(106)タダ乗りと奴隷:船上での奴隷の反乱
(107)奴隷貿易法の帰結:奴隷貿易の廃止と紛争
(108)戦う理由:南北戦争における奴隷所有と従軍
(109)遺制としての奴隷制:現代アメリカにおける人種意識
(110)奴隷と不平等:現代アメリカにおける経済格差と教育格差
(111)奴隷貿易と貧困:奴隷の歴史とアフリカ諸国における経済成長
(112)不信社会:奴隷貿易と他者への信頼
(113) 奴隷・内戦・資源:奴隷貿易が現代の紛争にもたらす長期的影響
(114)奴隷とエイズ:婚姻制度から考える奴隷貿易の長期的影響
(115)歴史的トラウマと魔術:奴隷貿易が現代の魔術信仰に与える影響
(116)ドローン攻撃とテロリズム:その1
(117)ドローン攻撃とテロリズム:その2
(118)ドローン攻撃とテロリズム:その3
(119)ドローン攻撃とテロリズム:その4
(120)ドローン攻撃とテロリズム:その5
(121)拡散する無人攻撃機:政治体制と国家の威信
(122)賛否両論のドローン攻撃:サーベイ実験による検証

目次(シーズン2)

2021.10〜
(123)邪魔者は消せ!:民主主義体制下でのジャーナリストの殺害
(124)ドゥ・ザ・ライト・シング:気温とマイノリティの差別
(125)サイバー戦争勃発?:サイバー攻撃とクリミア危機
(126)503 error: 権威主義体制下の選挙とDDoS攻撃
(127)ホワイト企業IRA:ロシアによるトローリング
(128)マルクスvsマルクス:ロシア革命とマルクスの知名度
(129)”モー”効果: モハメド・サラーとヘイトクライム
(130)病める時も健やかなる時も:エクソガミーと民族紛争
(131)ボウリング・フォー・コロンバイン:スクールシューティングとアメリカ大統領選挙
(132)万引きも犯罪です!:イタリアにおける汚職事件と万引きの関係 ←NEW! (2022/01/27更新)

相関関係と因果関係:ニコラス・ケイジと溺死

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

アライさんは統計学を使って遊ぶのが専門なのだ。学生に統計学を教えるときにまず言うのが、相関関係と因果関係を混同してはいけない、ということなのだ。 例えばアメリカでのプールの溺死事故件数と、ニコラス・ケイジ出演映画の公開数はむちゃくちゃ相関しているのだ。 でもそこに因果関係はないのだ pic.twitter.com/PuvBsxoBxE

2019-04-16 01:19:24
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

特に時系列データはこういう関係をみつけるのが簡単なのだ。データはデータでしかなくそこに因果関係があるかは理論的な説明が必ず必要なのだ しっかり因果関係を推定するのは大前提なのだ。でもそれができる場面は非常に限られているのだ。だからアライさんは「統計学は最強の学問」とは思わないのだ

2019-04-16 01:28:14
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

補足をしておくのだ。より正確には「因果関係があるかはわからない」なのだ。 統計学では積極的に何かを立証することは出来ないのだ。「関係がない(偶然である)」という仮説を棄却し「関係が無いとは言えない」というところまでしかわからないのだ。ややこしいのだ…

2019-04-16 13:25:59

政治指南書と宗教教義:マキャヴェリズムの起源

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

キリスト教圏とイスラム教圏は中世から前近代あたりにかけて政治制度が乖離していくんだけど、政治思想においてもそれは顕著らしいのだ。王様が読むような「統治の指南書」の中で、キリスト教圏でのみ宗教教義がだんだんと重要じゃなくなっていくのがテキスト解析で統計的に明らかになっているのだ。 pic.twitter.com/U2QlxnqnjN

2019-04-20 04:48:31
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

面白いのは、マキャベリの『君主論』(1532)は「政教分離」の嚆矢と思われていたけど、実はそれ以前から統治における宗教教義の重要性は1000年ぐらいかけて徐々に低下していたことなのだ。マキャベリズムは急に現れた訳ではなく、数百年に及ぶ蓄積の結果だというのが定量的に明らかになっているのだ。 pic.twitter.com/K2zfQTV1Vx

2019-04-20 04:58:49
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

論文はここから読めるのだ。 blaydes.people.stanford.edu/sites/g/files/… このスタンフォードのチーム、天才なのだ…何なのだ一体…

2019-04-20 05:00:52

盲目な有権者:選挙とサメの関係

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

有権者の投票行動には色んな要因が影響するのだ。「サメに人が喰われると現職の得票が減る」ことを明らかにした研究なんかもあるのだ。政治家がコントロール出来ないことも、有権者はとりあえず政治家のせいにするのだ。アライさんはそれでもいいと思うのだ。それが人間なのだ。 (続く)

2019-04-20 15:03:02
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1916年7月の「ニュージャージーサメ襲撃事件」では、観光地だったビーチ周辺で3人がサメに襲われて死傷したのだ。観光客は当然ビーチを離れたのだ。観光業で成り立っていた沿岸部は甚大な経済的損失を被ったのだ。シーズン真っ盛りなのに、ホテルの空室率は75%にも達していたらしいのだ。 (続く) pic.twitter.com/9n4whUm83b

2019-04-20 15:05:15
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ニュージャージーは当時の大統領ウッドロー・ウィルソンのお膝元で、しかも11月に再選選挙が迫っていたのだ でもサメ被害に対して政府が出来ることはほとんどないのだ。更に、現代なら失業保険の給付など社会保障の拡充が出来るけど、当時はそんな制度なんか無いのだ。完全にお手上げなのだ。 (続く) pic.twitter.com/7E57Asl0VO

2019-04-20 15:07:20
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

11月のウィルソン再選選挙では、サメ被害があった沿岸部では前回選挙より10%以上ウィルソンへの得票が減ったのだ。サメ被害は一種の自然災害だけど、当時の政府は事前にも事後にも出来ることは何もないのだ。有権者はとりあえずウィルソンのせいにしたのだ。たまったもんじゃないのだ! (続く) pic.twitter.com/Ih533Cbe57

2019-04-20 15:09:34
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

サメ襲撃事件は偶然起こったことなのだ。でもそんな偶然によっても選挙の結果は左右されかねないのだ。 現職に投票するか否かは、その政治家が任期中に何をしたのか/しなかったのかを考慮すべきなのだ。正当な業績の評価が求められるのだ。でもそんなこと、アライさんには難しいのだ。 おわりなのだ!

2019-04-20 15:17:11
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

(補足1) この話はAchen, C. H., & Bartels, L. M. (2016). Democracy for realists: Why elections do not produce responsive government. Princeton University Press. の第5章からの引用なのだ。 『リアリストの為の民主主義:なぜ選挙は責任ある政府を生まないのか』って凄いタイトルなのだ…。 pic.twitter.com/nrmL8JLbIq

2019-04-20 15:23:42
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

(補足2) 再分析の結果、実はそこまでサメ被害の影響は無かったという反論論文も出ているのだ。 Fowler, A., & Hall, A. B. (2018). Do shark attacks influence presidential elections? Reassessing a prominent finding on voter competence. The Journal of Politics, 80(4), 1423-1437.

2019-04-20 15:27:32

貧困のスケープゴート:寒冷化と魔女狩り

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ヨーロッパの歴史を語る上で避けては通れないのが「魔女狩り」なのだ。なぜそんなことが行われたのか、原因は色々あるけど、マクロ的要因として「気候」が挙げられているのだ。気温が低い年は農作物の収穫量が減り、食料不足に陥るのだ。人びとはそれを「魔女」のせいにしたのだ。 (続く) pic.twitter.com/ENAmtB50P8

2019-04-20 23:55:47
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1520-1770年のヨーロッパ諸国を対象とした統計分析の結果、1年の平均気温が低下するほど、その年の「魔女裁判」の件数が増えていたことが明らかになっているのだ。 社会的弱者は常に貧しさのスケープゴートにされてきたのだ。遣る瀬無いのだ… pic.twitter.com/9JwdsPHbVd

2019-04-20 23:58:56
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

論文はここから読めるのだ。この著者はバリバリの女性の計量経済学者なのだ。統計学を使って女性差別に切り込む姿は超カッコいいのだ! pubs.aeaweb.org/doi/pdf/10.125…

2019-04-21 00:02:12

クリーンな選挙不正:地方選挙とお引越し

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

地方選挙が近づくとお引越しが増えると言われているのだ。もちろんちゃんとしたお引越しじゃないのだ。住民票だけ移すから居住実態はないのだ。例えば一軒家に数十人以上が住んでることになってたりするのだ。理由はもちろん、投票する為なのだ。選挙が終わればまたお引越しするのだ。 (続くのだ) pic.twitter.com/Lfb6LnH0Qg

2019-04-21 15:24:17
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

日本の地方選挙は下位の行政単位のほうが競争性が高いのだ。例えば岩手県種市町の2003年町議会選挙では、当落ラインがたったの13票差しかなかったのだ。つまり、僅かな票を得られれば勝てる町村議会選挙では、候補者が有権者を他から「お引越し」させて票を買うインセンティブが強いのだ。 (続くのだ) pic.twitter.com/EdbR6xyguX

2019-04-21 15:25:38
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