ア㊙️イさんのお尻と学ぶ統計学(仮置場)

統計学を使った社会科学系の論文をゆるく紹介していくのだ!統計学そのものの解説ではなく、「統計学を使ってわかったこと」のまとめなのだ。3日に一回ぐらいのペースで更新していくのだ。
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

論文はここから読めるのだ。 sticerd.lse.ac.uk/seminarpapers/… この研究はAmerican Economic Reviewって言う経済学の世界ではトップの学術誌に掲載されたのだ。実験は匿名で行われたから学生の身の危険は無いんだけど…この話はオチがもう一つあるのだ。 (9/10)

2019-05-02 08:27:46
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

実はこのガチ中のガチな論文、スタンフォード大学と北京大学の研究者の共同研究なのだ。もちろん中国の科研費も使われているのだ。それだけ中国政府は検閲の効果をしっかり検証したかったんだと思うのだ…。良い結果が出て政府は満足満足、中国の検閲は終わらないのだ!! (10/10)

2019-05-02 08:30:19
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

(補足) 補足というかこぼれ話なんだけど、Great Fire Wall(中国政府によるアク禁の通称)をツールで回避して海外サイトにアクセスした学生のうち、7割以上が少なくとも1回は海外エロサイトにアクセスしていたのだ。エロは万国共通で人間を能動的にするのだ!!

2019-05-02 09:10:15

憲法長寿大国ニッポン:改憲の要因

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

国家の根幹を成すのが憲法だけど、その内容は国によって様々なのだ。でも憲法は中身だけじゃなくて、「寿命」にも大きな違いがあるのだ。 一体どんな憲法が長生きし、あるいは早死にするのか?その要因に500以上の憲法を統計分析して迫った研究があるのだ。 (1/7) pic.twitter.com/CrWVA3VCT8

2019-05-03 07:21:57
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

まず、憲法の変え方は2種類あるのだ。第一に、憲法そのものは残し、一部に「修正」を加える方法(アメリカがわかりやすい例なのだ)。第二に、現行憲法を廃止し、「改憲」を行う(新たに憲法を起草する)という方法(例えば大日本帝国憲法から日本国憲法への改憲)があるのだ。 (2/7)

2019-05-03 07:22:54
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究で鍵となるのは「人権に関する規定」と「統治に関する規定」なのだ。人権に関する規定は、基本的に国家が市民に対して負う義務を意味していて、統治に関する規定は立法・司法・行政と言った制度的な部分の事を指すのだ。これら2つの規定の「範囲」が憲法の寿命に影響を与えるのだ。 (3/7)

2019-05-03 07:24:46
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

世界中の憲法を対象にした統計分析の結果、「人権に関する規定」がより広い範囲に及んでいる程、憲法は改憲されにくい(廃止されづらい)傾向にあることがわかったのだ。人権が広範囲に渡って保障されていれば市民はその憲法を守ろうとするから改憲されにくい、というのが彼らのロジックなのだ。 (4/7) pic.twitter.com/YxZ0HtDoXr

2019-05-03 07:26:26
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

その一方で、「統治に関する規定」がより広範囲に渡って決められていると、憲法は修正されやすいのだ。ガチガチに規定が定められていると、政治エリートはその時々に応じて修正を加えようとするから、という風に彼らは説明しているのだ。 (5/7) pic.twitter.com/ELhGFNZFYQ

2019-05-03 07:28:09
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

実は日本国憲法は現存の憲法で一番長生きなのだ。彼らの考察によれば、日本国憲法は他国の憲法と比較して人権に関する規定がより詳細に定められ、かつ統治に関する規定がそこまで詳細じゃないから、改憲(廃止)も修正も免れてきたのとのことなのだ。 (6/7) pic.twitter.com/oOdJe1aeuR

2019-05-03 07:29:36
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

論文はここから読めるのだ。 papers.ssrn.com/sol3/papers.cf… muse.jhu.edu/article/587686… もちろん、憲法の内容が実際にどういう効果を持つのかはまた別の実証分析が必要だけど、日本の憲法論議ではこういう実証分析の話を全然聞かないのが不思議なのだ。 (7/7)

2019-05-03 07:31:14

モグラ叩き:メキシコの麻薬戦争

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

現在まで10年以上続くメキシコの麻薬戦争は、既に15万人を超える死者を出しているのだ。もちろん政府は麻薬カルテルを取り締まる政策を実施しているのだ。 …でももしかしたらその政策は逆に死者数を増やしていたかも知れない可能性があるのだ。今回は超大長編かつかなりテクニカルなのだ! (1/16) pic.twitter.com/9SvHQ81C7n

2019-05-04 08:56:29
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

麻薬カルテルの目的はアメリカに安く麻薬を輸送することなのだ。メキシコ国内よりもアメリカで売り捌いた方が利益が出やすいから当然なのだ。だから麻薬カルテル同士はアメリカへの効率的な輸出ルートの支配権を巡ってドンパチやってると言えるのだ。事実、死者のほとんどはギャングなのだ。 (2/16) pic.twitter.com/YEXEvcMt4z

2019-05-04 08:58:03
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

メキシコの主要政党の一つ、PAN(国民行動党)のカルデロンは、大統領在任期間中(06-12年)麻薬カルテルに強硬な政策を取ったのだ。彼は地方政府にも協力を要請し、PANに所属する市長はそれに従ったのだ。つまり、PANの候補が市長選に当選すると、その州はカルテル排除(逮捕・殺害)が進んだのだ。 (3/16) pic.twitter.com/TppHjEvyNN

2019-05-04 09:00:46
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

PANの市長は麻薬カルテルの取り締まり政策を実施した訳だけど、それに効果があったか否かを検証するのは結構難しいのだ。取り締まり政策(例えば警察・軍への予算/人員の配分の大きさ)と麻薬関連事件の死者数の相関関係を単純に見ても、実はどっちも原因であり結果である可能性があるのだ。 (4/16) pic.twitter.com/P3UyzNP6JX

2019-05-04 09:02:26
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

というのも、麻薬取引関連の死亡事件が「多いから」取り締まりを「より厳しく」行うこともあるし、死者が「少ないから」取り締まりを「緩く」しか行わないこともあるのだ。逆に、取り締まりを「厳しくしたから」死者が「減る」可能性もあるのだ。 (5/16)

2019-05-04 09:03:44
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり「原因」と思われていたものが実は「結果」かもしれないという「逆因果」が理論上あり得るのだ。実際、犯罪学の研究では「警察への予算/人員配分が大きいところほど、事件の発生率が高い」という分析結果が出ることが多いのだ。メキシコの麻薬戦争でもそういう相関は既に見られていたのだ (6/16)

2019-05-04 09:05:40
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

PANは市長選挙前から麻薬カルテルの取り締まりを厳しくすることを宣言していたのだ。だから、麻薬取引関連の死亡事件が多いところほど、市民はPANの候補に投票する可能性があったのだ。単純にPANの当落(=政策の実施)と死者数の相関を見ても、政策の効果が本当にあったかはわからないのだ。 (7/16)

2019-05-04 09:07:29
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

これは統計学では「内生性の問題」というけど、対処法の1つとして「偶然起こったこと」を利用することが挙げられるのだ。例えば、もし取り締まりの厳しさが「くじ引き」で決まったとしたら、死亡事件への影響を正しく推定できるのだ。くじ引きの中身は死者数から「独立して」決まるからなのだ (8/16) pic.twitter.com/34DxDt9Ors

2019-05-04 09:09:56
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、「PANの市長が偶然当選した市」と「PANの市長が偶然落選した市」を比較し、PANの取り締まり政策が持つ効果を推定したのだ。選挙の当落がランダム(偶然)に決まるなら、もともとの死者数の多寡が選挙の結果に影響を与えることは無い(逆因果は無い)と言えるのだ。 (9/16)

2019-05-04 09:12:50
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

「当落が偶然決まる」というのはどういう状況か?それは「選挙がかなり競争的」だった時なのだ。例えば候補者が2人しかいない場合、当選者の得票率が51%なら、落選者は49%だから差は2%しかないのだ。本当に偶然ではないとしても、この僅かな差を偶然決まったものとみなしてしまうのだ。 (10/16)

2019-05-04 09:15:57
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、2007年から2010のメキシコ市長選挙のうち「僅かな得票差で結果が決まった選挙」を取り出し、PANが勝った場合と負けた場合でその後の麻薬取引関連の死亡事件数を比較したのだ。統計分析の結果、なんとPANが勝利する(=取締りが厳しくなる)と死者数は『増える』のだ。 (11/16)

2019-05-04 09:18:25
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

それは何故か?最初に言ったように、メキシコは麻薬の輸送ルートを複数のギャングが奪い合うまさに戦国時代なのだ。PANが勝利し取り締まりが厳しくされると、それまでその地域で覇権を握っていたギャングは弱体化するのだ。それは別のギャングが覇権を握るチャンスになるのだ。 (12/16)

2019-05-04 09:20:35
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

その結果、ギャング間の抗争は激化し、死者数が減るどころか逆に増えてしまうのだ。政府vsギャングvsギャングvs…という状況では、特定のグループを叩いて弱体化させても新たな暴力の呼び水にしからならないのだ。暴力を根絶することは本当に難しいのだ! しかも話はここで終わらないのだ…。 (13/16)

2019-05-04 09:25:17
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