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帽子男 @alkali_acid
魔王のメス愛人になったけど、勇者としての矜持も捨てられなくて魔王と人類の間でギリギリ苦しんだ挙句やっぱり魔王をとったメス男子奴隷の魔王×勇者が読んでみたいです。 odaibako.net/detail/request… #odaibako_alkali_acid えっちやん
帽子男 @alkali_acid
勇者。 身長一メートル九十センチぐらい。 盲目で腰まである白髪。浅黒い肌。 お約束の額飾りをつけていて、その中央には瞳のかたちをした宝珠がはまっている。これは魔具の一種であり、視力を補う。ただし見えるのは魔物だけだ。 さらに魔王を斃せる魔剣三振りのうち一振りを所有する。
帽子男 @alkali_acid
魔王 玉座に腰かけたカサカサの干物。 心臓のあたりに魔剣が突き刺さっている。 三つある眼窩はすでに空。 というか骨とあとなんかこびりついた残骸しかない。
帽子男 @alkali_acid
「死んでいる…」 魔王と相対した勇者はぽつりとつぶやいた。 そう。死んでいるのだ。 間違いない。闇に隠れた魔物を見抜く額飾りの魔力をもってしても、目の前の干物からは何も感じない。 「…死んでだいぶ経つ…」 そう。だいぶ死んで経つのだ。 たぶん五百年ぐらいは経っている。
帽子男 @alkali_acid
勇者サムエンはほっそりとした指を伸ばして、骸骨に触れる。 パキっと音を立ててどくろがへこみ、さらに微妙な均衡を欠いたせいか頚骨から転げ落ちた。 「…死んでいる…」 何度も言わなくても解っている。 間違いなく死んでいる。
帽子男 @alkali_acid
魔王討伐のため孤独な旅を続けてきた人間の代表は、手を引くと、長躯に似合わぬほっそりした顎に拳をあてた。 振り返ってみれば、魔物が地上から絶え果てて久しい。わずかに海中や天空、地下に隠れていた生き残りも、サムエンを含む人間の戦士が討伐しつくした。 世界はとうに平和になっていた。
帽子男 @alkali_acid
少なくとも魔物の禍からは。 かつて猛威を振るった魔王の居城を見出すため、先代勇者の痕跡を求めて諸国を探索するあいだも、魔獣や魔禽、魔魚、魔樹などに出くわす機会はほとんどなかった。
帽子男 @alkali_acid
いや正確には二度だけ古き人間の敵とまみえた。死火山の奥深くの洞窟に住む老いぼれの金食い蝸牛と、とうに蒼穹から墜落した浮遊島をねぐらにしていた病んだ双頭うつぼ。かつては獰猛で危険きわまる存在だったろうが、ともにすっかり弱り果てていた。
帽子男 @alkali_acid
魔物の脅威がなくなり、生命は豊かに増え、万年雪に閉ざされていた北方でも清々と水音が聞こえるようになった。南の砂漠にもかつてない雨が降り、沙の海に花畑があらわれた。 五百年。先代勇者が魔王を討ってから。 森羅万象が急激に変わりつつあった。 あまりにも急激に。
帽子男 @alkali_acid
魔物に変わる新たな災いが訪れていた。 今や季節を問わず、かつてない嵐が中原の豊かな穀倉を襲って止まなかった。 海は岸辺を這いあがり、いくつもの港が沈んだ。 かつては灼熱の支配する蜃気楼の地峡のかなたにとどまっていたはずの疫病が、もっと冷涼だった土地にも広がりつつあった。
帽子男 @alkali_acid
寒い地方は温かく、暑い地方はますます暑くなり、 虫も獣も鳥も草も木も、それぞれの住処を移しだした。 とどまろうとしても洪水と暴風が押し流してしまう。 古くからの暮らしを失った人々は親しみを込めて拝んでいた太陽を憎むようにさえなった。
帽子男 @alkali_acid
逃げ場はなかった。行商が伝えるはるか東や西、北や南のすべてで、災いは広がっていた。 王侯と民草はともに魔法に救いを求めたが、魔王の討伐と魔物の衰退とともに、魔法も弱まり、かつて賢哲が作り上げた霊験あらたかな魔具もまた効き目を失いつつあった。
帽子男 @alkali_acid
「魔王が…すべての元凶であろう」 すでに予言の力さえ持たぬ首席の魔法使いは、しかしなんとか書物と伝承から知恵を巡らせ、答えを出した。 「恐らくは…先代勇者が討ったはずの魔王が、何らかのかたちで生き延び、世界に災いをなしている…そういうことであろう」 かくてサムエンは旅に出た。
帽子男 @alkali_acid
唯一残った魔王を討てる魔剣と、まだ効き目の残っている魔具である魔眼の額飾りをつけて。 先代勇者の直系の子孫である青年は、美貌であるばかりかきだてもよく、腕も立ち、何より人間の代表として同胞を守ろうという強い意志を備えていた。
帽子男 @alkali_acid
いまだ病虫害や水害から無事な穀倉をめぐって隣国との戦が起ころうとするさなかではあったが、主君たる若き女王は、乳兄弟にして近衛でもある男の出立を許した。 「無事戻りなさい」 手ずから額飾りをはめてやりながら、そう命じて。
帽子男 @alkali_acid
魔王の居場所さえ定かではなかった。 五百年前に先代勇者が乗り込んだ魔城がいずこにあるのか、歴史はむろんちまたに広がった物語の中でさえあいまいだった。 サムエンは古老や学匠の言葉に辛抱強く耳を傾け、ぬかるむ沼地となった昔の平野や、生きたまま腐れゆく森を超え、ついに辿り着いた。
帽子男 @alkali_acid
だが魔王は死んでいた。 「…では…世界をおおう禍の原因は…」 勇者はひとりごち、やがて人間の旧敵の胸を貫く武器に、額飾りの魔眼から視線をそそぐ。 己が佩いているのとは別のもう一振りの魔剣。かつて先代が振るったという。
帽子男 @alkali_acid
サムエンはゆるやかに息をし、五百年誰も触れなかっただろう柄を握った。 答えが必要だった。すべての人間のために。 何より忠義を捧げる女王、兄妹同然に育ち、いつも朗らかな笑いを響かせていた人の声に明るさを取り戻すために。
帽子男 @alkali_acid
刃を引き抜くと、乾いた屍は完全に崩れ落ちた。 だがそれは一瞬のこと。 すぐに暗い魔力がつもった塵から沸き上がり、まるで時間を逆戻しするかのごとく邪悪の化身を顕現させた。 身長は二メートル四十センチ。お約束の角と、三つの目を持つ。 肩幅は広く、四肢は異様に長く掌や足先も大きい。
帽子男 @alkali_acid
顔立ちは均整がとれているようで、どこか何かがずれているようだった。 もっともサムエンが、額飾りを通じて見たのは魔力を帯びた巨躯の輪郭のみだが。 魔王は三つの瞳を瞬かせ、とがった耳を澄ませて周囲の状況をうかがうようだった。 「温かい…いや暑いほどですね」 ややあってそう述べる。
帽子男 @alkali_acid
だが五百年前の言葉は勇者には通じなかった。 サムエンは二振りの魔剣を構えて、敵と向き合う。 「魔王よ。世界をおおう災いの原因はお前か」 邪悪の化身は聞き入ってから、喋り方を直してゆく。 「そうとも言えます」 今度はかなり現代の言葉に近づいていた。
帽子男 @alkali_acid
盲目の戦士は刃を交差させて臨戦の構えを保ちつつ、さらに語り掛ける。 「もし、お前が災いの原因であれば、私はお前を討たねばならぬ。一振りにの魔剣で息の根が断てぬなら、二振りで」 「一振りで十分です」 ほぼ完全に話し方を整えた闇の首魁は、玉座に腰かけなおした。
帽子男 @alkali_acid
「一振りで、僕を完全に封じることができます」 「…倒すことはできぬと」 「その剣では無理でしょう。もっと破壊の魔力に秀でた別の武器を使えば、僕を跡形もなく消し去ることは可能です」 「そのような武器があると」 「あったはずです。ただ、そうしても、別の魔王が選ばれるだけですが」
帽子男 @alkali_acid
サムエンは双剣をおろした。 「お前は…伝承とは違うな…まるで…人間のようだ」 「ある意味ではそうですね。そうだったと言うべきか」 「ある意味では…?世界をおおう災いの原因についても、お前はそう言ったな」 「はい」 「何を知っているのだ」
帽子男 @alkali_acid
魔王は頬杖をついた。巨躯に似合わぬ剽軽なしぐさだった。 「僕が説明しても、あなたに理解できるかどうか。でも、思ったより賢そうな方ですね。先代の…勇者は、いささか話の通じにくい女性でしたが」 「女性(にょしょう)…?」 「あなたに少し似ていましたね」
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