エッジ・オブ・ネザーキョウ #4

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

北米大陸、カナダ西部「ネザーキョウ」首都、ホンノウジ。 1

2019-07-17 21:38:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アルベルタ、サスカチュワン、マニトバにまたがる広大なネザーキョウの中枢ホンノウジは、かつてのエドモントンを礎にしている。朱と金で塗られた異様なるホンノウジ・テンプル城を幾重にも囲む城壁は無数の五重塔によって接続され、それらの瓦屋根の上では常に超自然のネザーの炎が燃やされている。2

2019-07-17 21:43:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

空は焼き焦がされて黒く染まり、まさにそれはアケチ・ニンジャの第二の故郷たるネザーオヒガンのごとし。城壁に絡みつく歪んだモミジの木々は赤く美しい葉を揺らし、法螺貝が吹き鳴らされるたび、カイトを背負ったトルーパーが隊列を為して南の空へ飛んでゆく。……邪悪なカラテの、ジゴクであった。 3

2019-07-17 21:47:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

弱者必滅の帝国の中心であるが、地上へ近づけば、人の営みの音も聞こえてくる。あれなるオコトの調べは、ホンノウジ・テンプル城の離れのオオクの塔から聴こえてくる儚いサウンドである。誰に知られるともなく飛翔する一羽の鳥は、まるでその調べを辿るように、空を滑り降りていった。 4

2019-07-17 21:51:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

テン、テン、テテン、テン……。テン。第六寵姫ムラサキは羽ばたきの音に演奏の指を止め、表情をかすかに輝かせて、窓を見た。「……あら」「オハヨ」ムラサキは窓に腰掛けたフィルギアに微笑んだ。「訪れる時は急なのだから……」「それは仕方ない。アンタの旦那はおっかない……わかるでしょ」 5

2019-07-17 21:56:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「意地悪」「何が?」フィルギアは氷のような目を細めて笑った。ムラサキは着物をはだけ、上気した肩をあらわにする。「わかっているくせに……!」そして貪るようにフィルギアに抱きついた。「ヒヒヒ、待ちなって……逃げやしない」「だめ、逃げるもの」「よせって……タタミだぜ」「だめ!」 6

2019-07-17 22:00:12
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訪れた時と同じように、フィルギアは窓に腰を下ろしていた。彼は微風を愉しみながら、キセルの煙を吸っていた。ムラサキは長い髪に櫛を入れていた。「私のもとには色々な噂が入ってくるの」「だろうね」「貴方の為よ」「だろうね」「貴方の役に立ちたい。私を愛してくれなくてもいい」「そうなの?」 8

2019-07-17 22:09:05
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「そうよ」ムラサキはつまらなそうに言った。フィルギアは煙を吐いた。「オオクで六番目に偉いアンタが、自暴自棄じゃないか」「自暴自棄でいいの。タイクーンに尽くしても、愛などいただけないのだから」「そりゃあんまりだ」「あの方は今はミズマルに首ったけ。私の事など、もう……」 9

2019-07-17 22:13:55
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櫛を持つムラサキの手が震えた。「そればかりか、あのティアマトが、美しいからといって……!」「ティアマト?ティアマトだって?」「知っているの?」「ああ、名前はね、聞いたことがある」「ネザーキョウを訪れたニンジャ……なにか得体の知れない報せを携え、そして、美しい……!」 10

2019-07-17 22:19:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ティアマト……参ったな」フィルギアは髪をかきあげた。「どういう事だ……」「私にはわかる。タイクーンはきっと熱を上げる。ミズマルはどうなるかしら。だとしたらあの娘もかわいそうに。私……」「なんだかな」「え?」「アンタ、タイクーンに首ったけじゃないか」フィルギアは邪険に言った。 11

2019-07-17 22:21:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「違うの。私、違うの」「違わないよ」フィルギアの頬に触れようとするムラサキの手首を掴み、遠ざける。ムラサキは泣いた。「私、貴方に嫌われたら……」「嫌いやしないよ、妬いただけさ。俺だって喜怒哀楽があるんだ……それだけだよ、ヒヒ……」「なんでも話すから……」「たとえば?」 12

2019-07-17 22:24:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クローザーの事……」「そんな話も入ってくるのかい」気のないそぶりをしながら、フィルギアは瞳孔を収縮させる。ムラサキは頷いた。「なんでも集めるわ。貴方の為に」「奴がどうしたって?捕まったんでしょ」「今は釈放されて、東に向かったわ」「え、ちょっと待って、東?釈放?」 13

2019-07-17 22:27:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フィルギアは瞬きした。「だってさ、その胡乱なコンサルタントは、タイクーンの怒りを買って獄に繋がれたんじゃない?」「タイクーンの怒りは炎のよう」ムラサキは遠い目をした。「でも、ひとしきり燃えれば、その灰に、芽吹きがもたらされる。怒りの後に赦しがある。そういう事なのよ」 14

2019-07-17 22:31:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「東か……どこに行ったのかな」「知りたい?」「ン?」「知りたあい?」「バカ」フィルギアはムラサキの唇に、鎖骨に触れた。ムラサキはクスクス笑った。「クセツが連れて行ったの。だから、ただ放逐したのと違うわ。なにかを尋ねに行った……」「なにかを、ね」フィルギアは見当をつけている。 15

2019-07-17 22:38:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「都にもたらされた報せで、オオクも、城内も、騒ぎになったわ」「それは?」「天を衝くようなオベリスクが大地を割って突き出した」ムラサキが言った。「発掘者たちはみな頭がおかしくなった。ニンジャも、占い師も。吉兆?凶兆?ジョウゴ親王殿下は、畏れたわ」 16

2019-07-17 22:44:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それでクセツの奴が?」「他に考えられないもの。クセツはその為に、親王殿下のもとへ」「親王も複雑かな……親父にあれこれ気をかけられて、恥とも思うだろう」「うふふ、目に浮かぶようね」ジョウゴ親王は、燃える目と荒々しい髭、残忍さで知られるタイクーンの息子。彼自身もニンジャである。 17

2019-07-17 22:49:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ねえ、ジョウゴは実の子なのかな。それとも養子?」「うふふ、私でもそれは、知らないわ」「ハァ……しかしなあ……」フィルギアは窓から空を、それから城下を見た。「どうしたの?」「実際、気が遠くなるような感覚さ。時代錯誤っていうか」低く呟く。「……おかしな所に来ちまったなッて」18

2019-07-17 22:53:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうよね」ムラサキは笑った。なにか諦めを含んだ微笑みだった。フィルギアは表情を動かさず、彼女を眺め……「ン……?」フィルギアは眉根を寄せた。ムラサキは訝しんだ。「どうし……」ZAAAAP……フスマを焼いて、白熱する蛇がフィルギアの鎖骨を貫いた。ムラサキは目を剥いた。 19

2019-07-17 22:57:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グ……!」フィルギアは悲鳴を噛み殺した。蛇は稲妻だった。ムラサキが悲鳴をあげる間もなく、フスマが引き裂かれた。「イヤーッ!」KRAAASH!あまりに無慈悲で不躾な勢いをもって、そのニンジャは第六寵姫の私室に踏み込んだ。「……ヘヴンリイ=サン……!?」ムラサキが呻いた。 20

2019-07-17 22:59:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やっぱりだ」ねじれた二本角を生やした女のニンジャは心胆寒からしめる眼差しで寵姫を見下し、それから電撃に耐える窓のフィルギアを見た。「ドーモ。ヘヴンリイです。名乗れ」「ド……ドーモ……」フィルギアは窓枠を掴んだ。稲妻は彼の身体を苛み、即座の逃走を許さぬ。「……フィルギアです」 21

2019-07-17 23:02:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイ、テメェ何者だ?」ヘヴンリイは顔をしかめた。「どうやってここの連中のニンジャ第六感を欺いた?」「ね……年季かな」フィルギアは苦笑めいて笑おうとした。「むしろ、よく俺に気づいたね……ビックリするよ。侮っていたか……」「フィルギア=サン!」ムラサキが叫び、割って入った。 22

2019-07-17 23:07:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイ!」フィルギアは叫んだ。「そりゃ違うって!」「いいの!」ムラサキはヘヴンリイにしがみついた。「私、生き返りました!だから……」「……!」フィルギアは呆然と目を見開く。だが、残された時間はほんのコンマ数秒もあろうか。彼は歯を食いしばり、身中の稲妻を引き剥がした。 23

2019-07-17 23:09:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「チッ」ヘヴンリイはムラサキの頭を掴んだ。それだけだった。蛇口でも捻るようにして、ニンジャはムラサキの首をへし折った。そして吐き捨てた。「姫様だからって殺すんだよ。ナメんなよ」「……」ムラサキの抵抗する力が失せ、タタミに倒れた。ヘヴンリイは窓を飛び越した。「イヤーッ!」 24

2019-07-17 23:12:38