エッジ・オブ・ネザーキョウ #5

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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【エッジ・オブ・ネザーキョウ】#5 pic.twitter.com/BgkfwsnWAg

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ホンノウジ・テンプル城の大門前！破壊された戦車や敵兵の骸骨を磔にした無惨なモニュメントが、絶やさず燃やされる炎に邪悪に照らされる恐るべき広場である。その一角に今、金のビヨンボが張られていた。邪龍オオカゲはその背後、首を巡らせ、帝都を睥睨する。この日はコクダカ付与日なのだ。　1

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「ドッソイ！ナランデ！」「ナラベ！」数名のスモトリニンジャが荒っぽくさばく列には、世界中から流れ着いた不穏な者達が並ぶ。列の先には、神秘的アトモスフィアを漂わせる帷幕がある。その中にいるのは、誰あろう、タイクーンその人なのだ。　2

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ネザーキョウにゲニン志願する者らは様々だ。食い詰めた傭兵くずれ、チンピラ、＜消失者＞の中でも理性をかろうじて保っている者、仕えていた暗黒メガコーポを失った者……。IRCネットワークには正体不明のネザーキョウに関する伝説が溢れている。戦士が成り上がる楽園。ストレスフリーの帝国。　3

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所詮その手の噂は甘い展望である。ネザーキョウにやってきた者はまず、インターネット禁止の事実に打ちのめされる。情報が遮断されているがゆえの美辞麗句であると知る。そしてごく僅かな選ばれしセンシは、真の弱肉強食の世界で生きるすべを知るのだ。　4

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「ドーモ！アギです……アイエッ！？」促された者は緞帳のノレンをくぐり入る。そして床几に座る四本腕の極めて恐ろしいタイクーンその人を目の当たりにし、己の身の程を知る。タイクーンは目を光らせ、睨む。「アギ＝サン。ハゲミナサイヨ」そして手を翳す。すると胸にコクダカの烙印が刻まれる。　5

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「グワーッ！」たちまち、ならず者はコクダカの力によって白い装束をカラテ生成し、ゲニントルーパーとなる。これが平常。一定の割合で、コクダカがより強く刻まれる者がいる。その者は彼らを率いるメジャーゲニンの栄誉を与えられる。　6

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彼らゲニンは、いわばレッサーニンジャの入り口に立つ者だ。彼らは等しく修行と鍛錬次第で、アケチ・ニンジャ・クラン門下のリアルニンジャとしてのカラテ・ロードを歩む権利を得たといえる。だがしかしゲニン、メジャーゲニンとレッサーニンジャとの間には、実際あまりに無慈悲な力の隔たりがある。7

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ここまでネザーキョウの弱肉強食の世界の空気を吸ってきた読者の皆さんの中で油断ならぬニンジャ第六感素質をお持ちの方は、ゲニントルーパー達が実際クローンヤクザほどのカラテの持ち主である事を見抜いたかもしれない。しかしそれでも彼らは間違いなく「入り口」には立っている。　8

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夢も希望も捨ててネザーキョウにやってきた彼らは、フェイス・トゥ・フェイスで直接面談するタイクーンの度量の広さと、直接浴びるカラテの凄まじさに感動し、「目上の者に尽くす」という概念を初めて知る。与えられたコクダカの力に、味わったことのない高揚感を覚える。そしてトルーパーとなる。　9

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「次ッ！」……「次！」……「遅い！死すべし！」「アバーッ！」「次ッ！」……「すぐに退出せよ！」……コクダカ付与は実際手間であるし、精強なるネザーキョウのニンジャであれば、同様にアケチのゲニンを作る事は可能だ。だがタイクーンはこうして必ず直接付与の機会を設ける。現場感覚である。　10

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「次ッ！」……「今の者でオシマイで……アイエッ！」帷幕の外の部下が狼狽えた。タイクーンは強大なカラテの持ち主がズカズカと近づいてくる事を感じ取っていた。誰であるかもわかった。「ドーモ」荒っぽく入場したのは、ヘヴンリイであった。彼女は片膝をつき、オジギした。　11

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「クルシュナイ。何しに参った」タイクーンはジゴクめいた眼差しを向けた。ヘヴンリイは声を落とし、普段より幾らか殊勝で厳かに、一連の出来事を報告した。タイクーンの肩に凄まじい怒気が漲った。ヘヴンリイでさえ、その圧力に震えた。だが、まず彼が口にしたのは「デカシタ」という労いであった。12

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「第六寵姫ムラサキの遺骸は……」「一切を焼き捨てい！惰弱な女の記憶など不要！」タイクーンは床几から立ち上がった。「ハーッ！」ヘヴンリイはかしこまった。タイクーンは背を向け、懐から短冊と筆を取り出すと、その場でハイクを詠んだ。「我が空に/雨は降らぬ/紫の花を咲かせるほどには」　13

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「あ……アンタ達、大丈夫だったかい」コトをすませて戻ってきたマスラダとコトブキを、修理工のタマカはおずおずと出迎えた。「さあな」マスラダは首を振り、コトブキは「とにかく、倒しました」と言った。タマカは破顔した。「ま、まあ実際、スカッとしたぜ、連中ときたら最悪に横暴でよ」　15

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「ネザーキョウを訪れてからそう長くないですが、彼らには何度もよくない目に遭わされました。皆さんは常に、彼らにあのような……？」「気分次第だな。だけどその分、緩いとも言えるんでね。時々やってくる不運を我慢してりゃ、やっていけない事もないんだ」　16

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「そういうものですか」「ホンノウジに近い街々は、もっと物々しいんだ。甲冑姿のニンジャが行進して、あんなチンピラまがいはいない。ヤマザキじゃ、ワシらの事は構われてないんだ。この街は急拵えだし、川向こうといつ戦争になってもおかしくない。だけど、その分おこぼれの機会もあるッて事よ」　17

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「ウーン」コトブキは考え込んだ。マスラダはシグルーンをふたたび確かめはじめた。タマカも我に返った。「ああそうだ。バイクだよな……なあ、この表示、見てほしいんだがな」液晶パネルには『再び参照したい』のミンチョ文字。「思ったんだが、この機体はよ、AIが壊れちまってるんじゃないかね？」18

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「やはり」コトブキが表情を曇らせた。「本当は、リブートして、ドライバーを入れ直す必要があるんです。ネザーキョウにはインターネットが無いので、騙し騙し頑張ってきたのですが……」「あるよ」彼らは子供の声を振り返った。「ヘヘッ」アベ一休のTシャツを着た男児が、コトブキの服をつまんだ。19

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「何だお前？」タマカが驚き、押し退けようとした。「ここらで見ないガキだな。汚えぞ！シッ！シッ！」子供はタマカの手をするりと避け、コトブキの陰に隠れた。「まあ！」「やめろい！俺はアンタの店のものに手をつけちゃいねえんだ。客かも知れねえんだぞ。シツレイだぞ」「このガキめ！」　　20

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タマカはスパナを振り上げた。男児は怯まない。「何だ？負けねえぞ、俺は」「うるさいぞ」マスラダが割って入った。そして子供の頭を掴み、覗き込んだ。「インターネットがあると言ったな」「ヘヘ……ニンジャのアンタ、話がわかる感じだ。さすがだな。ずっと見てたぜ、さっきの騒ぎ！」　21

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「オイ」タマカは心配そうに言った。「取り合っちゃいけないよ。アンタらも知ってるだろうが、インターネットはご禁制なんだ。そういうのを取り扱ってるのはヤバイ連中で、近づいたら大変なトラブルになる。まさかこのガキ……」「そのまさかだよ」挑戦的に見上げた。「俺はリコナーにツテがあるぜ」22

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「よせ。関わったらマジでヤバイぞ」タマカは青褪めた。そして少年を断固として店から押し出した。「この疫病神め。出て行け！」「いてえ！骨折して賠償だぞ！」「ワケのわからん事を！ゲニンに引き渡されたいか！」マスラダは少年の襟首を掴み、引きずった。「おやじ。また来る」　23