エッジ・オブ・ネザーキョウ #6

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【エッジ・オブ・ネザーキョウ】#6 pic.twitter.com/zgIkDjVRi0

拡大

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネザーキョウの前線都市ヤマザキとUCA領のプリンスジョージを南北に隔てるのがネチャコ川だ。対岸はそう遠くない。その際どい流れが、全く異なる二つの文化を隔てるラインであった。　1

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

文明人類にとって残念なことに、境界線であるこの川もまた、ネザーキョウの支配下にあった。白装束でジェットスキーを駆り、船から船へ飛び渡り、邪悪なカラテで攻撃する「アケチ水軍」に、暗黒メガコーポの通常戦力は対抗するすべを持たなかったのである。　2

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

取るに足らぬゲニンといえど、ニンジャの一種。しかもアケチ水軍を構成するのはゲニンばかりではない。ニンジャソウル憑依者も一定数含まれていた。彼らはキンカク・テンプルから降り来たったニンジャのソウルを憑依融合させた者らであり、修行中のゲニンとは比較にならないカラテを持っていた。　3

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

たとえば、今こうしてネチャコ川の水面に直立して腕組みしている恐るべきニンジャ、スピアフィッシュは、まさにそうしたニンジャソウル憑依者であった。一体いかなるテクノロジーで彼は水面に立っているのか？テクノロジーではない。カラテだ。正確には、足に装着した「ミズグモ」と、カラテである。 4

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

プリンスジョージ側の岸を見よ。残骸と化した複数の戦車がいまだに放置されているのがわかる筈だ。戦車はどれも先日の小規模戦闘の折、車体を複数の投げ槍で貫かれ、爆発し、焼け焦げてしまっている。全ては彼の投げ槍の仕業である。ミズグモで自在に水上をスライドし、槍で攻撃する。悪夢であった。 5

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

当然、UCAにもニンジャ戦力は存在する。だがイクサにおいて決定的な存在感を示すほどの層はなかった。UCAは所詮、複数の企業の寄り合い世帯。優先すべきは各社が地球上あちこちに保有する個別の企業領土である。ニンジャの投入数、士気……ネザーキョウには全く及ばないのだ。　6

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しかし今、このスピアフィッシュは何をしているのだろうか？もっと詳細に見てみるとしよう。……ナムサン。彼の傍にはイカダが停止している。イカダの上には拘束されたUCA兵士が五名、正座させられ、スピアフィッシュ配下のメジャーゲニンにボーで小突かれていた。「始めるか」ニンジャは言った。　7

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエ」兵士の一人は年若く、すでに意気挫けていた。スピアフィッシュは新兵らしきその若者のもとへ滑るように移動し、目を細める。「何か誤解しているな。お前、名前は？」「ルーカスです」「ルーカス＝サン。今からお前を……」「アイエエエ」「ボトルネックカットチョップするとでも？」　8

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

新兵は激しく震え、首を振った。メジャーゲニンが笑った。スピアフィッシュは続けた。「俺は誇りと勇敢さ、そしてカラテを尊重する。強さ。そして勇気。それこそがセンシに求められるべき概念だ。捕虜の自由を奪い、チョップで処刑するなど……まったくもって、よくない。野蛮だ」　9

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「UCAは……我らの仲間は、必ず貴様らに報いる」隊長格の兵士がスピアフィッシュに吐き捨てるように言った。「今日俺達が倒れても、明日は仲間達が……！」「勇敢な男だ……いいだろう」ニンジャは頷いた。「オイ、外してやれ」「ハイ！」メジャーゲニンが拘束を解いた。兵士は不思議そうにした。　10

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「つけてやれ」「ハイ！」メジャーゲニンは足元にあるアイテムを取り、兵士の足に装着した。それは靴の下に取り付ける平たいアタッチメント……即ち、ミズグモであった！「種も仕掛けもない、板のようなものだ。当然エメツでもない。だがカラテあらば、俺のように水上を自在に歩くことができる代物」11

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何だと？これは……」「俺はチャンスをやろうというのだ」スピアフィッシュは静かに言った。「お前の勇敢さに期待している。部下どもに手本を見せてやるといい。真の勇敢さがあれば、そのミズグモを使って、川を渡り、お前らの領地に帰る事ができるはずだ」「何をバカな！」「俺がバカなのか？」　12

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

メジャーゲニンはスピアフィッシュの指示を受け、急かすように処刑カタナを抜いた。「……！」兵士は悔しげに歯噛みし、最終的に、従った。イチかバチかに、賭けるのみだ。「ウ……ウオオーッ！」彼はイカダから跳び、ミズグモを履いた足で着水！……沈まない！ゴウランガ！だが、徐々に沈み始める！13

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ホラホラ！急げ！」スピアフィッシュは手拍子を打った。兵士は必死に足を動かした！水面を滑り始める！いける……！案外に、いけるものだ！「ガンバレ！」「隊長、どうか！」兵士たちは泣きながら声援を送る！「ウオオーッ！」……「イヤーッ！」スピアフィッシュはヤリを取り、投げた。　14

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ！」ヤリは無慈悲に隊長格の背中を貫通！ナムアミダブツ！飛沫とともに沈む！「……今のがチュートリアルだ」スピアフィッシュは言った。「残り四名は全員同時に開始だ。上官の尊い死を胸に刻み、必死でやるといい。俺は一度に一本しかヤリを投げられない。チャンスはあるぞ！」15

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウ……ウオオーッ！」新兵はヤバレカバレでイカダから跳んだ！他の三人も続く！哀れな水上レース、スムーズに水上を進める者も、苦労する者もいた。スピアフィッシュはゆっくり10数えた。咳払いした後、ヤリを取った。　16

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ！」「アバーッ！」「イヤーッ！」「アバーッ！」「イヤーッ！」「アバーッ！」　「イヤーッ！」「アバーッ！」　ナムアミダブツ……ナムアミダブツ！「さすがですスピアフィッシュ＝サン！」メジャーゲニンが手を叩いて喝采した。「敵に温情を与え、カラテも見せて真のセンシでやす！」　17

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そう思うか？ン？」「アケチ水軍にスピアフィッシュ＝サンあり！UCAに轟いている事でありやしょう！ア……でもコイツらも死んじまいやしたねェ！ヒャアーッ！」「死人にクチ無し！ハッハハハハ！」「ヒャーヒャッヒャッヒャッ！」何たる残酷！だがこれも前線ではチャメシ・インシデントなのだ！　18

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆◆◆　19

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

天井は穴だらけで、まだら模様を形成していた。差し込む光は斜めの帯となり、埃のパーティクルを白く輝かせていた。もとはアーケード街でもあったのだろうか。だが今は、そのように薄ら寂れた一角であり、風雨をさほど凌げぬ屋根の下、無数のテントが並んでいた。ザックは緊張しながら先導する。　20

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

テントの中には全て、住人がいた。闇の中で彼らは身じろぎし、来訪者三人をじっと目で追っている。「ぜ……絶対頼むよ」ザックはマスラダに囁いた。「襲われたら、守ってくれないとだぜ」「安心してくださいね」コトブキがザックの頭に手を置いた。「このテントのどれかなのですか？」　21

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わ……わかんねえけど……」ザックは唾を飲んだ。「この場所はビョウキが流行ってるって、ヤマザキの皆が信じてるよ。だから、誰も近づかねえし、ゲニンの奴らも来ねえんだ。金目のモノも無いし。……だけど、本当は違うんだ」「誰の情報だ」「俺のマブの……死んだリコナーさ」　22

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

（マブ……？）（リコナー……？）（死んだ……？）テントからテントへ、ざわめきが伝搬した。ザワザワした言葉の波がテント群の奥まで広がり、今度は戻ってきた。（死んだ……）（アベ一休）（子供……）（伝わっている……）（いいだろう……）「いいンだとよ」近いテントの住人が這い出した。　23