「殿下、ここは?」古めかしい鍵が皇子の指とのコントラストを見せつける。「先だって皇帝陛下から遊戯係を仰せつかった」「は?」「ラウンズともあろう者が間の抜けた顔を見せるな」そんな楽し気に言われても…と困惑するセブンを尻目に、雰囲気漂う小離宮へ皇子が歩を進める。「公務だよ、付き合え」
2019-08-01 21:57:17「ここは7代皇帝が寵妃のために造らせた離宮になる」「よく残っていましたね」「この時代の建造物で帝都にあるのは唯一だ」「道理で」玄関ホールで口を開けて天井を見上げるセブンの顎を優雅に指で弾き、くすりと笑う。「子供か」「あ、いえ…寵妃のためというには何というか、その、趣がありすぎて」
2019-08-01 22:11:41「7代皇帝は大層怖がりでな」「はァ」快晴の陽光もろくに届かない離宮内を見渡し、セブンが生返事を返す。「寵妃はそんな皇帝を自作のホラー話でビビらせては政務を糺したという逸話がある」「…寵妃の鑑ですね」「うん。俗称、帝都百物語総攬」「察しました。つまり公務なんですね」「もう察したか」
2019-08-01 22:30:48「殿下はこういった皇室の遊戯施設を管理する係に就かれたと、そういうことでしょう?」「正確に言うなら、運営して小遣い稼ぎだ」僕の殿下がますますお茶目になる…そんなことを思うセブンの心が通じたか通じなかったか、くいっと襟首を引き、皇子がいたずらに囁く。「デート、だよ。公務は口実」
2019-08-01 22:50:50「清掃は行き届いていますね」「前任はクロヴィス兄上だからな。スザク、そこは開けるな。祟られる」食堂への扉を開けようとした手がぎくりと止まる。「肝試し以外で開けるべからず、と資料にある」「殿下、資料が?」「うん、代々引き継」「殿下」資料を持つ皇子の手を取り、セブンが熱く語りかける。
2019-08-03 00:44:18「もう隠し事はありませんね?」「…実はある」やんわり目を逸らす皇子を逃さず、セブンが甘く囁く。「教えて」「お前、ずるいぞ」「ルルーシュに言われたくない」親指で下唇をなぞられて、隠し事が観念して顔を覗かせる。「ジノと肝試しに来た」「ジノと?」「父上に護衛を頼んだらジ」「ルルーシュ」
2019-08-03 00:53:02「なんで僕に言わなかったの?」「お前は父上の騎士だろう」反らされた横顔は完全に拗ねている。「それに女とのおしゃべりに忙しそうだったしな」「アリサには頼み事をしただけだよ」「ヘラだ」「…えーと」「祝勝会の翌日」「あっ、え?」「マーニーは翌々日だっ、んん」皇子の口は強引に奪うに限る。
2019-08-03 01:07:21くったりした皇子の睦言によると、ホラー的吊り橋効果で盛り上がった恋人たちがようやく辿り着く小離宮の最奥に、寵妃の私室がある。「その部屋だけいわくが何もない、7代皇帝の安息の地だった」「なぜわざわざ離宮に?」怖がりのくせに。「お前は俺がここに立て籠もったら諦めるのか?」「いえ」
2019-08-03 23:40:34「それでジノとはどこまで行ったの、ルルーシュ?」セブンが気合でホラー要素を祓い清め封じつつ問い質せば、紫珠がちらと胡乱な色を浮かばせる。「もちろん、最後まで」「ルルーシュ?」「あいつの陽気で全く肝試しにならなかったよ。お前もお前で爽快だな」「…浮気?」その声が一番のホラーだった。
2019-08-04 00:04:25突き飛ばすように荒々しく豪奢な寝台に押し倒され、皇子の胸が人知れず高鳴った。デートスポットとしてもいける、そんな算段が聞こえたわけもないのにセブンの目が冷ややかに釘を刺す。「何を考えているの?ジノ?」「吊り橋の位置について、少し」「本当は?」「…皮算用だ」「君の場合、試算だろ」
2019-08-04 00:18:18「あっ…スザ、もぅ…!」「まだだよ、ルルーシュ。僕はまだ答えを聞いてない」「言った!」「嘘だ」遠慮なく攻められて泣きが入る皇子に、セブンは少しも揺らがない。「もう一度聞くよ。ジノとはどこまでいった?」「っう…ん、ふ…あ、じの?」「僕にはもう飽きた?」「ぁん、すざくぅ…もっと、ん」
2019-08-04 00:32:02ハァッ…セブンの吐く息が熱い。どれだけ言葉をぶつけ感情をぶつけても、心が静まらない。「ルルーシュ…ルルーシュ」頬を撫ぜる手に、半ば意識の飛んだ皇子がすり寄る。紫が見たくてもう一度呼べば、うっすら映る己の顔に少しだけ落ち着いて。「僕は君だけだ。ルルーシュだけでいい」「…俺、も」
2019-08-04 00:51:49日暮れと同時、空気がざわめく。「ルルーシュ、他の経路は?」「実は皇族用の隠し通路があるんだが…」セブンの懸念を汲んでか汲まずか、皇子が可能性を一つ──「何のいわくもない。ただ建築に携わった者が人柱で埋まっている」消した。「口封じか」「それもある。大規模な工事に人柱は付き物だがな」
2019-08-05 00:29:37「そういえば…日本でも聞いたことある」床に落ちた布を摘まみ上げ、皇子がふぅん?と先を促す。「橋やトンネルには人柱が埋まっている。だから建築関係の仕事に就くもんじゃない、って」「枢木の息子に?」「女中さんたちが井戸端会議で教えてくれるんだよ、色々と」「閨の作法も?」「…昔ね」
2019-08-05 00:48:58「それよりルルーシュ、帰りは」「うん、別の経路を試してみたい」「夜は危険だ」反抗的な紫が諫言を跳ね除ける。「お前はここに残れ」「ルルーシュ!」「安心しろ、ここだけは安全だ」「駄目だ、ルルーシュ!」出て行こうとした背中を抱き留め、諭す。「これは護衛の判断だ、夜は動くべきじゃない」
2019-08-05 01:15:30「これ以上は無理だぞ」「僕が言いたいのはそういうことじゃなくて…」「わかっている。でも…するだろ?」それに。「肝試しの真価は夜だというのに、ラウンズ級の護衛判断で危険となると…やはり誓約書は必須か」「誓約書?」「利用にあたっては生死を問いません」「駄目じゃないかな、それ」
2019-08-05 01:26:51「殿下、これは…」アスレチックの入り口に寄りかかる皇子に、セブンが困惑の眼差しを向ける。「オデュッセウス兄上の秘密基地だ」「遊具ではなく?」「お前、俺を誰だと思っている?」「第11皇」「違う、まちがっているぞ、ナイトオブセブン」優美な指がセブンの顎を掴み、魅惑の笑み。「遊戯係だ」
2019-08-08 20:42:35「幼い頃、父上が戯れに秘密基地を作ってみせよと俺たち子供に命じたことがある。それが継承順位を左右する一大政争となるんだが…」「殿下」「ん、何だ?」「キスをしても?」政争の道具と化した第一皇子の少年の憧れの前で、二人が見つめ合う。「話がまだだ、んぅ」「…このままで続きを」「こら待」
2019-08-08 22:36:21「では殿下たちも?」「ぁあ…俺とナナリーもそれぞれ作っ、ぁ…今も離宮にある」父上が離宮に来るとそこでマンツーマン対談になって困る…そう途切れ途切れ由来を語る皇子に、ここまで子煩悩なのになぜ嫌うのかセブンは不思議でならない。「ウザい?」「いや、俺には丁度いい」「え?」「気にするな」
2019-08-08 22:54:21「しかし…ずいぶん貧相というか」帝国の第一皇子の秘密基地というには、このアスレチックは粗末すぎた。「自作だからな」「嘘でしょう」「こら、これ以上は我慢しろ。嘘じゃない」セブンを手で押しのけ、弟皇子の笑みが歪む。「だからこれだけが遊戯施設なんだよ」「殿下たちのは?」肩を竦められた。
2019-08-08 23:21:12「安心しろ、人柱はない」先に登り、手を差し伸べる皇子は手馴れていた。「何度もこちらへ?」「兄上を敬う心を取り戻したい時にな」「心にもないことを」「これが意外と入り用なんだ」そんな遠い目をされたらせっかくの軽口が…とセブンが苦笑する。「確かにお一人でと考えると尊敬しますね、これは」
2019-08-09 23:55:22「ちなみに蓮の池はシュナイゼル兄上が贈ったものだ」池を囲む林はギネヴィア姉上が、コーネリア姉上は…兄弟仲もいいのではないかと毎度の疑念が湧いて──「何しろ唯一の遊戯施設指定だ、こぞって群がった」消えた。「見ろ」頂上に立ち、皇子が示す。「この眺めが宮廷だ」幽玄の、お粗末な第一皇子。
2019-08-10 00:20:34「これが陛下の?」「いや、父上の思惑は別にある」手摺に凭れ、吐息が夕暮れの空気を撫でる。「遊戯係の件も」「思惑ありだ」「まさか」「いや、お前との関係はまだバレてない」「え」バレた。「ナナリーにも秘密にしている。…だから大丈夫だ」「せめて僕の目を見て言って、ルルーシュ」「嫌だ」
2019-08-10 00:46:45