飛浩隆さんの零號琴解説

SF大会の『零號琴』企画を取材した朝日新聞の記事を発端に始まった作者ご自身による『零號琴』解説が半年ぶりに再開され完結したのでまとめました。 ツイートはスレッドになっているので飛先生のツイッターから読んだ方が読みやすいかもしれません。 自分用に非公開でまとめていたのですがもしかしたら読みたい方もいるかもしれないので公開します。
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飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

日本SF大会における零號琴企画の、長大なレポート。1企画の報道としては異例の規模では。 asahi.com/sp/articles/AS…

2019-08-02 12:08:22
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

朝日新聞のこの記事は、例によって大阪本社の山崎聡記者の手になるものです。彩こんの会場に着席したら最前列にかれの顔を見つけて仰天、「記事にしますよ」と不敵な笑顔を浮かべていたのでええ……と思っていたけどまさかこんな巨大な記事になるとは。(続

2019-08-03 18:47:45
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

ただ、『零號琴』改稿で最終的にどこにたどりついたか、についてはもう少し補足が必要で、当日の発言の範囲で、じゃっかん書いてみますね。(数日に分けてゆっくりと進めます)

2019-08-03 18:48:04
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

その前に、言わずもがなの注意書きを。ノートに書いたとおり、轍世界のものがたりは徹頭徹尾お気楽な娯楽読み物として構想されていて、このあと書かれる前日譚や続編もその枠に収めます。ただ…

2019-08-03 18:48:41
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

『零號琴』だけは別の趣向が入ったために、みるからに異様な風体の作品となった、その理由を明らかにしておきたいという茶目っ気が今回の企画の意図でした。

2019-08-03 18:49:16
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

この「趣向」は、作品を書きつづけるためのモチベーションの根幹であったけれども、それは読者にとってさほど重要ではない。ひとりの作者が個人的な体験や、歴史に残るような事件に触れ、その体験を原型がわからないように加工して作品を作ることは、ありふれたことでしょう。

2019-08-03 18:50:02
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

その体験や事実を知ることは、作品をたのしむ上で必須ではない。作品が書かれるための仮設の足場みたいなものです。そして(たしか)私は会場で言ったはずです…

2019-08-03 18:51:46
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

こうした趣向はいずれ完全に風化して意味を失うかもしれず、ただその上で、まだ残るはずのものがあるだろう、と。 前置きが長くなりました。では、その補足を……(あしたにつづく)

2019-08-03 18:52:00
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

(再開)企画の中で私は星新一の「小さな十字架」にふれ(これについては「ポリフォニック・イリュージョン」のエッセイをご覧ください)、そこに「戦争で破壊されたジャンクを用いて、あたらしいものを生み出そうとする(しかも、それはオリジナルからの模造品であるというニヒリスティックな認識…

2019-08-04 09:06:11
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

も込みで)宣言」を聴き取った、と話しました。 雑誌版『零號琴』の「先」は「美縟の外」へ行こうとするものであるだろうと考えました。最終的にそれは、ワンダ・フェアフーフェンの「銀河を外から見る」というぜったいに叶わない願いとして作中に書かれることになる。しかし…

2019-08-04 09:07:26
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

『零號琴』のラストに潜めた景色が「日本SFのディアスポラ」である以上、それがどうしても必要だったからです。(だからこそエピローグ2を担ったのは鎌倉ユリコのテクストでした。) (あとはまた後日)

2019-08-04 09:08:53
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

(十日ぶりに再開)エピローグが二段構えになっているのは、日本SFオールタイムベストのあの長編に倣っているのですが、最後の情景に置かれた人物、マヤの名は摩耶子=小松左京「日本沈没」を意識しています。美縟崩壊の場面は「竜の死」をまなざしている。つまりここで「日本SFのディアスポラ」…

2019-08-16 19:37:58
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

を描き出してみたかった。ただここでは崩壊や滅亡を追及したわけではなくて、その証拠に先行するエピローグ2では鎌倉ユリコの口を借りて「銀河を外から見ること」の仄かな希望を語った。

2019-08-16 19:40:23
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

『零號琴』が連載開始したとき、創元SF短編賞ははじまっておらず、松崎有理や宮内悠介、高山羽根子さんたちはデビュー前だった。このとき、もっとも新しい世代の作家たちは、まだかたまりのある層としては登場していなかったのです。しかし書籍版刊行の時点ではそうではなかった…

2019-08-16 19:44:23
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

「銀河を外から見る」世代をはっきりと想定できた(そのときとなりにいたオキシタケヒコさんもそのひとり)。「俺たちはもうだめかもわかんないけど、でもきみらは違うよね。どこへでも行けるよね」。その希望を語ることでようやくあの小説は結尾を得た…

2019-08-16 19:46:44
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

会場でそこまで明かしたあと、私は午前中にみた橋本輝幸さんの企画について触れました。(カレー食べすぎて苦しいので、あとはまた別の機会に)

2019-08-16 19:48:14
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

6か月振りにスレッドをつなげます(忘れてました)。あの企画では(もう記憶不鮮明ですが)中国をはじめとするアジア各国やヨーロッパ、アフリカで、若い世代がウェブジンを始めとするさまざまな創作・批評・顕彰のプラットフォームを作ろうとしている、その活動が報告されたと記憶しています。

2020-02-09 23:55:23
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

その報告は、飛にとってはあの作品の結尾から直接連なっていく「未来」を見せてくれるものでありました。自分の創作のフレームは「昭和の日本SF(それは英米を中心とした翻訳も含めての、です)」にすっぽり収まったものでしかない。しかし若い世代の書き手は、そんな枠など関係なく外へ…

2020-02-10 00:02:21
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

出ていけるし、出ていっているし、出ていった先には、未来の(あるいは既に現在の)友人が腕を広げて待ちかまえている。それをはっきりと知ることが出来たのが昨夏の最大の収穫でした。そして事実、その後、ワールドコンや各地のコンヴェンションをきっかけに、アジアの作家たちとのコラボレーション…

2020-02-10 00:06:06
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

がはじまっている。上述のとおり『零號琴』はごく私的な挽歌を歌うものでもあったのだけれど、そこを見事に補完してもらえたのでした。 7年改稿して分水嶺を超えたと感じた翌年、まさにこういう動きに触れられて本当によかった、というお話でした。

2020-02-10 00:12:26
飛浩隆 TOBI Hirotaka @Anna_Kaski

これで〈轍〉宇宙のシリーズは「憑き物」から解放されて、のびのびと志の低い物語を遊びたい。 と、いうわけでいよいよ昨日から『零號琴』の前日譚を書きはじめました。アヴァンタイトルを10枚ばかり。プロットはまだできてないけど、ええ、行き当たりばったりでいきますとも。目標は3か月で300枚。

2020-02-10 00:16:29