デス・フロム・アバブ・UCA #3
【デス・フロム・アバブ・UCA】#3 pic.twitter.com/bOoDFatYOY
2019-08-20 21:46:48「ウォールル、ルル、ルル……」調子外れの歌を歌いながら、トム・ダイスはフライパンに卵を落としていく。なにかのフレークと、そこらで摂ってきたキノコを炒め、スクランブルエッグにするのだ。フィルギアは歯でビールの栓を開け、匂いを嗅いで確かめる。「ああ。いける」「何がだ!」「サケだよ」 1
2019-08-20 21:53:41「お前バカじゃないのか。重傷者が」「ニンジャってのは丈夫なんだ」「フン。そのブルシットに何故こだわる」「ブルシットじゃないって」トム・ダイスは既に悪目立ちする迷彩服をやめ、それらしいシャツとジーンズに着替えていた。この打ち棄てられた家でクローゼットの中身を拝借したのだ。 2
2019-08-20 21:56:51フィルギアはコップにビールを注ぎ、一息に飲み干した。「ンン……アア、クラクラする、マジか」「マジか、じゃない」「なあ、ここはネザーキョウ……で、いいんだよな?」「まだ朦朧としているのか」「だって重傷者だもの……」「サスカチュワンだ」「サスカチュワン?」「この前と同じ反応だぞ」 3
2019-08-20 21:59:55フィルギアは地図を指でなぞった。ホンノウジよりも東。不幸中の幸い、ギンカクには悪くない位置だ。「……夢を見ててさ……昔の……」「夢を見た話も、もう俺にしたぞ」「ヒヒヒ、悪い、本調子じゃないんでな」「だからサケは止めるんだ」トムはコップを奪い、飲んでしまった。「あ、ひでえ」 4
2019-08-20 22:03:52トムはスクランブルエッグをテーブルにドンと置く。フィルギアはまずそうに食べる。「キノコなんか入ってら。こっちのほうが大丈夫かよ」「野戦の知識だ」「ア?ボーイスカウト?」「UCAの偵察隊だ……!」そう、トム・ダイスはアルカナム・コンプレックスの社員であり、強行偵察隊の生き残りだ。 5
2019-08-20 22:06:57北東のハドソン湾からのルートでネザーキョウに侵入したUCAの偵察部隊は最終的に壊滅し、彼ただ一人が過酷なサバイバル生活を強いられていた。ネザーキョウからの脱出がトムの現在の目的であり、それは「東に移動する」というフィルギアのそれと今のところ合致する。「スシがあれば治りが早いんだが」6
2019-08-20 22:11:02「スシだと?」「スシは完全栄養食品……ニンジャに力をくれるんだぜ」「いい加減にしろ。お前のどこがニンジャだ。メンポも、装束も無し」「……」フィルギアは自分を見下した。「人は見かけによらないってのに。モータルってのは……」「ニンジャマジックも無し」「それを言われると辛い、ヒヒヒ」 7
2019-08-20 22:13:20「お前のような奴が、これまで生きてこれただけでもラッキーだぞ。俺が見つけなかったらどうなっていたか」「そこだよ。つまり、俺はニンジャだから……イヒヒヒ……生き延びた……ホンノウジから飛んで逃げたんだぜ。怒り狂ったアケチの手先のニンジャから稲妻で無茶苦茶されてさ。バリバリって」8
2019-08-20 22:16:51「わかった、わかった」トムは話を切り上げた。「とにかく、俺も独りでこのネザーキョウを脱出するのは骨が折れる。助け合っていくとしよう。フィルギア=サン」「同意」フィルギアはビール瓶に手をのばす。トムは奪い、流しに捨てた。「妙な偽名を」「ニンジャネームだって」「ルール1。やめろ」 9
2019-08-20 22:19:43「ルール2以降は?」「思いついたら追加する」トムは流しで皿を洗った。「ガスが使えてよかった」「おさらばするのに、几帳面だね」「虫が湧くからだ」「いや、廃屋なんだし、放置でいいじゃない。だいたいアンタ、服は盗んだのに」「俺自身の、最低限の規範だ。俺自身の心の、納得の問題だ」「OK」10
2019-08-20 22:24:46廃屋から外に出、彼らは移動を開始する。「移動手段を見つけなければ……」モミジの森とは様相を異にする神秘的な草原地帯が広がる。「カラテプレーリードッグに気をつけろ」トムは注意した。「ナリは小さいが黒帯を締めていて、脛を壊してくる」「プレーリードッグって、リスだろ?」「悪魔だ」 11
2019-08-20 22:31:14「なんてところに来ちまったんだ、全く」フィルギアは呟いた。トムは頷いた。「ネザーキョウの変容は噂以上だ。満足な調査結果とはいかないが、俺は命を賭けて外に情報を届けねばならない」「アンタ真面目だよね」フィルギアは言った。トムの目は青く澄んでいる。「常にそうあるべきだ」「うわ……」12
2019-08-20 22:36:17「安い、安い、実際安い」「ネオサイタマへの直通便復旧に向けて、関係各所が尽力しております」「基金に参加しよう。我々は盾となる!」表通りを乱れ飛ぶ広告音声は、光ささぬ裏通りで反響し、座り込んだ負傷者や浮浪者は彼の足音に身じろぎする。生気のない目に見上げられると、彼は舌打ちする。 14
2019-08-20 22:44:10彼はフードを被り、その特徴的な……顔半分を覆う仮面めいたメンポを闇に隠している。「どけ」彼は無慈悲に浮浪者を蹴散らし、突き進む。「……」数秒のタイムラグで、鋲打ちコートの男が路地に踏み込む。この男はいわば一般的なニンジャのメンポを装着している。そう、ニンジャだ。 15
2019-08-20 22:48:04彼はニンジャの賞金稼ぎで、名はジェットコショウ。キュイイイ。手首のサイバネティクスが微細なモーター音を立てる。彼は音声通信を用いず、腕の端末に手でタイピングした。「シュウゲキダ」『ハイヨロコンデー』画面に相棒モンキーエッジの応答が返った。 16
2019-08-20 22:52:56「スーッ!」ジェットコショウは息を吸い込み、カラテを漲らせる。きっかり3秒後、目当ての賞金首の眼前で、浮浪者の一人がありえぬ素早さで立ちはだかり、襤褸を脱ぎ捨てた!「キャキャーッ!」浮浪者はニンジャだ!1メートル飛び上がったニンジャは賞金首めがけ湾曲ダガーでアンブッシュした! 17
2019-08-20 22:55:29「イヤッ!イヤーッ!」賞金首は左腕で一撃目を、右腕で二撃目をいなし、鋭い蹴りで反撃した!「イヤーッ!」「グワーッ!」後転で間合いを取り、モンキーエッジは素早くスリケン攻撃!「キャイヤーッ!」賞金首は当然回避!だがその隙をついてジェットコショウが二段構えのアンブッシュだ! 18
2019-08-20 22:58:21「イヤーッ!」ジェット駆動で速度を高めたチョップが賞金首を後ろから襲った!「グワーッ!」だが目にも留まらぬバックキックが逆にジェットコショウの腹に入っていた!ジェットコショウはバックステップし、アイサツに切り替える!「ドーモ。ジェットコショウです」 19
2019-08-20 23:01:03さらに彼のサイドキックがアイサツした。「ドーモ。モンキーエッジです。キィーッ!」ジェットコショウは威嚇的に腕のサイバネを鳴らした。「賞金首データベースにゃ、お前の名前の情報がねえ。難儀させるんじゃねえよ。名乗りな」「私に何の用だ」「サンシタ殺人鬼の首を換金して有効利用すンだよ」20
2019-08-20 23:05:56アイサツされれば応えるのがニンジャの掟。古事記にも書かれている。彼はオジギを返した。「……ドーモ。ヘラルドです」「ヘラルドってのか。テメェの足取りは用心ゼロ……俺のような腕っこきには拡声器で居場所教えてるレベルだぜ」「チッ」ヘラルドは舌打ちした。「下劣な……我がカラテが穢れる」21
2019-08-20 23:10:36「ア?何?」ジェットコショウは訝しんだ。「下劣はどっちだァ?お前、賞金がかかッ……」「イヤーッ!」「グワーッ!?」ハヤイ!逆袈裟のチョップがジェットコショウの胸を斜めに裂き、血飛沫が高く噴き上がった!「バカな……!」ジェットコショウは目を剥いた。ヘラルドは憎しみに目を光らせた!22
2019-08-20 23:12:05「奴だ……奴がいなければ!このような名誉なきイクサに関わる事もなく……!」ジェットコショウはヘラルドの言葉を理解できなかった。「何?狂……」「イヤーッ!」「アバーッ!?」振り上げられたチョップが今度は凄まじく振り下ろされた!ジェットコショウの身体は斜めに断裂!ナムアミダブツ! 23
2019-08-20 23:14:41