- pascal_syan
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サキとヨーコが串カツ屋へ向かっていた、同時刻。オクトーは車をホッケふ頭の近くに停めた。車を降りて、携帯端末をポケットから取り出したと同時に、コンテナの陰から人影が現われた。
2019-09-05 13:27:29「お待たせしました」 オクトーは、その人物に向かって、深々と頭を下げた。 「いや、いつも通り。いいタイミングだ」 男は微笑みながら、助手席へと乗り込んだ。それを確認してから、オクトーも運転席へ戻る。
2019-09-05 13:29:26車が静かに発進する。オクトーは車を走らせながら、ちらと、助手席の男のほうに視線を向けた。 「…インクが」 「うん?」 「右袖のほうに、ついています。まさか…」 「ああ、これか。じき消える、気にするな」 オクトーの表情は、どこか心配そうだ。
2019-09-05 13:34:10「…ボスともあろう方が、珍しいですね。やはりあの人…ですか?」 「思ったよりも手強かったな。まあ、俺が負けることはないが」 助手席の男は、とても機嫌がよさそうだ。 「それよりも」 男は後部座席をチラリと振り返った。
2019-09-05 13:38:07「俺の前に、誰かを乗せてきたな?」 「…はい。今日チームを組んだ方と、帰りの方向が同じでしたので」 「お前も、珍しいことをするものだな」 夕日の海の照り返しを受けた男の顔は、ため息が出そうなほど、造詣が美しい。
2019-09-05 13:41:20「…女か?」 男が小指を立てながら茶化す。 「ごふっ…!」 オクトーは盛大に噎せた。 「なんっ……!?ち、違います!!何を急におっしゃっ……ぐふっ、し、失礼しました…」 「ふふ、分かりやすいな」 「ただのチームメイトです、しかも初対面の…」 耳まで真っ赤になっている。
2019-09-05 13:45:19「初対面、ねえ…」 「あの方のご友人だそうで」 助手席の男の目の色が変わった。 「ほう。どうだった?」 「…申し上げにくいのですが」 構わない、と無言で返す。 「掴み所のない、と言いますか。少し、調査をする時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
2019-09-05 13:50:42「いいだろう。時間はまだある。俺の名を使えば、候補はいくらでも集まるのだから」 「…とはいえ、有象無象ばかりです。質のいい候補者は一握りもいないでしょう」 「そう無下に言うな、磨けば光る原石が、あるかもしれないだろう?」
2019-09-05 13:57:05「もしいたとしても、あなたの輝きに勝るとは思えませんね」 当たり前のことのように言うオクトー。 「お前にも勝てないだろうな」 当たり前のことに、当たり前のように返す男。 「真の原石は、右腕のお前だけだ」 「…ありがとうございます」
2019-09-05 14:06:50シグルイ。 ハイカラスクエア最強と謳われる男。当然ながら、サイキョー杯最強の優勝候補とも。彼の力を手にしようなど、傲慢な考えは許されない。 むしろ、彼が選ぶのだ。自身の配下に相応しい強者を。その様はまるで王者のよう。
2019-09-05 14:13:14だが、彼に王者の自覚は無い。玉座で踏ん反り返るだけなど、面白くない。生まれながらにして、生粋の戦闘狂――死狂いである彼は、唯一の腹心であるオクトーを連れ、夜へ傾く街の中へ…
2019-09-05 14:18:04翌日。 サキは、朝早くからハイカラスクエアへ来ていた。ナワバリバトルをする前に、買い物をしておきたかったからだ。四つのショップが立ち並ぶ、通称「エスカベース」。ここでは、バトルに必要な四大装備が取り扱われている。
2019-09-05 16:17:35まずはブキ。ブキ無くして、バトルに参加はできない。カンブリアームズというショップで取り扱っている。ここの店主は生粋のブキオタクなので、長話に巻き込まれないように注意しなければならない。それ以外は、とても優良だ。
2019-09-05 16:19:41ブキと同じくらい重要なのが、「ギア」だ。専用の防具と言ったほうが分かりやすいだろう。 だが、見た目は普通の服と大差ない。そこらへんに歩いてる若者は、みんなこのギアというものを身につけている。イカにも防具といった見た目のものもあるが、稀少だ。
2019-09-05 16:22:38ギアは、「アタマ」「フク」「クツ」の三種類。アタマはエボシ・エボシ、フクはフエール・ボン・クレー、クツはドゥーラックで、それぞれ取り扱っている。 各ギアごとに、装備することで得られる効果が備わっている。
2019-09-05 16:25:02例えば、射撃時のインク効率を上げたり、インクの回復速度を上げたり、イカ形態の移動速度を上げたり……自身にとってプラスの効果をもたらす。効果の組み合わせで、よりバトルを有利に進められるようにしなければならない。
2019-09-05 16:27:01だが、効果にばかりこだわっていると、コーディネートが壊滅することも。どうせ着るなら、オシャレな服がいいというもの。見た目をとるか、性能をとるか。これが案外難しいというもの。
2019-09-05 16:28:32サキは、できるだけオシャレにしたいと考えている。考えてはいるのだが……今日もレコード屋の店員ルックで攻めている。街中をエプロンでうろつくのはイカがなものかと思うが……彼女より変な格好の人はたくさんいるので、案外大丈夫だったりする。
2019-09-05 16:30:57せめて、脱エプロンしたい。そう思って、フエール・ボン・クレーへと足を踏み入れた。既に何人か客がいる。彼らもまた、吟味しているのだ。 (何かかわいいの、無いかな~) その辺のTシャツなどを、手当たり次第に探る。半袖シャツが好きなので、そのあたりを重点的に。
2019-09-05 16:35:18半袖のYシャツが目に留まった。真っ白で、ワンポイント等の余計なものは何もない。シンプルに、Yシャツ。名前も「シロシャツ」と、非常にシンプルだ。インク回復速度を向上させるらしい。 「いいかも……」 サキ的に、この効果はアリだ。
2019-09-05 16:38:44インクを発射し続けるにも、限度というものがある。背中に背負ったインクタンクが空になれば、弾切れだ。イカ形態になり、時間の経過を待たなければリロードできない。 リロードの時間は短ければ短いほどいいものだ。塗りを生業とする彼女には、当然必要なものとなる。
2019-09-05 16:41:04今着ている「レコヤルックEP」には、メインインク効率アップの効果がついている。射撃時のインク効率を上げることで、弾切れを起こしにくくするもの。これも、塗り専門にはとても嬉しい効果だ。
2019-09-05 16:42:45理想としては、効率アップと回復速度アップを両立させたい。でも、シロシャツを着たら、クツかアタマで効率アップを補わなければならない。 (どっちも、良さそうなのないんだよねえ……) あるにはあるが、外見が破綻しかねないタイプのものしかない。どうしたものか……
2019-09-05 16:44:12(新しいクツ、買おうかな?) お金は有り余っている。一足二足買い足したところで、彼女の財布が干からびることはない。とりあえず、シロシャツを購入して店を出る。そしてそのまま、隣のクツ屋、ドゥーラックへと入店。
2019-09-05 16:46:15やはりこちらにも、既に客がいる。皮やビニールを混ぜたような、靴屋独特の香りの中、理想のクツを求めて物色する。 (これはデザインがいいけど、全然欲しくない効果だし……あ、この効果はいいかも!でもなーんかダサいなあ……シロシャツには合わないし) 自然と眉間に皺が寄る。
2019-09-05 16:48:26