10周年のSPコンテンツ!
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イカゴジラ @pascal_syan
翌日。 目覚ましの音。ベッドから手が伸びて、少しさまよった後、目覚ましを叩く。 大きく伸びをしながら、ゆっくりと身を起こす。ねぼけた目を擦りながら、カーテンを開ける。日差しが部屋全体に広がる。パジャマ姿のサキが、とぼとぼとベッドから離れていく。
イカゴジラ @pascal_syan
トーストを噛りながら、テレビをちける。牛乳で流し込んで、朝ごはんは終わり。洗面台で、くしゃくしゃになった髪の毛を整え、パジャマを脱いで、いつものあのエプロンを羽織る。 あ、歯磨き忘れてた。ブラシに歯磨き粉をつけて、シャカシャカ。 居間のテレビの音が、かすかに聞こえてくる。
イカゴジラ @pascal_syan
『あと1ヶ月ほどで開催です。サイキョー杯、チームエントリー受付、お待ちしています!』 『注目選手たちも続々とエントリーしていますよ~』 『いやー実にユニークですね、特にこの、……ん?彼女、見たことない方です。どんな方でしょうか?』
イカゴジラ @pascal_syan
『んー、それがその……よくわからなくて。メジャーでないことは確かですが』 『あのシグルイ氏が選んだのですから、きっと優秀な方なのでしょう』 『ウデマエはCだそうですよ』 『ええ……?』 サキは歯を磨きながら、ぼーっとその映像を見ていた。 誰のことを喋ってるんだろうなー、と。
イカゴジラ @pascal_syan
いや。 これ、自分だわ。 テレビにでかでかと、自分の顔が出ているじゃないか。 昨日、チームに入れてもらったんだし、当たり前のことだよなあ。 当たり前のことだ。 当たり前の…… 「……んん゛!?!?!?!?」 歯磨き粉が逆流した。
イカゴジラ @pascal_syan
夢じゃない。夢ではないのだ。 昨日までそのへんで干からびたイカのような生活だった。そう、昨日までは。 今日からは、干からびたイカでいられないのだ。 そう、だって自分は…… テレビに出るほどの、有名人になってしまったのだから。
イカゴジラ @pascal_syan
「こ、……こんな格好で、街出るの、ヤバくない?」 真っ先に心配したのは、それ。いつものレコード屋ルックでは……正直イカしてない。ヨーコ、オクトー、シグルイ……全員めちゃくちゃにオシャレだ。この際、性能は無視してオシャレになるべきだ!
イカゴジラ @pascal_syan
向かう先はエスカベース。この間買った、シロシャツに合うコーデを揃えよう!まずは、フクの次に目立つ、アタマを買わなければ。 正午近く。ショップへ入るサキ。オシャレでイカした帽子、ありますようにーーーー!
イカゴジラ @pascal_syan
「なんで今日イロモノばっかなんだろう……」 ギアを取り扱うショップの品揃えは、日替わりだ。昨日買えたものが、次の日には無くなっていた……なんてこともよくある。 そして……イロモノばかりが揃う日も、よくある。
イカゴジラ @pascal_syan
なんで自転車のヘルメットと水泳のゴーグルだけが並んでいるんだろう。分からない。なんでだ。とにかく、今日はいいものがない。出直そう。店内から立ち去る。 アタマがダメなら、クツだ。クツならきっと……希望を胸に抱いて、店の中へ。
イカゴジラ @pascal_syan
クツは、なかなかいいラインナップのようだ。サキの好みにフィットするような、スポーティなデザインのものがずらりと並んでいる。 これは、いい。全部買ってしまいたい。でも、大荷物になってしまう。多くても二足に絞らなければ。 だが、それがなかなかむずかしかったりするのだ。
イカゴジラ @pascal_syan
「うーん……」 真剣に悩むあまり、眉間に皺が寄る。心なしか、店内の客がサキを避けていく。 まずい、そんなに変な顔しちゃってたかな。試着用のミラーを覗き込む。 その、背後に。 何か。 いる。
イカゴジラ @pascal_syan
「いいものは見つかったか?」 「ホ、ホッホホッ……ホギャアアアアアアア~!!!???」 間違いない。シグルイだ! 「……俺を心霊の類だと思っているのか?」 「だ、だ、だってほんと、ほ、ホラー映画みたいじゃないですかあ!!??」 「面白い反応だな。今度オクトーにもやるか」
イカゴジラ @pascal_syan
客が引いていったのは、サキのしかめっ面ではなく、シグルイが原因だったのだ。 彼ほどまでのスターとなれば、逆に、人が、寄らないのだ。 近づくことなど恐れ多い。ましてや、話しかけることすらおこがましい。サインや握手なんて……考えただけで、羞恥心で自爆しそうである。
イカゴジラ @pascal_syan
彼が歩くだけで、人が避けていく。まるで、神話に語られる、モーセの奇跡が如く。 やはり、オーラが違う。後光だ。後光が見える。やっぱり眩しい。直射日光が服着て歩いてる。そんな感じだ。彼の隣を歩くサキは、もう、なんか、日焼けを通り越して、自然発火しそうだ。
イカゴジラ @pascal_syan
「いつもあれをやるのか?」 「えっ……?」 とんとん、と、売り物の靴の踵を叩く。昨日の、靴脱ぎ事件(?)のことを指していた。 「あれは……最終手段です……ナワバリでは絶対やらないって……決めてたのに……」 顔から火が出そうだ。 「ほう。ということは、昨日のあれは『レア』か」
イカゴジラ @pascal_syan
「そうまでしないと、逃げ切ることなんてできなかったので……」 「お前の底力を見れたというわけか。いい収穫だった」 これ、喜んでいいやつ…なのだろうか?意地の悪そうな、そうでもなさそうな笑みだ。もしかして… 「からかわれてます、私…?」 「お前の解釈に任せるぞ」 からかわれてるじゃん!
イカゴジラ @pascal_syan
相手がシグルイだ、怒るに怒れない。なんか、もう、どうしていいかわからない。なんでチーム組んで1日目に、国宝級の人にからかわれてるんだ?なんなんだこの空間は! ショート寸前なサキをよそに、流れるような動作でクツをレジへ持っていくシグルイ。 自由だ。この人、めっちゃ自由だ!
イカゴジラ @pascal_syan
「持て」 紙袋を渡される。わぁい、スターの荷物持ちに転職だ。 「お前のだ」 「えっ」 紙袋の中を覗く。一番いいかも!と思っていたやつだ。 「い、……いいんですか!?」 「脱いでもいいぞ?」 そういうことじゃなくて!!
イカゴジラ @pascal_syan
「あ、ありがとうございます、大事にします……」 「脱ぐつもりはない、と」 「当たり前じゃないですか!!!」 「残念だな……」 「さっき最終手段って言ったの忘れてます!?ねえ!?」 スターに思い切りツッコミを入れる女、サキ。
イカゴジラ @pascal_syan
「出会って二日とは思えんな」 店から出る。 「ええ、本当、そう思います……」 二日目にしては、妙に会話が弾む。 「たぶん、ヨーコで耐性がついたのかも……?」 「そういうことか」 対 人気者耐性。このチームに所属するなら、否が応でも必要になるだろう。
イカゴジラ @pascal_syan
そういえば、彼の右腕のオクトーがどこにもいない。マスコミ情報によれば、常に連れ歩いてるそうだが…… 「あの、オクトーさんは?いつも一緒にいるって聞いてますけど」 「そうでもない。オクトーも一個人だ。自由な時間を与えてやらなければ」
イカゴジラ @pascal_syan
確かに、ずっとそばにいたら、プライバシーもプライベートもなくて窮屈だ。 「とはいえ、……大方、どこかの物影から見ているだろうな」 「えっっっ」 キョロキョロと周りを見渡す。 「簡単には見つからんぞ。なにせ、俺にも見当がつかん」 「ええっっっ……??」
イカゴジラ @pascal_syan
「でも、見られてることは分かるんですね?」 「まあな。勘だ」 勘ってすげー。 「気にするな。心配性なだけでな。見てるだけで何もしてこないさ。まあ、……お前が俺に何かすれば、行動を起こすかもしれないが」 親指で首を掻き切る動作。 「絶対しません……」 「よろしい」
イカゴジラ @pascal_syan
「……ところで、このあとの予定は……?」 「ナワバリだ」 「奇遇ですね、私もそうしようと思ってて、」 「都合がいい。組むか?」 サキの返答よりも先に、 「いや、組んでもらおう。味方としてのお前も見ておきたいからな」 「は、はいっ……!」
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