ぱすイカ二次創作⑥

オクトーくんはかわいいね 書いたもの:https://togetter.com/id/pascal_syan
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ぱすかる❄ @pascal_syan

「太陽って、知っているかい?」 少年の目の前に差し出されたのは、白黒の写真。 「これはね、大昔の人が撮った、太陽の写真だそうだ。」 「父さん、太陽って白いの?」 「……実はね、父さんも分からないんだ。母さんだって、他のみんなだって知らないことなんだよ」

2019-09-09 08:35:26
ぱすかる❄ @pascal_syan

「みんな、太陽を見たことがないの?」 「そう。父さんたちはずーっと、地下深くで暮らしているからね。……なあ、オクトー。太陽を見てみたいと思わないかい?」 「……うん、見てみたい」 「そうかそうか。じゃあ今度、見に行こうじゃないか。母さんも連れていこう」

2019-09-09 08:37:10
ぱすかる❄ @pascal_syan

「ピクニックみたいだね」 「いや、キャンプだ。キャンプをしよう。寝泊まりできるように、いろんな荷物を持っていくんだ。食料、テント、寝袋、それから……」 「ねえ、それ、いつ行くの?」 「そうだなあ。思い立ったが吉日とも言うし……今日行かないか?」 「き、今日!?」

2019-09-09 08:39:31
ぱすかる❄ @pascal_syan

「あとはオクトーの荷物だけよ」 「母さん、もう準備したの……?ど、どうしよう、まだなんにもしてないよ……」 「うふふ、大丈夫よ。母さんも手伝ってあげるから」 「忘れ物はないかい?」 「うん!」 「じゃあ、行きましょう。太陽を見に……」

2019-09-09 08:43:04
ぱすかる❄ @pascal_syan

「いたぞ!捕まえろ!」 「父さん!母さん!」 「行け……行くんだ、オクトーッ!」 「い、いやだ!」 「お前、だけでも……行くんだ……!」 「母さんたちの代わりに……夢を……叶えて……」 「う、うっ、ぐっ……なんでっ……どうして……う、うぐ、うっ……!!」

2019-09-09 08:46:01
ぱすかる❄ @pascal_syan

「うわああああああっ……!!」 悪夢から逃げ出すように、飛び起きた。 「はあ、はあ、はあ……」 全身にこびりつく、脂汗。荒い息を抑えようと、必死になる。 ふと、カーテンの隙間から、朝日が差しているのを見つけた。動悸を押さえつけながら、カーテンを開ける。 眩しい光が、目に焼きついた。

2019-09-09 09:06:22
ぱすかる❄ @pascal_syan

「……今日の太陽は、白いよ」 自室には、オクトーただひとり。その言葉は、ここにはいない誰かへと向けられたもの。 答えは返ってこない。 運が悪ければ、二度と…… いや。 オクトーは、窓を開け放つ。強い風が、嫌な汗も余計な思考も吹き飛ばしてくれる。 「いつか、会える。きっと……」

2019-09-09 09:12:28
ぱすかる❄ @pascal_syan

「オクトーさん、おはようございます」 「おはようございます」 オクトーとシグルイは同居している。そして、シグルイの家は……控え目に言っても「豪邸」だ。当然、使用人の類いも雇っている。ボスに拾われてから、自分よりもずっと年上の大人たちに囲まれて生きてきた。敬語が馴染むのも早かった。

2019-09-09 09:34:18
ぱすかる❄ @pascal_syan

使用人たちの朝は早い。インクリングは早起きが苦手な者がとても多いが、訓練された使用人たちは当たり前のように早起きができる。いや、しなければならない。早くから準備をしていないといけないのだ。 そう、特に、食事だけは……!

2019-09-09 09:44:26
ぱすかる❄ @pascal_syan

朝の厨房は戦場だ。あの驚異的な食事量をスムーズに提供するために、どれだけの人材と時間を投入しなければならないか……想像に難くない。自宅でもこうなのだ、外食などしたらどうなるか。ボスの食事量に耐えられる飲食店は数少ない。サキとこの間行った店もそのひとつだった。

2019-09-09 09:48:44
ぱすかる❄ @pascal_syan

オクトーの食事量は、平均的なタコ男子のそれと同等だ。だが、主のそれと比較したら、とても少食に思われてしまうだろう。 大きなテーブルに乗せられた、豪華絢爛な朝食たち。そのほとんどがボスのものだ。これを、短時間で、実に上品に平らげていくのだ。はっきり言って怪物である。

2019-09-09 09:53:46
ぱすかる❄ @pascal_syan

「おはようございます、ボス」 「おはよう」 二人同時に席につく。 ボスの銀の双眸が、オクトーをじっと見つめる。 「いかがされましたか?」 「顔色が優れないようだが」 何年も共に過ごしていれば、お互い、変化にすぐ気づくだろう。 「……少し、夢見が悪かっただけです」 「そうか」

2019-09-09 10:02:33
ぱすかる❄ @pascal_syan

「ご心配には及びません」 「ふむ。その寝癖もか?」 「なっ!?」 慌てて頭を押さえる。きちんと整えてきたはずなのに! 「ふふ、嘘だ。いつも通りだぞ」 「ボス……!」 ボスは、人をからかうのが趣味だ。生真面目なオクトーは格好の的である。

2019-09-09 10:07:48
ぱすかる❄ @pascal_syan

だが、それに救われているのも事実。脳内にまとわりつく昨晩の悪夢が、さらりと消え去った。 ボスは、オクトーの過去を知っている。彼が時々、過去のことを悪夢として見るのも、察しがついている。 齢15にして、両親と離ればなれになってしまったのだ。無理もない。

2019-09-09 10:33:48
ぱすかる❄ @pascal_syan

それでもオクトーは、何事もなかったかのように振る舞う。敬愛する主君に、心配などかけられないからだ。 シグルイはその精神の強さに感服している。同時に、いつかその強さ崩れてしまったときのことを危惧していた。自分の気持ちに、無理やり蓋をしているようなものだから……

2019-09-09 10:42:20
ぱすかる❄ @pascal_syan

弱音など、いくら吐いてくれても構わない。受け止めて、また立ち上がれるように力を貸してやるのが、主君というものだ。いざというときに支えになってやれるのは、地上において、シグルイただ一人だ。 だがその真意は、一言も表に出さない。出したら出したで、それもまた負い目に感じてしまうだろう。

2019-09-09 10:47:42
ぱすかる❄ @pascal_syan

だから、いつも通りに。平静に。目立つアプローチはしない。だが、目線は常に、オクトーに向けておく。彼を右腕に選んだ理由のひとつも、このあたりに由来するのかもしれない。 「……さて」 朝食を終え、会話を切り出す。 厨房の方では、皿洗いという第二の戦争が勃発しているのは言うまでもない。

2019-09-09 10:52:39
ぱすかる❄ @pascal_syan

「お前には一つ、仕事を頼みたい」 「何なりと」 テーブルに置かれたのは、大判の冊子。表紙には、「クマサン商会」の字。 ナワバリバトル受付ロビーの隣に、怪しい雰囲気を放つ建物が建っている。目立つ場所にあるので、スクエアに通う若者で、見たことのない者はいないだろう。

2019-09-09 11:07:38
ぱすかる❄ @pascal_syan

それが、クマサン商会。常にアルバイトを募集してあり、ニュース番組の一角やテレビCM、該当ポスターからネット広告まで……様々なところでその名を目にする。 その仕事内容は、「イクラ集め」としか書かれていない。若いスタッフが多く、明るくてアットホームな職場……らしい。

2019-09-09 11:11:15
ぱすかる❄ @pascal_syan

建物といい、バイトの内容といい、どう見ても、怪しい…… 「調査、でよろしいでしょうか」 「まあ、そうとも言えるな。ここは……」 「サキさんの勤務先だと伺っております」 「流石だな。その通り」 「彼女の経済力の高さには、以前から興味を持っていたので」

2019-09-09 11:15:56
ぱすかる❄ @pascal_syan

「彼女の『勤務態度』というのを知りたくてな。同行して、様子を探ってきてほしい」 「かしこまりました」 「そのマニュアルはお前にやろう。よく読んでから出向くといい」 「ありがとうございます。しかし…どこで入手されたのですか?」 「さてね。気がついたら本棚に入っていたさ」 「……?」

2019-09-09 11:18:52
ぱすかる❄ @pascal_syan

「危険だが、保証は手厚い。お前にとってもいい経験になるだろう」 「……待ってください。なぜそう言い切れるのですか?まさか……」 「ふふ」 悪戯っぽい笑みが、言葉の先を遮る。 「俺の大事な右腕を、未知の世界にいきなり放り込むわけにもいかないからな」

2019-09-09 11:22:38
ぱすかる❄ @pascal_syan

「……と、いうわけで」 クマサン商会の前に、二人の男女。 「同行してもよろしいでしょうか?」 サキはオクトーの手を掴んだ。 「ありがとうッッッ……ございますッッッ……マジ助かりますゥゥゥゥッッッッ……!!!!!」 なんだか今にも泣きそうな目だ。

2019-09-09 11:57:08
ぱすかる❄ @pascal_syan

「サキさん……」 「あ、すいません。嬉しすぎてつい……」 サキはオクトーの手を離す。 「前から言おうと思っていましたが、私に敬語は使わなくていいです。私の方が年下ですので」 「えっ、マジで?いくつ?」 「15です」 「うっそ!?!?二個下だったの!?」 タメ口への切り替えが早い。

2019-09-09 12:00:24
ぱすかる❄ @pascal_syan

むしろそのほうが都合がいい。 「い、意外だなぁぁぁ、すごく大人っぽく見えるから……」 「よく言われます」 「でも、遠慮とかしなくていいから。私、敬語とか呼び捨てとか全然気にしないから、楽なしゃべり方でいいよ!」 「敬語が一番楽ですので……」 「そ、そっかあ」

2019-09-09 12:02:10
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